表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

ユリウス殿下とノア

(おかしい……)


公爵家からの帰り道。馬車の中で、ユリウスは一人ため息を吐いていた。


ダントス公爵とミーニャ公爵夫人に門前払いをくらい、ユリウスの頭の中は疑問符でいっぱいだった。

何故自分が彼らに怒られるのか、なにか行き違いがある気がする、とユリウスは一人考える。


――そもそも、この婚約破棄はノアのために仕組んだ事だった。


ノア聖女が戦いの際、目と足に重症を負ったと聞き、ユリウスは胸が張り裂けそうな思いをした。

それこそ、美味しいはずの宮廷食が、味もせず喉を通らない程に――――。


帰ってきたノアを見て、まず初めに思った感情は「安堵」だった。あぁ、生きていてくれて良かった、という気持ちだ。


しかし次に湧き上がった気持ちは、「不安」だった。

きっと彼女は今、様々な複雑な思いを抱えているだろう。片目を失くし、右足を失い――きっと、その純粋な心までも汚されてしまっただろう。


――――だから、ユリウスは婚約破棄をした。


王妃という重圧を背負わせ、これ以上身を、心を削って欲しくないからだ。


そして、早く聖女という役目からも解放してやりたいがために、新しい聖女であるアリス・ルイーザ伯爵令嬢を迎え入れた。


そうすれば、ノアは安心して、隠居という形で療養できるはず……そう思ったのだ。

そして、ゆくゆくは婚約をし直して、二人で国を収めていければ――なんて思っていたのだ。


だから、ユリウスは疑っていなかった。

その行動がノアを傷つけ、傍から見れば“裏切り”だと捉えられるということを。


(僕はこんなにもノアを愛しているのに……)


ユリウスは一人、はぁと息を吐いていた。





◇◇◇



――――一方、ノーサウス領では、ノアとアンの楽しそうな笑い声が響いていた。


2人は手足をドロドロにして、興味津々で何かを植えている。きらきらと輝く茶色のそれは、じゃがいもの苗だと分かった。


辺りを見れば、他にも人参やきゅうり、ピーマンなどの野菜が植えられているのが分かる。


領地に着いてから、約一月が経とうとしていた。

ノアは腕のいい技師に義足と義眼を発注し、今はそれを待っているところだ。


最初の頃は、下町を回ったり孤児院を尋ねたりと、領主としてやれることをやっていた。


しかし、どこかノアに同情している使用人たちが、「後は私共がやりますので。ノア様は休んでくださいまし」と、半ば強制的に休まされてしまったのだ。


さて、やることが無い。困ったぞ、という所に現れたのが、ノアが幼い頃からの馴染みの使用人、トム爺だった。


トム爺は、ノーサウス領地の屋敷の庭師で、昔からいる古株の使用人である。

そのため領地内ならかなり自由に行動することができ、彼はこの辺境でひっそりと畑を嗜んでいたのだ。


それに目をつけたノアは、ここを内緒にする代わりに手伝わせて欲しいと交渉した。トム爺は笑顔で承諾し、今に至るわけである。


「やっぱり体を動かすのは楽しいわ〜。いつか自分の畑も作ってみたいわね」

「それ、いいですね〜〜!」


普通の侍女ならば、「公爵令嬢が!」と止めるところなのだが……ノアは、アンはこういう所がいいのと、ふっと笑った。


トム爺も座りながら、その様子を微笑ましそうに眺めていた――。



◇◇◇



「さて、大体の作業は終わったわね。次は図書室に行きましょう」

「やったー!お菓子食べましょう」


一通りの畑作が終わり、2人は手足を泉で流していた。


はしゃぐアンを引っ張り、屋敷にある大きな図書室へ向かう。

しかしその途中、思いがけないハプニングが起きた。


「ノアお嬢様!!当主様から、お手紙が届いております」

「お父様から?」

「はい……そしてもう一通」

「もう一通?誰かしら」

「……その……」


執事長のカールソンが歯切れを悪そうにする。そしてたっぷり間を空けたあと、気まずそうに手紙を差し出した。


「……!この紋様は――」

「……はい。王太子殿下からの、お手紙になります」

「……ユリウス殿下からの……?」


ノアが緊張した面持ちで手紙を受け取る。そして、王家紋の蝋を剥がし、内容を見た。


中身は……まぁ王族らしい小難しい文がつらつらと並んでいた。しかし要約すれば、このような内容が書かれていた。


“愛するノア・ライリス公爵令嬢へ”

“お元気でしょうか。僕は元気です。

さて、コスモスが美しく咲く季節になって参りましたね。ノアは今、ノーサウス領で療養しているそうですね。無理せず頑張ってください。”


“追伸…この手紙を出したのは、君に頼みたいことがあるからです。来月、そちらへ向かいます”


「ら、来月……!?王太子殿下がお越しになられるですって!?」


手紙を見た侍女長が顔を青ざめさせる。アンは敵意剥き出しで手紙を睨んでいた。


「また、随分急ですわねぇ……」


ノアは、困った、といった顔で手紙を読み返す。何度見ても内容は変わらず、ユリウス殿下が来月ここを訪れるつもりなのは明白だった。


「ノア様、こちらもお読みくだされ」


カールソンに渡されたのは、両親からの手紙。淡いクリーム色に、コスモス型の蝋が垂らしてあった。

ちなみにだが、ライリス公爵家の紋様は黄色いコスモスの花である。


ノアは手紙を受け取り、愛おしそうにそっと開いた。


“親愛なる我が娘へ”

“あのバカ王子が先日家へやってきた。警戒されたし ダントス父上より”

“ノア!あのバカ王子に注意よ!もしかしたら領地へ向かうとか言うかもしれないわ!気をつけて! ミーニャ母様より♡”


「遅くってよ、お父様お母様……」


図書室の前、広い屋敷に、何人かの悲痛な叫びが響き渡っていた――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