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それは希望の光だと思った。弱々しい光だったけど

今日は朝夕で2話出しています。

「そうか、歓迎する」

「なんなら歓迎会もするよ。常勤だとあんまり人数いないから、リフターにも声をかけよう」

「ははは、よろしくお願いします」


 ……良かったのかな。

 危険があることがわかっているけど、全体的にはいい話に思える。

 だから決断した。けれど、決断してから不安になることだってある。

 

 僕の表情を見たのか、鴉羽さんが声をかけてくる。

 

「もちろん正式な手続きや、講習もある。その過程で不安は解消できるように努める」

「はい……ありがとうございます」

「まずは怪我を治さないとな。それと、あえて後回しにさせてもらったが――家族への連絡もしておこう」


 軽い調子だった。

 特に問題があると思っていない様子だ。


「家族……あの……」


 とはいえ、両親はいないし、妹には連絡が付かない。

 僕がそのことを話すうちに、鴉羽さんの表情が曇っていく。

 口に手を当てて考え込んでいるようで、黙ったままだ。

 

「あれ? 確か家族のことも調べたって……そのこともご存じじゃ無いんですか?」

「正直なところ、私は……いや一般には君が家族と引き離されて一人暮らしをさせられている、以上のことはわからないんだ」

「どういうことですか?」


 鴉羽さんは神妙な顔で話し始める。


「名家は――ああ、十二家とその分家を総称して言うんだ。彼らは自分たちの内部の情報を明かさない。その秘密は、防衛機密よりも厳重に守られている場合すらある。それだけの貢献を社会に、国に、人類にもたらしているということでもあるが、場合によってはその構成員の所在、あるいは――生死すら表には漏れてこない」

「そんな……戸籍とかどうなってるんですか?」

「例えば大要石の防衛で死亡。その情報を役所に届けることができるか? もちろん死亡後の手続きはあるだろう。そして生命保険や税金、相続の事も必要だ。だが、どれも事情を知らない者が関われば問題になるだろう。だからその辺りを名家内部で処理することになる。戸籍情報すらまとめて裏で直接国とやりとりしている」


 確かにそうか……

 SORAで5人。ならば大要石の防衛戦では、その何倍もの犠牲があっても不思議ではない。

 けれど――僕たちはその死亡記事を一度も目にした事が無い。

 

「だから、壮真くんの記録では、ご両親と妹さんが立原の扱いになり、君だけがそうならなかった。それ以上の事は外部ではわからないのが実情だ。ご両親の死亡は、確認したのか?」

「いえ、全ては祖父を名乗る人と、その部下や弁護士の人がやってきて……有無を言わせない感じでした」

「そうか……となると、ご両親の生死も――これはわからんな」


「そんな……だったら、どうして僕に連絡の一つも……」

「わからん。わからんが……十二家には長期連絡の取れない任務に就いている者もいる。そういう話を聞いたことがある」


 両親が生きている?

 本当ならうれしい。けれど鴉羽さんの話では、それを確かめる手段がない。

 それほどまでに祖父の、名家の壁というのは高いものなのか?

 

「そうだ、妹は?」

「電話などは持っていないのか。たしか中学生だろう?」

「かけてみたことはあるんですが応答がなくて、そのうち解約されたみたいです」

「なるほど、ならばやはり戦力として扱うつもりだな。リフター、いや向こうの用語では守人か。その見習いとして扱われているのだろう。それならば社会と切り離されて育てられることもある」


 柚葉が……戦う?

 そんなの考えたことも無かった。

 あいつはおとなしくは無いが、それでも中学生だぞ。

 

 いきなりそんな世界に放り込まれ良いはずない。

 本人が望んだならまだしも……

 

「……妹が、本人が望んでやってるということは無いんですか?」

「恐らく違うだろう。だったら連絡を取れなくする意味が無い。妹さんの口から言わせれば良いんだから」


 それは……そうだな。

 一瞬、柚葉に嫌われているのかと頭をよぎったが、そうではなさそうだ。

 だけど、そうだとしたら……


「……立原の家があいつを閉じ込めている。そう考えて良いんですか?」

「うむ……そうなる」

「そんな事、許されて良いんですかっ!」


 理不尽に思わず語気が強くなってしまう。

 怪我した頭がズキンと痛む。


 芹沢さんが僕の大声に驚いている。

 それに対して鴉羽さんは眉をひそめたまま微動だにしない。

 

 部屋が沈黙に包まれる。

 朝だからか、部屋の外の音も聞こえない。

 やがて、鴉羽さんが口を開く。

 

