戦神とレトルトカレー
「それにしても、この拠点はなんなのだ? 日本のこの地域に、こんなファンタジーっぽい建物があるなんて不思議なのだ。しかも周囲は計測不能の隔絶された空間なのだ」
アシモンは拠点の中をキョロキョロと見回している。
ナッコフとしては不思議ではないのだが、改めて言われると特殊な空間のように思えた。
「ダンジョンのモンスターが入ってこない安全地帯にあった家だ。これで踏破済みの各階層へ移動もできたりする」
「本当にファンタジーなのだ。ロボットらしく言うと、とっても非科学的なのだ」
家といっても、古代遺跡風の建築物に勝手に住み着いている感じではある。
オシャレな家具もないが、ナッコフは常人離れしているので硬い石床の上での寝心地も気にしない。
「まぁ、すでにナッコフたちがおかしいから気にしないのだ。それよりも今日はカレーを作るのだ」
「カレー? 聞いた事ない食べ物だな」
「日本……というか地球ではメジャーな食べ物なのだ。パックご飯とレトルトが家にあったからもらってきたのだ」
「パック? レトルト?」
アシモンは焚き火を湯を沸かしてから、両方を放り込んで湯煎をした。
ちなみに焚き火の木材は廃墟から拝借して、水は拠点の湧き水を使った。
グツグツと煮えているのを眺めながら、ナッコフは疑問を口にしていく。
「容器や袋ごと煮て平気なのか……?」
「そういう技術が使われているから平気なのだ」
「すごいな……地球……!!」
ナッコフは眼をキラキラと輝かせていた。
しかし、それが気に入らなかったのか、ドッグフードを食べ終わったいぬっちが言う。
「ふんっ、乾燥していたドッグフードならともかく、米は何年も経つと無理だろう。今から炊くのだろうが、どんな酷い物ができるのか楽しみだな」
「米はそっちの世界にもあるのか」
「ふん、馬鹿にしおって。ドッグフードが美味かったからといって、カビた米など食べさせられん」
「カビてないのだ。それにもう米は炊いた状態なのだ」
「なに!?」
アシモンは鍋の湯を流して、パックご飯とレトルトカレーを取り出した。
パックご飯開けてを先に皿に盛る。
「なっ、これは……これが米だというのか!? まるで宝石の如き輝きではないか!?」
数年も放置されていたとは思えない艶やかで、一粒一粒が立っている米。
ナッコフといぬっちは驚愕に眼を見開いていた。
「次にカレーを――って、先にご飯だけ食べちゃダメなのだ」
ナッコフはスプーンを手にご飯を一口、ピシャアと稲妻が走ったような顔をしている。
「う、美味い……。臭みが全くなく、むしろ米の香りが、噛んだ瞬間にほのかな甘みを後押ししてくる……」
「そこにカレーをドバーなのだ」
「あぁ!? 泥のようなものがご飯に!! ……しかし、なんだこの食欲をそそるスパイシーな香りは……。優しい米を覆い尽くす邪悪の権化のような見た目なのに……」
「酷い言い草なのだ。実際に食べて謝るのだ」
それを見ていたいぬっちが、犬特有の微妙に濡れた黒い鼻でフッと笑った。
「戦神ナッコフレディ・アスガルド様は、五歳にして竜殺しを成し遂げてその血を浴び、十歳で人魚の肉を食べて空腹などの欲を解脱した御方だ。米に感心したのは元のミドガル産の物との違いに驚いただけに過ぎない。こんな名も知れぬ茶色くドロドロしたモノに感情を動かされるはずもなかろう」
「ウーマーイーゾー!!」
「……は?」
拠点内をビリビリと震わせるほどのナッコフの声に、いぬっちはキョトンとしていた。
「肉の旨み、野菜の旨み、米の旨み、それらが渾然一体となっている……。それに加えてスパイスの風味と辛みがガツンときて、いくらでも食を進めようとしてくる……!! 思わず踊りたくなってしまう!!」
「ご主人様!?」
ナッコフはいぬっちの前足を手に取り、急に踊り出した。
その筋肉から繰り出される舞は、プロのダンサーも顔負けの機敏さだ。
「きっとカレーが美味かったので勝手に身体がインドのダンスを踊り始めたのだ」
「そんなのってある!?」
振り回されるように踊っているいぬっちはツッコミを入れるが、そうなっているので仕方がない。
「素晴らしい、素晴らしいぞ、地球の食文化!!」
「あれれ、何かマスターの姿が若々しくなっているのだ。物理的に」
「どうやら我の心ときめくようなことがあると身体が一時的に若返るらしい! 得がたい経験だ!!」
ナッコフがダンスのフィニッシュを決めたところで、大きな声で宣言した。
「決めた! これからは資源集めをして、色々なものを楽しむことにしたぞ!!」
「ご、ご主人様がそれでいいなら、いいですが……」
ダンスに付いてこられなかったいぬっちはフラフラだが、ナッコフが楽しそうなら良しとしていた。
彼の英雄は我欲を捨ててまで世界を救ってきたのだから。
「美味い! カレー美味い!」
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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<(_ _)>ぺこり




