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敵は空から舞い降りる。ならば守りは……

 真世界を散歩して変な物を目撃した水曜日。

 体育もあってバイトもある忙しい1日である木曜日。

 そして今日は、一息つける金曜日だ。


 バイトは日曜日だけなので今日学校が終われば、明日いっぱいは休みになる。

 最近毎日予定を詰めていたので、今週末に限っては家でゆっくりしようと思っている。

 そんな金曜の昼休み、僕はいつものように森永、羽山とくだらない話をしていた。


「……で、その敵の居場所が……」


 そういえば、ゲームなんてしばらくやっていない。

 元々それしか趣味が無いわけじゃないけど、一応同級生と話が合う程度にはたしなんでいた。

 今でのあの部屋のどこかの段ボール箱の中に当時のゲーム機が押し込まれているはずだが、引っ越してきてからは一度も触っていない。


「それなら、確か辺境の町の近くにある洞窟を抜けた先の地下神殿だぞ」

「ああ、あそこか……確かに前のクエストで行ったときに奥があるのは知ってたけど敵が強くて引き返したんだよな」


 すごく意外なのだが、ギター小僧である森永も、スポーツマンである羽山もゲームにはかなり造詣が深い。

 さらに羽山はそれに加えて成績もトップクラスなのだから、いったいいつ寝ているのかと不思議に思う。

 なお、森永の成績はイメージ通りだ。「ここから巻き返す」と言っているが、果たして間に合うのか……


「そうそう、その奥にすごく天井が高くて、柱が何本も立った……ほら、あの洪水防止のあれみたいな地下神殿があるんだよ」

「へえ」


 洪水防止、と聞いて思い当たる物があった。


「それって首都圏外郭放水路のこと?」

「ああ、それそれ」


 いざというときに水を流して洪水を防止する施設で、たしか埼玉の方にあったはずだ。

 広く天井が高い地下に柱が何十本も立っていて、それを面白がったみんなが『地下神殿』と呼び始めて有名になった。


「まあ、あそこまで殺風景じゃ無くてちゃんと柱も装飾されていて、奥に玉座があるんだけどな」

「へえ、いかにも重要そうな場所だな……」


 重要な場所。

 地下。

 そこで僕の頭にひらめきが舞い降りた。


「ごめん、ちょっとトイレ」

「いってら-」


 森永の声に手を上げて僕は教室を出る。

 トイレは嘘じゃ無いけど、今頭の中でひらめいたことを考えるために一人になりたかったのだ。


 侵略者はあの逆さ富士から下りてくる。

 ならば大要石が高いところにあるのは不都合だろう。

 逆さ富士の存在を知らなかった時は、大きな城があって、そのてっぺんにでも置かれていると思っていたが、それではいけない。


 もちろん、単に「敵の真下に構えることで即応性を高めている」とか、別の合理性もあり得る。

 だけど――僕の頭に、地下深く、それこそダンジョンの様に入り組んだ地下構造物の奥に鎮座する大要石のイメージが浮かび上がる。

 だとすれば、いろいろの事につじつまが合う。

 

 東京の様な全ての物が密集している場所で、どうやって龍崎が秘密の施設を建設出来るのか?

 そして、その施設が地図を見てもわからないのはなぜか?


