表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

それは敵では無かった。だけど、しょうがない

 僕はタフネススマホみたいな端末、SEDmk4を前に突き出し、端末の側面に付いたボタンを連続で押す。

 ボタンの感触は固く、いかにも実用品です、という印象を受ける。


 端末から、光の線が出て草原を飛んでいく。

 少し離れた場所で草に当たった光は、その草を熱して煙を上げる。

 しばらくその姿勢で保持すると、やがて発火した。

 そこまで確認して、僕はリリースボタンを押す。


「うん、良い感じね」

「こんな威力で倒せるんですか?」

「無理ね、せいぜい気を逸らせるぐらい。枯れ木の敵とかいれば別かもしれないけど……」

「いないんですか?」

「敵は異世界からの侵略者なのよ。基本的には移動できるのしか来ないわ」

「なるほど、そうなんですね」


 威力にはちょっとがっかりだったけど、ともかく僕でも魔法が使えることがわかった。そして、真世界限定とはいえ、こうして実際に効果を発揮したことにちょっと興奮していた。


 端末は、側面に3つのコマンドボタン、反対の側面にリリースボタンがあり、実際の戦いではそれを使って魔法を発動する。

 暴発防止のため、3回ボタンを押さないと起動しないようになっており、つまり3x3x3の27通りの魔法ショートカットが登録できることになる。


 これでも十分だと思うけれど、持ち魔法が多い人は足りないこともあるらしく、そういう場合は使用頻度で上位の物を選んで登録するらしい。

 もちろん画面をみてメニューから選べば全部使えるが、敵を前にして画面を見てタッチ操作などしている暇が無い。


「じゃあ、『防虫』は発動したわね。常駐魔法にした?」

「うん、リリースボタンを長押しだよね」


 防虫などは使いっぱなしにしないといけない。

 そのため、常にバックグラウンドで動かせるようにSEDには常駐機能があるのだ。


 同時常駐魔法は3つまで。4つめを常駐しようとしたときの挙動は設定で変えられるけど、今の段階だと関係ないのでデフォルトの設定のままだ。


「よし、じゃあ近所を歩いてみよう」

「この辺りに敵はいないんですか?」

「大丈夫。もし出ても私が倒せる。強い敵は大体要石の方に行くから」


 そうだ、そのことも聞いておかなくちゃ。


「大要石以外の要石ってどうなってるんですか? やっぱり名家の人が守ってる?」

「ほとんどはそうね。だけど、中には十二家以外で代々要石を守っている一族もあるみたい。離島とか、山奥とかね。SORAとしてはあんまり関わることはないかなあ……それに関東一円は大体東京の大要石に向かうから」

「東京……龍崎家の……」


 その名は僕にも関係があり、そして良い関係ではない。


 正確な位置はそもそも龍崎家が秘密にしているが、都心のどこかであることは間違いないらしい。そしてカバー範囲も広大で、逆に言うとカバー範囲の周辺も広くなる。

 全国50のSORA支部が関東に集中して7つも存在する原因がそれであるらしい。


「まあ、そんなわけで、この辺りに来る侵略者ははぐれたか、迷ったか、逃げてきた連中なのよ」

「あの街灯折ってたのは? 香月さんが倒したんでしょ?」

「あれは暴れてたから多分逃げてきたヤツね。八つ当たりでもしてたんでしょ」


 そうか、あれは八つ当たりだったのか。

 

 僕たちは、草をかき分け森の中を進んでいく。

 『防虫』が効いているのか虫刺されはない。けど10月だから元々虫は少ないか……


 急に目の前が開ける。

 遠くまでなだらかな坂になって下っていく一面の草原だった。

 

「あの川のあたりが駅前ね。向こうだと」


 香月さんが指さす方を見ると、遠くに川が流れているのが見える。

 そう言えば車で帰るとき線路が見えたのはあの辺りだったか……


「地形は一緒か……でも、建物が無いとこんな風に見えるんだ」

「そうね、さしずめ人類がいなかった場合の現在の日本の風景ってところね」


 人類がいなかったら……か。あれ?


