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僕は一人で動かなければいけないと思った

「なんか今日、立原元気ない?」

「わかる?」


 明けて次の日、僕は森永と授業の準備をしながら話している。

 羽山がいないのは、選択授業だからだ。


 芸術科目の選択を、僕と森永は書道、羽山が音楽を選択している。

 森永は部活でギターを弾いていながらどうして音楽じゃないのか、と聞いたことがあるが、「俺のやる音楽とは違いすぎてマイナスになりかねない」と返ってきた。


 そういう僕は……もともと、音楽に興味が無い。

 自室で音楽を聴くことなど無いし、スマホにも一曲も入っていない。

 一人暮らしをし始めてわかったけど、僕は音のない方が落ち着くみたいだ。


「……ちょっとバイトで上手くいかなくて」

「そうか……どうせ来年度は出来ないんだろ? 早めにやめたら?」

「そういうわけにもいかないよ。まあ、自分で改善するしかないよ」

「そうだな。やめ癖が出来ても良くないよな」


 そこで先生が入ってきて書道の時間が始まる。

 今日はそちらでもあんまり上手くいかず、書き損じが多く出てしまった。


 その後は、いつもの通りの授業が続く。

 あまり身が入らないのは悩み事があるからだろう。

 僕とはうらはらに、授業の雰囲気はピリッとしてきている。 


 この時期になると、2年でも早期に部活を引退して勉強に専念する人もいる。

 特に文化祭を発表の機会にしている文化系の部活は2年秋を引退と定めていることが多い。


 それでも森永はまだ来年春の発表会まで続けるようだし、羽山も来年まで陸上部を続けるそうだ。

 立派だな、と思う。

 それに対して、僕も負けていられない。


 今までは香月さんがつきっきりで僕を導いてくれていた。

 そろそろ、自分で鍛えたり、知識を求めたりする時期なのかもしれない。

 コンビニバイトは明日木曜日。


 今日は一人で自分の強化を試してみよう。



 *****



「寒いな……」


 相も変わらず一人で帰宅する。


 防寒着を買い換えるべきだろうか?

 ただ、向こうでの活動を考えると弱そうなダウンは避けたい。

 革製とまでは行かずとも、それなりに耐久力のあるものにしたい。


 まあ、今は節約中だからSORAからの給料が入ったら考えよう。

 SORAか……


 正直、昨日の今日であの拠点に顔を出すのは気が進まない。

 きっと、香月さんに会ったら慰めてくれるだろう。

 でも、それが今は余計なものに思えてしまう。


 SORAで活動し、収入を得ること。

 SORAで鍛えて、真世界で戦えるようになること。

 それらは、僕にとって重要なことだ。今後も重要であり続けるだろう。

 香月さんや西川さんに教えを請うのが早道だ。


 だけど、僕の本当の目的は違う。

 妹を、そして家族を取り戻すこと。あるいは消息を確認すること。

 これは、僕自身が動かなければどうしようもない。


 ならばどうするか?


