戦神とテレビゲーム
数日後、ナッコフは本棚一杯の異世界無双系ラノベを読み切っていた。
パタンと最後の一冊を閉じる。
「読了」
「ご主人様、どうでしたか? って、姿が若返ってきているので聞くまでもありませんね」
いぬっちは本棚の上に置かれたツノデカVTuberアクリルスタンドを肉球でイジりながら、ナッコフに話しかけていた。
そのナッコフは満足げな表情だ。
「うむ、どれも素晴らしい作品だった。異世界でスキルや魔術の才を得て、どんな敵に対しても無双していく……。まるで我の若い頃の日常のようでホッコリしてしまった」
そこで四角いアシモンがいつものように機械的なツッコミを入れた。
「普通の人類は異世界無双物を、そういう日常物の視点で読まないのだ」
「ふふふ……ご主人様は今でもお強いが、若かりし頃はさらに無双していたのだ。それこそ神々が手を焼くほどにな!」
「この若い姿は強すぎて加減が難しいから好きではないがな」
ラノベを読んで活き活きしたナッコフの若々しい姿は、誰が見ても銀髪の美男子といえる。
シワがなくなった肌はすべらかな陶器のような白さであり、甘いマスクと声は神も羨むの人外的な美しさを誇る。
人間だけでなく、女神までも求婚してきたがすべて断ってきた。
それが原因で起きたトラブルは一つや二つではないほどだ。
苦い思い出が脳裏によぎると、すぐ顔にシワが増える。
「お、ようやく現在の姿に戻ったか」
「私はどっちの姿も好きです」
「ボクは人間の醜美はわからないから、どっちでもいいのだ」
いぬっちは人間に寄り添う存在として様々なものを理解しているが、AIであるアシモンは良くも悪くも外見では判断しないということだろう。
「ところで異世界無双系ラノベを読んでいて多出する言葉があったのだが……〝ゲーム〟とはなんだ?」
「ご主人様、〝ゲーム〟とは石蹴りや、お手玉といった子供がする遊びなのでは?」
「いや、何かニュアンスが違うようだった……。アシモン、わかるか?」
「解説はこのアシモンに任せるのだ。百戦錬磨のベテランなのだ」
「おぉ、よろしく頼む!」
いつものようにメカニカルなアシモンの腹カバー部分がパカッと展開して、液晶モニターが現れた。
「マスターたちの世界には機械がないと思うから、今回は少し詳しく説明するのだ」
「うむ、配慮助かる。こちらの機械は魔術を使ったようなゴーレムなどの方面で、そもそも技術体系が違うみたいだからな」
液晶モニターにはおはじきや、お手玉の画像が映し出された。
「ほら、やっぱり子供の遊びですよ! ご主人様!」
「こういう単純でアナログな遊びが最初にあって、それが段々と進化していくのだ」
最初は身体や声などの人間そのものを使ったゲーム。
そこから身近にある自然物を使ったゲーム。
その物を遊び専用に加工したボードやカードなどのゲーム。
「そしてさらに進化した物がコンピューターゲームと呼ばれる物なのだ」
「こ、コンピューターゲームだと!?」
ナッコフはコンピューターという物を知らなかったが、場の雰囲気で驚いていた。
案外ノリが良いのかもしれない。
「こんな感じのゲームなのだ」
そこには喫茶店のテーブル筐体で、アーケードゲームをしている人々が映っていた。
内容は宇宙人を撃退するシューティングゲームだ。
「な、なんだこれは!? これがこの世界のゲームだというのか!? テーブルの画像が動いている!!」
「いや、ご主人様。そもそも、アシモンのモニターが動いているでしょう」
いぬっちが冷静にツッコミを入れるが、ナッコフの娯楽への知的好奇心は止まらない。
「この最先端の遊び、ぜひやりたくなったぞ……! ラノベの中の主人公たちも、どうやら夢中になっていたらしいしな!!」
「そうおっしゃると思い、今回もゲームがありそうな場所を探しておいたのだ――と言いたいところだけど、少し問題があるのだ」
「ふんっ。ご主人様相手に障害になる事象などあるまい! 軍神ナッコフレディ・アスガルドその人なのだから!」
いぬっちは自慢げにそう言った。
大型犬特有の圧と、つやつやな黒い毛並みに自信満々な赤い眼光。
ナッコフに対して絶対の信頼を置いているのだろうと分かる。
「今までのマンガやラノベと違って、電気が必要なのだ」
「電気くらいご主人様ならたやすい!! ねっ!!」
「……雷神の加護を借りれば、そこらへんのモンスターを消し炭にすることが可能かもしれんな」
ナッコフは冗談でもなく、本気でそう答えていた。
アシモンは機械的にツッコミを入れる。
「消し炭にするような高い電力はダメなのだ。必要なのは一定の電力を安定供給することなのだ。ようするにコンセントを刺せる発電機が必要なのだ」
「発……電機……?」
「でも、この世界の電子機器は大体が略奪されたあとだから探すのは難しいと思うのだ」
「これは困りましたね。ご主人様の強すぎる力が逆にアダとなるとは……」
いくら無敵のナッコフでも、大は小を兼ねないというケースもある。
「うーむ、安定して電気の力を魔剣に宿させる〝雷の魔石〟というのは聞いたことがあるのだが、それでは発電機にはならないか……」
「面白い素材がそっちにはあるのだ。もしかしたらワンチャンいけるかもしれないので、ちょっと持ってきてほしいのだ」
機械に詳しくない自分でも何とかなるとわかり、ナッコフはお安いご用だとばかりに言った。
「よし、それじゃあ我の世界ミドガルで一番高い山に住むという、伝説の幻獣〝雷龍〟と戦いに行くか!」
「……なんか規模がデカデカになってるのだ」