「落ち着いて聞いてほしい。許されてしまうんだ」


 僕の様子を見ながら、彼は話を続ける。


「それほどまでに我々は名家に負担を強いてきた。代えの効かない戦力として、多くの守人が死んできた。だから、彼らが『一族』の範疇に入れた者に対しての扱いには誰も、それこそ国でも文句が付けられない」

「でも家族ですよ!」

「そう、だが今は名家の内と外、という扱いにせざるを得ない。仮に君が、そのことをSNSで言いふらして世の中の同情を得ようとしても上手くいかないだろう。最悪、君が秘密裏に始末されることもありうる」

「そんな……」


 怒りを覚えた。

 だけど、それをぶつけるのに適当な相手がいない。

 いや、全てが敵だ。そう言ってしまえるのなら敵はいるんだろう。

 

 だけど、それは意味が無い。

 僕はちっぽけで、無力な、孤独な貧乏学生に過ぎないんだ。

 それでも……家族と遠ざけられるのは理不尽だろう?

 

 そこまで考えて、ふっと体から力が抜けてしまう。

 頭の痛みもどんどんひどくなって我慢できない。

 

 僕はそのままベッドに倒れ込んだ。

 何やら芹沢さんが騒いでいるが、その声も遠い。

 この落ち着いた声は鴉羽さんか……

 

 そんな事を思いながら、僕は意識が遠くなっていった。

 


 *****

 

 

 次に目が覚めたとき、最初に感じたのは匂いだった。

 これは、良い匂い。香水、いやシャンプーかな……

 

「わっ」

「ああっ、びっくりしたあ……目が覚めた? 頭は痛くない?」


 僕の顔をのぞき込んでいたのは、確か……宮代さんだったか。

 あのときと違って眼鏡をかけているので、印象が少し違う。

 

「はい、大丈夫です」

「良かった。なんかまた気絶したって聞いたから、心配したんだよ」

「あ……ああ、まあちょっと……」


 確かに、怪我をして頭を打っているのだから安静にするべきだった。

 だけど、あのときはそうするしか無かったと思う。

 

「支部長もね、気にしてたわよ。もうちょっと状態を考えるべきだった、って。意外とあの人、顔に似合わず気を遣うんだよね」

「はあ……」


 なんか前の時とちょっと雰囲気が違う気もする。

 こんなに勢いよくしゃべる人だったっけ?

 

「あ、ごめん。私はそろそろ勤務が始まるんで、後は別の人が来るから……」

「えっと、今何時ですか?」

「20時半過ぎね……あ、うちはほら、活動が夜メインだから、内勤でも21時から6時の勤務なの。あ、そうだ、うちで働くんだよね? 私は宮代詩織。普段はリフターのサポートをしていて、あと看護師資格があるから昨日は臨時で入ってたんだよ。今日はちゃんと専業の人が来てるから、起きたって言っておくね。じゃあ」

「あ、はい」


 ああ、そうか、化粧をして、眼鏡をかけているのはそっちの仕事だからか。

 それにしても……よくしゃべる人だったな。

 

 その後、別の看護師さんと、お医者さんも一緒に部屋に入ってきた。

 幸い、頭の怪我は2針ほど縫ったが、レントゲンでは骨には異常が無かったらしい。

 明日には帰宅して良いようだ。


 その後、夕食をもらって食べる。

 さすがに本当の病院じゃないので職員の誰かが買ってきてくれたコンビニ弁当だ。栄養バランスを考えたのかサラダと野菜ジュースも入っていた。

 もう頭の怪我を除けば体はほとんど痛まない。

 痛み止めが効いているだけかもしれないけど。


 ただ、念のため今日はここで休み、明日の朝に車で送ってくれるらしい。

 いかにも事務員、といった人が来てその辺りを説明していった。

 

 ちなみに、そのときに秘密を漏らさないという誓約書にサインを求められた。

 サイン、ということでちょっと警戒して内容を全部確認した。

 SORAに入るとかそういう内容では無かったので、安心してサインした。

 

 それが終わると、部屋は消灯され、僕は暗闇の中で天井を見上げている。

 

 どうするか……

 やっぱりやめようかな……


 いや、内心ではすでに決まってる。

 今の生活を良くする、という利害関係を抜きにしても、家族がそんな事に関わっていて、父さんや母さんに至っては今このときも戦っているかもしれないのだ。

 

 生きているなら一度連絡を取らないといけない。妹もそうだ。

 名家の壁は厚いそうだが、なんか方法があるかもしれない。

 

 僕は、この世界に関わり続けていく決意を確認しながら、天井をにらんでいた。



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