 魔法の扱い方や立ち回り方を工夫する。

 柚葉の……立原、いや龍崎の内部の情報を調べる。

 そのためには……


「行ってみるか」


 僕はいつもと逆方向のホームに向かうのだった。



 *****



 電車は数駅先、あまり乗降客の多くない駅に止まる。

 考えてみれば、支部に行くのに電車を使うのは初めてだ。

 初見の駅なので、本当に正しいか自信が無い――大丈夫のようだ。


 ここからさらに坂の上の支部に行くにはバスがある。

 でも、本数が限られているから不便で、職員の人は皆自家用車で通勤しているらしい。

 この辺りの情報は香月さんに事前に聞いている。


 だが、今回は運良く少ない本数のバスが発車直前だったので、僕は飛び乗る。

 帰りは……最悪タクシーでも呼ぶしか無いかもしれない。


 調査の開始に支部を選んだのには訳がある。

 そもそも真世界の事情なんてインターネットをいくら探したって出てこない。

 ネットワーク化はされているが、それは回線から独立したものだそうだ。


 そして、そこにアクセスする端末も、秘密漏洩の観点から限られている。

 それが設置されているのはSORA関係の支部と本部に限られている。

 いつも顔を出す小拠点などには配置されていない。


 バスは冬空の下を走っていく。

 乗客は近所の住民らしき一般の人が多いが、座席が埋まるほどでは無い。

 僕は、座席に座りながら空を見上げて揺れに身を任せていた。


 支部で降りる客は僕だけだった。

 そりゃ民家から距離を取って建てられているのだから当然かもしれない。


 僕が玄関のゲートに向かおうとすると、向こうから見知った顔がやってきた。

 先方も僕に気づき、軽く手を上げる。


「確か……立原くんだったか。ここに足を運ぶリフターは少ないんだが珍しいな。おや、沙耶ちゃんは?」

「昨日はどうも。いつも一緒というわけじゃ無いですよ」


 西川さん。

 警察官で、なんか偉いらしい。


 今日はリフターとしての仕事では無いのか、きれいに化粧をして髪も結っている。

 昨日は長いコートに、長い髪を振り乱して銃を撃っていたのとは印象が違う。


「どうした、入らないのか?」

「いえ……」


 僕はIDカードをかざし、入り口のロックを解除して中に入る。

 扉が閉まり、ロックが自動でかかる。

 その後で再び解錠の音が聞こえ、今度は西川さんが入ってくる。


「一人で、ということは手続きか?」

「いえ、ちょっと調べ物をしようと思って」

「ああ……」

「その顔は、調べましたか?」

「うむ。私の受け持ちは一、四、七と東京西側の支部なんだが、それほど人の入れ替わりがあるわけでも無いからな。新人の事を把握するのはいつものことだ。だが――」


 どこまで僕の情報が知られているのか?

 少なくとも、「立原」「養子」「一人暮らし」あたりは、基本的な名簿の資料で知ることが出来るだろう。

 一般企業やバイト先ならば別だが、SORAである限りは十二家との関わりを記録に入れていないはずがない。


 西川さんが廊下を歩き始める。僕はそれについて行く。


「――悪いが、十二家のことだと私も力にはなれんな。私は名家とは何の関係も無い血筋だ。幸いにそれなりのリフターの才能と、上に顔が利く身分のおかげでそれなりに権力もある。だが、それでも名家の壁は乗り越えられないんだ」

「そうですか……でも、それを抜きにしても僕には知るべき事が多いと思ってます」

「そうだな。術士は実戦経験だけでもダメだ。ある程度の知識が無いと、なかなく上には行けない。普通のSEDを使っているんだろう?」


 普通の?


「他にもあるんですか?」

「一番広く使われているSEDは標準でM2、拡張アプリを入れてもM3魔法まででそれも全部をカバーしているわけでは無い。まあ、戦士タイプには十分なんだがな――」


 言って見せてくれる西川さんの端末も見覚えのあるSEDmk4だ。


「――だが、M3でも特殊な魔法や、M4以上となるとそれでは間に合わない。記憶容量、魔力変換効率、いろいろ事情はあるが、どうしても万人に合うものは作れない。個々の能力に合わせた特注品が必要になってくる」

「へえ、そんなのが……」

「だからまあ、これから上を目指すなら、とりあえず特注品を支給されるぐらいまで頑張ってみてはどうかな? そこまで上れば、あるいは向こうから声がかかる事もあるだろう」

「向こうから……ですか」


 向こう。当然それは名家から、ということだろう。

 前にD4から勧誘がひどいということを香月さんが言っていた。

 そしてどうも、僕の異世界適正、Durationは4どころでは無いらしい。


 だから無理すれば今、この状態でも名家の目にとまる可能性はある。

 だけど、それはどうなんだろう?

 僕らの家族を引き離し、無茶苦茶にした立原本家、そして龍崎家。

 それらの目にとまってうちに入り込むことが目指す道だとは、僕にはどうしても思えなかった。


「まあ、私としてはずっとSORAにいてほしいと思う。こちらも戦力が欲しいのは十二家と一緒だからな」


 そんな事を言い残して、西川さんは廊下を去った。

 「資料室」のプレートを前に、僕はそれを見送り、ドアノブをつかむ。

 ここからは自分の判断での行動だ。

 そのことを思い直し、僕はノブを回し資料室に入る。



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