「虫はこっちにもいるんだよね?」

「そうだよ」

「動物は?」

「いるよ。ほら、人類は話して表層世界に着いてきてもらえるけど、動物はそういうわけにはいかないでしょ? それなりに近場の動物を連れていったらしいけど、全部はとても無理よ」

「そりゃそうだよね」

「中には連れて行ったのが少なくて、絶滅扱いになっている動物もいるみたいだけど、そういうのもこっちじゃ生き残ってたりするらしいよ」

「それって、連れて行っちゃダメなの?」


 絶滅動物が実は生き残っていました、なんてみんな喜ぶニュースに違いない。


「ああ……それはね……」


 香月さんがなにか言いかけたとき、ふと近くで草が揺れる音が聞こえる。

 気のせいかと思ったが、連続して草をなぎ倒し、何かが移動している。


「前に、ダッシュ!」

「え、はい」


 僕は言われるままに香月さんの後に続いて草原に足を踏み出した。

 整地などされていない草地はでこぼこして走りにくかったけど、なんとか転んだりせずについて行くことが出来た。


 見ると、香月さんはピアサーによく似た大きさの、だけど別の機械を出して、それを伸ばした。

 警棒?

 いや、それにしては長い気がする。


「私の後ろに!」

「はい」


 彼女の向こう側に回り込み、近づいてくるそれを見ると……


「タヌキ?」

「真世界の、ね。ちょっと凶暴よ」


 香月さんは、手元のスイッチを押す。

 すると伸ばした部分が光を発し、たちまち中身が見えなくなる。

 最終的に光の棒、いや剣を彼女は両手に構えていた。


「これは、あの映画の? スターなんとか……」

「なんとかウォーズとは関係ないわ。SVAA(セイヴァー)よ。要は長いスタンガンね」


 なるほど、つまり映画のように切れ味が鋭いとかではなく、叩きつけて相手をしびれさせる道具らしい。

 それを現すかのように、時々はぐれた電流が雷のようにバチッと音を立てている。


「とりあえずそこで待機」

「はいっ」


 香月さんは駆け出して、草を踏みしめて大きな口を開け、威嚇するタヌキに走り寄る。

 実際の日本のタヌキよりだいぶ大柄なそれは、接近する彼女の距離を計ると、飛びかかる。

 その跳躍力も、大きく開けた口からのぞく牙も、僕が知るタヌキとは大違いで、それが真世界の生物なのだと実感させられた。


「危ないっ」


 だが、戦闘経験の多い香月さんはその動きもしっかり目に入っている。

 タヌキが飛びかかってくる瞬間に急停止、一歩飛び退いて間合いを取る。

 それはちょうど、剣の間合いだ。


 横から振り切った光の剣が、タヌキの体を捕らえる。

 バチィィと思わず僕も顔をしかめる痛そうな音がした。

 電撃が周囲に広がり、直撃したタヌキは体毛を逆立ててその場に倒れる。


 香月さんは構えを解かない。

 やがて、起き上がったタヌキは、悔しそうな鳴き声を一声発して、一目散に逃げていった。


 そこでようやく香月さんが剣――セイヴァーを下ろし、スイッチを押して光を収める。


「ふう……」


 こちらに振り向いた彼女が、訳知り顔で僕に告げる。


「わかった? タヌキでこれなんだから、絶滅動物の復活なんて無理なのよ」

「……そうだね、よくわかったよ。ところでそれってすごい武器だね。セイヴァーだっけ?」

「そう、SORA Voltaic Arc Arm 略してSVAA。機能は見たとおり。あ、でもこれも真世界専用なのよ。魔法を解析して作ったらしいから」

「それって魔法武器ってこと?」

「微妙ね。これはバッテリーで動いているから。それに魔法ほどいろいろ出来るわけじゃないわ。私みたいな戦士タイプのリフター用の武器ね」


 ということは、術士タイプと言われた僕には関係ないってことか。

 だけど、アプリで呼び出す魔法にしても、この武器にしても、意外と科学って裏で進んでいるんだなあ。


 そんな感想を香月さんに話したところ、彼女はこんなことを言って笑った。


「そりゃそうよ。なんせ世界最高の『真・科学者』がSORAにはいるんだから。知ってる? ピアサーだって30年ぐらい前にSORAの科学者が作って十二家に教えたのよ」

「へえ……すごい人がいるんだねえ」

「あなたも知ってるドクター――芹沢さんのお父さんよ」

「え? そうなの」

「そう、今は本部にいるけど、そのうち会うこともあるかもね」


 なるほど、意外とSORAは未来的な秘密組織だったわけだ。


「さあ、もう帰りましょう。初回の訓練としては一通り体験できたでしょう?」

「そうだね。いろいろわかったよ。ありがとう」


 真世界は異世界の敵だけじゃない。

 実際に独自の生物が住んでいる、自然の生態系なんだ。

 そのことが目で見て初めてわかった気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