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引退した戦神ナッコフの悠々自適なダンジョン生活 ~英雄するのは飽きたので今日もソロで資源集めして楽しみます~  作者: タック


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戦神とクソAIM

 覚えてきた地図を頼りに進むと、目的地の廃墟が見えてきた。

 だが、その周辺には泥オークの集団がさまよっていた。


「ご主人様、どうしますか? 大きく迂回して安全な道があるか偵察してきますか?」

「いや、いい。直進する」

「さすがご主人様!」


 ナッコフは、その類い希なる戦闘力を使って、敵がいても真っ正面から戦いを挑む。

 その数が多く、たとえ軍団クラスでも蹴散らしてきた。

 いぬっちは尻尾をフリフリさせながら、これから始まる無双劇を想像してワクワクしていた。


「そのキレイな顔を吹っ飛ばしてやる」


 ターンッ! と銃声が響く。

 遠くにいた泥オークが倒れ――。


「……てない! 当たってないですよ、ご主人様!!」

「妙だな……」


 アサルトライフルを奇妙な格好で肩に担ぎ、スコープを覗き込んで……実際にはスコープがないので、覗き込んでいる気分のナッコフはハテナマークを浮かべていた。

 何発か撃つも、どこにも命中しない。

 もはやただの騒音装置と化している。

 当然のように気付いた泥ゴーレムたちが襲いかかってくる。


「うーむ。弾も節約しないといけないし、大変だな……銃って……」


 大量の泥ゴーレムに殴られ続けるも、ナッコフはまったく気にしていない。


「ご、ご主人様……とりあえずそれをどうにかなさっては……?」

「本当は銃で倒したかったのだが、仕方がない――フンッ!」


 拳一つで泥オークを遠くまで吹き飛ばし、ビルに激突させていた。

 他の泥オークも次々にお星様になっていく。

 いぬっちは思わずツッコミを入れてしまう。


「やっぱり素手でいいんじゃ」

「むっ!?」


 全員倒し終わったナッコフだったが、銃を構え直して決めゼリフを言う。


「ちょろいもんだぜ」

「その銃は役に立ちませんでしたけどね」

「…………目的の品を探そう」

「はい」




 ***




 玄関から入ると中までかなり崩れていて、目的の異世界無双ラノベが無事かもわからなかった。

 瓦礫が敷き詰められた廊下を踏みしめながら、奥へと進んでいく。

 フレームの荷重変形で動かなくなっていたドアを、バキッと無理やり引き剥がして奥の部屋へと入った。


「ここが家主ダックの部屋か? 結構、ここも崩れているな」


 天井が一部崩れているが、上の階の屋根が無事だったので雨もりはしていないようだ。

 さすがに雨が入ってきていたら紙の本は無事では済まない。

 瓦礫に埋もれていない部分を探すと、無事な本棚が一つあった。


「横の本棚は……マンガが入っていたのだろうか。ラノベの本棚だけが無事だな」


 背表紙のタイトルに『異世界』『無双』など多く見られるので、これで間違いないだろう。


「本棚の上に飾ってある写真、これが守ってくれたのかもしれないな」


 そこには大きなツノの生えたキャラのアクリルスタンドがあったのだが、ファンタジー世界からやってきたナッコフは普通に実在していると思ってしまったのだ。


「こんなに大事にしているのだ。娘の写真かもしれないな。名前は……〝ぶいちゅーばー〟さんと言うのか。どこかで生きているかもしれない、これも手がかりとして持っていくか。今は亡き小説家ダックよ、コレクションは貰い受けるが、お主の娘〝ぶいちゅーばー〟と出会ったらその恩を返そう」