 もちろん、地下の大規模な施設を作ることは法律上も労力的にも簡単では無い。

 地下鉄や外郭放水路クラスの工事を、誰にも気づかせずにやるなんて、本来なら不可能に近い。

 だけど、龍崎がやればどうだ? 出来ないとは……言えない。


 その後、教室に戻って、昼休み、午後の授業と、頭の中はそのことで一杯だった。

 上の空、というのでは無く、ちゃんと授業にも気を配っていたが、身が入らなかったのは事実だ。


 いつものごとく、一人で帰宅。

 そして、駅までの道を歩いているときに着信があった。

 道の脇に避けて、僕は電話を取る。


「はい」

「あ、週末はどうする?」

「出動とかは無いんだっけ?」

「そうね、見回り任務は無いわね。自主練はする?」

「あ……いや……今週はちょっと疲れたから休養しようかと……日曜にコンビニバイトもあるし」

「そう、すぐにはやめられないものね。ちょうど良かった。私も今週末は用事があるから、自主練には付き合えないっていう連絡だったのよ」

「あ、うん。大丈夫。そっちの用事を優先して」

「わかったわ。そっちも実戦明けなんだからしっかり休養してね。それと……あのね、あの人は口が悪いからあんまり気にしないで……じゃあ」


 その言葉で、香月さんとの通話は切れた。

 ああ、気を遣ってくれたのか……


 次の日に西川さんに会って話したことは知らないだろうし、真世界でのダメ出しも僕としては納得できる指摘だったから気にしてなかった。

 だから、香月さんが心配してくれたのは意外だったけれど、ちゃんと気にかけてくれることは感謝しないといけないな。


 ともかく、この電話は後押しにもなった。

 昼からずっと考えていた事だったけれど……

 明日は、東京に出向こう。


 僕は、帰りの電車、そして帰宅してからも地図とにらめっこして、怪しい場所を絞り込もうとした。

 もちろん、龍崎家が守っている東京大要石は真世界に存在する。

 だけど、そこを守るためには表層世界から人を送らないといけない。


 前に、SEDが銃の形をしていれば狙いが付けやすいとぼやいた時の事を思い出す。

 香月さん曰く、「銃の形をした物を持ち運ぶと警察に職務質問されたときに面倒」だと答えた。

 さらに、「せめて狙いを付けられる棒が突き出てれば良いのに」という僕の言葉にも、同様に否定的な答えを返した。

 なんでも、「違法トランシーバーと間違われる」そうだ。


 龍崎家のリフター、いや守人も同じ問題を抱えているはずだ。

 SEDやSVAAはSORAが開発したもので、うちでしか使っていないらしい。

 ならば十二家の守人は何を使うかというと、刀や槍、銃などらしい。

 もちろんそれは、そこらにあるような物では無く、真世界の戦いに使える様な特別な物なんだろうが、町中を気軽に持ち歩ける形をしていない。


 その点からも、地下という狙いは当たっているように感じるが、東京には大きな地下街も地下鉄も通っている。

 そうなると、地下が開発されていない場所。

 さらにはその地下を隠し通せる場所。


「考えにくいけど……ここ、か?」


 東京の地下鉄路線の中で、ぽっかり空いた広い敷地。

 そう、皇居だ。


 侵略者は人が多い方に集まってくるらしい。

 だとすれば最初に東京に人が集まり始めた江戸時代。

 そのときとは特に海側で地形が大きく変わっている。


 当時でも100万都市で、一般町人にも知られること無く大きな地下施設を作れる場所と言えば、江戸城しかあり得ないだろう。

 そして明治維新を経て、そこはいま天皇陛下のお住まいになっている。


「だけど、さすがに無断侵入は出来ないよなあ……」


 当然だ。

 日本で一番厳重に守られている場所だ。

 一般人が自由に出入りできる場所では無い。


「あとは、西のあたりか……」


 赤坂離宮から新宿御苑、明治神宮のあたりも候補の一つだ。

 こちらは公園になっていて立ち入れる場所もある。


 ただ、こちらは江戸時代のことを考えると大きな藩邸があった場所なので、そこに『龍崎』という名前がない以上は候補としては落ちるかもしらない。

 それに、地下への出入りを伏せるのに、人出がある場所というのは難点がある。


「西から攻めていくとして……最終的には、やっぱり真世界経由か……」


 心配なのは、東京で真世界に行ったときに、どういう場所に出るのか?

 そして、聞いた話では激戦区であるはずの要石周辺の戦闘に巻き込まれないか?

 もちろん龍崎の守人にも見つかってはいけない。


 先は長い――西川さんに言われたことがよみがえってくる。

 たしかに、もう少し慎重に行くことも一つの手だ。

 だけど……


「ゆず……父さん……母さん……」


 最近折に触れ思い出すことが増えた家族のこと。

 それは両親の生存に希望が出たことも一員だろうけど、でも未だに連絡が無いのに不安も感じている。

 状況は良くない……だけど……

 やはり、今動かないと先なんてない。


 僕は、いつもの上着からピアサーを取り出し、その金属の輝きを見ながら決意するのだった。

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