僕は真実の一端を確認した。それはほんのささいなものだったけど
資料室内は、それほど広い場所では無かった。
本棚が並んでいるような、図書室のようなのを想像していたが、明るい室内の大半はPC端末が並んでいた。
本棚は壁の1面に沿ってあるだけで、スペースとしては小さい。
それでも、全部を読むとしたら何日かかるかわからないぐらいの量はあった。
室内には二人。
両方とも内勤の人のようで制服を着ていた。
一瞬目を上げたが、すぐに手元の作業に戻った。
僕は二人に会釈をして、端末の一つの前に座った。
IDとパスワードは手続きの日に設定してある。
だから、僕でもこれを使う資格はあるし、同時にもらった手引き書にも利用方法が書かれていた。
ログインして最初に表示されるメイン画面には、素っ気ない感じのメニューが並んでいる。
『SORA組織』『装備仕様』『裏世界概要』『日本の戦況』『世界の戦況』と続いている。
装備仕様をちょっと開いてみるとSEDの原理や、魔法の説明などがあるようで興味を引かれたが、それは後でもいいだろう。
何を調べたかは記録される、とあるので、ここは新人らしくSORA組織から見ていく。
さっき西川さんが「一、四、七が東京の西」というような事を言っていたのを思い出し、関東支部配置図を選んでみる。
関東にはSORAの支部が7つある。
第一支部が神奈川方面、第二支部が茨城方面、第三支部が千葉方面、第四支部が東京西部から埼玉、第五支部が埼玉北部以北、第六支部が島嶼部、そして第七支部が第一と第四との間となっている。
1県1支部になっている方面もある中、この近辺だけに支部が集中しているのは不思議だが、必要の無いところに支部は作らないはずだ。
僕にはわからないが、何らかの事情があるのだろう。
次に僕は、日本の戦況を選んで見てみる。
すると、日本地図が表示され、大きな円と小さな円がその上に描画される。
大きな赤い円は、全国で11。そして隅っこに別で表示された沖縄に1。
これが十二家それぞれの守備範囲ということだろう。
そして緑の小さな円がその隙間を埋めるように存在する。
これは、中小の要石の守備範囲ということだろう。
自分に関係のある首都圏付近を見ていて、ふとあることに気づいた。
「千葉と茨城に隙間がある?」
大要石と、それらの地域をカバーする円が重なっている部分はある。
だけど、間にどちらの円にも入っていない部分がある。
この地図に描かれて居ない小要石でもあるのか?
「ああ、それはね――」
いきなり後ろから声をかけられて、心臓が一瞬だけはねるように感じた。
静かな部屋なので、独り言も聞かれていたのか……
振り返ると、さっきまで画面に集中していた職員の人だ。
向き合って思い出した。怪我をした日に来るまで送ってくれた人だった。
それを思い出し、僕は「あのときはどうも」という感じでちょっと頭を下げる。
「――実際にはカバーされてるんだ。龍崎の大要石の場所は推測でしかないし、領域も完全な円ではないらしい。だから円で表示するとどうしてもおかしくなってしまうんだよね」
「へえ……じゃあ逆にカバーされているように見えてもそうじゃない場所もあるんですか?」
「ここだよ。そうじゃなきゃ第七支部は作られなかったさ」
こんなところで支部設立の理由が聞けるとは思わなかった。
「それって放置していていいんですか?」
「いいわけがないんだけど、ちょっと難しくてね。このあたりの防壁はけっこう日によって強いところと弱いところがブレるんだ。必要な要石の規模を推定することすら難しいらしい」
常に安定して存在するものだと思っていたけど違うのか……
「それに、どこから要石を持ってくるんだって話もある。まあ、しばらくはこの支部は全国有数の稼働率だろうね」
それは良いことなのか悪いことなのか。
僕にとっては仕事が増えるからいいのかもしれないが、被害も出ている。
「じゃあ、僕は仕事に戻るよ」
その職員さんは言い残して去って行った。
いつの間にかもう一人もいなくなっていて、資料室には僕一人だ。
これはチャンスかもしれない。
僕は名家の事を調べることにした。
改めて端末の画面に向き合う。
名家――それは日本に十二ある大要石の守りを代々になっている家。
正式には支族十二家と言われ、支、とあるように十二支のそれぞれの動物が名前に入っている。
古くは中国の天干地支から転じて、地支のそれぞれに動物を充てたのが始まりだ。十二家は『地の守り』であると宣言する意味で、そのような名前を付けたらしい。
地の守り。確かに要石はそのイメージにぴったりだ。
先ほど地図で見たように、全国を分担してカバーしている。
それぞれが表でも財力や権威のある集団で、特に人口集中地を担当する家は力を持っている。
東京を守る龍崎家の龍崎総合財団は、直接一般人に関わることが少ないものの、社会的意義の大きい事業に関わっていることが多い。
名古屋を中心に中京地方を守る鷲津家は、自動車大手の鷲津技研を持っていて、一般にも知名度が高い。テレビやウェブのCMは僕も見たことがある。
関西の虎ノ瀬家は、教育方面だ。僕自身は学費の問題で私立は考えもしていないが、名門の私立大学やその付属校、東大への合格実績が高い中高一貫校などが傘下に存在する。
その他の家も、大きな医療法人、大手ディベロッパー、電力、重工業、総合電機、小売り大手など、どの家も一流企業を有している。
逆に言うと、そのような収入源無しには大要石の防衛なんて大事業は継続できないのだろう。
全体のイメージはわかったが、僕が一番知りたいのは龍崎家だ。
僕は画面で龍崎家の情報を呼び出す。
家名:龍崎家
担当:東京大要石(所在地秘匿)
組織:龍崎総合財団
傘下:一柳家、辰巳家、立原家、笠置家……
「なるほど、並べてみればどの家も『りゅう』や『たつ』と読める文字が入っている」
資料にそれらしきことが書かれていたのだが、これは龍崎以外の十二家もそうらしいので覚えておくべきだろう。
だが、逆にSORAとはいえその程度の情報しか持っていないのだ。
もちろん一般隊員で、フルタイム職員では無い僕が見られる様な資料だから、ということもあるだろう。
大要石の正確な位置は国も知りたいだろうし、調べていないはずが無い。
本当に所在地不明なのか? あるいはそれなりに絞り込まれているのか?
国家機密まで知れる立場ならその情報も得られるかも知れない。
僕は、そこで西川さんの顔が頭に浮かんだ。
けれど、当然守秘義務があるはずで、聞いたとて無駄だろう。
だけど、今僕が得られる情報がほんの一部であることは間違いない。
真世界で戦う者――守人というらしい――の数すら概算でしか把握されていない。
いざというときにカバーすることが必要なSORAに取っては知っておくべき情報だが、ピアサーの部品の発注数から苦労して計算した数らしい。
およそ3000~4000人。
20~60歳を現役として最大1学年100人。全員が戦うわけではないだろうからもう少し多いか……
そして、龍崎の支族は小・中学校は完全に内部でまかなっている。
東京都区内にそういう中学校があると考えて間違いないだろう。
ただ、当然どの区のホームページを見ても載っているはずがない。
あとは地図からそれらしい場所を見つけるか……果たして、ウェブの地図でわかるだろうか?
僕は妹の消息について一端の手がかりを得た。そう思った。
だけど、それはほんのわずかな手がかりであることも理解していた。