 慰霊のために両手を合わせて黙祷した。

 しばらくしてからVTuberのアクスタをポケットにしまって、ラノベが落ちないように本棚を肩に担いだ。

 そのまま帰ろうとしたのだが、いつの間にか隣にいなくなっていたいぬっちが別の部屋から顔を見せてきた。

 ハッハッハと息を荒くして、尻尾を振っているのでテンションが上がってそうだ。


「ご主人様、ご主人様!! キッチンと思われるところに、何やら食べ物っぽい絵が描かれた筒がありました!! これも持って帰りましょう!!」

「ふふ、我と違っていぬっちは食欲の方が勝っているようだな」

「こ、これはこちらの異世界の調査のためで、本来私たちは食事を摂らなくても平気な身体で――」

「良い良い、その〝カップ麺〟とやらを持って帰ろう」


 そうして肩に本棚を担ぐナッコフと、背中にいくつかカップ麺をくくり付けているいぬっちのコンビは帰還したのであった。




 ***




「それは乾燥即席麺なのだ」


 拠点に戻ってきて、カップ麺を見たアシモンがそう言った。


「乾燥即席麺?」

「ラーメンを油で揚げて、中の水分を飛ばしたものなのだ」

「ラーメン……? 絵的には麺料理というやつか。それなら我の世界にもあった気がするぞ」


 ナッコフが住む世界でも、練った小麦粉などを細くして汁に入れたものはある。

 ただ、ナッコフ自体が食に興味がなかったのであまり知らない。


「め、麺料理は作るのに時間がかかるじゃないですか!! すぐに食べたいワン!!」

「いぬっち、少し野生が出ているぞ」

「これは失礼いたしました」


 ナッコフとしてもすぐに異世界夢想系ラノベを読みたいので、時間がかかる麺料理は眉を顰めてしまう。

 そんな雰囲気の中、アシモンがいつものように機械的に説明をする。


「大丈夫なのだ、三分でできるのだ」

「なっ!? 三分で!? どんな魔法で仕上げるんだ!? まさか伝説の時間操作の魔法か!?」

「カップ麺の調理方法に魔法はいらないのだ。お湯を入れるだけなのだ」

「お、おいおい……さすがに我がこの世界に慣れてないからと言って、そんな冗談には騙されないぞ……」


 アシモンが、先に焚き火に焚べて置いたヤカン、それがピー! とお湯が沸いたことを知らせる。

 ちなみに最初の探索でアシモンがあった方が良いと言い、密かにヤカンも手に入れていたのだ。


「お湯が沸いたのだ」

「そ、そのお湯をどう使うというのだ……。いくつの手順が必要に……」

「1,フタを剥がす。2,お湯を入れる。3、蓋をして三分待つ――で終わりなのだ」

「いやいやいや、魔法を使ったり、神の加護を得ても、それで写真にある豪勢な麺料理ができるのは難しいだろう」

「ふんっ、まったく。ご主人様、やはりこのアシモンという鉄くずは馬鹿馬鹿しい戯れ言しか言いません。従魔は私、いぬっちだけで――」




 三分後。

 一行はカップ麺を持って廃墟の外に出てきていた。


「ワォーン!? フタを開けたら、本当に写真の麺料理が出来上がってるワン!?」

「すごいな……異世界無双系ラノベをタイトル毎に分類している最中に出来上がってしまうとは……」

「し、しかし……見た目だけ取り繕っただけかもしれませんよ!! 早いだけで不味かったら何の意味もありません!!」

「ふむ、たしかに」


 アシモンはフォークと一緒に、ホカホカと湯気が立つカップ麺を渡してきた。

 お湯を入れたはずなのに、器がそこまで熱くないのが不思議だ。


「百聞は一見にしかずなのだ。戦神すらも食べた事のないカップ麺を召し上がれなのだ」


 ナッコフといぬっちは、スープを絡ませた麺をズルッと啜った。

 ちなみにいぬっちは、アシモンにフォークを持ってもらってアーンをしている。


「ぬぅ、これは……恐ろしく均一な精度のちぢれ麺に、凝縮された濃厚な鳥の旨みとスパイスが効いたスープが絡んでいる……!!」

「めっちゃおいしいワン!! ……はっ!? 美味、ですね」


 いぬっちは思わず野生に戻り、黒いモフモフ尻尾をブンブン振ってしまっていた。

 ナッコフもカップ麺という簡易食の到達点の一つに唸ってしまう。


「我は麺料理を、ただの伸ばした小麦粉を栄養補給のために水分と一緒に胃に入れているだけかと思ったが、実際に食べるとここまで美味いとはな……」

「そう、材料としては小麦粉や、大豆、鳥などありふれたものなのだ。それらを油で揚げて手軽に食べられるようにしたり、ドンブリではなく使い捨てのカップ容器と一緒にしたり、味を更に極めたり――と人類の叡智が詰まった食品とも言えるのだ」

「そうか……我は人類の叡智を味わっているのだな……」

「だけど、それだけではないかもしれないのだ」

「なに?」


 辺りはいつの間にか暗くなっており、アシモンは星空を指差した。


「星空の下、外で食べているから美味しいのかもしれないのだ。少し肌寒くて、暖かいカップ麺が身も心もホクホクにしてくれるのだ」

「そうかもしれないですね。私は温度の変化など苦ではないはずなのに、とても暖かい気持ちになってきています」

「我もだ。ここで持って来た異世界無双系ラノベのページを開けば……乙なモノだな」


 ナッコフはカップ麺を食べながら、その大きな手には小さすぎる本の1ページ目を開く。


「ふふ、戦神ともあろう御方がお行儀が悪いですね」

「たまには良かろう」


 良い雰囲気だが、アシモンが細い機械の腕でツッコミを入れてきた。


「こんな暗い中で本は読めないのだ」

「我はどんなに暗くてもすべて見通せる目を持っているから大丈夫だ。これで夜襲してきた魔王軍の一個師団を返り討ちにしたこともある」

「……マスターの方が無双系ラノベより無双しちゃってるのだ」

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