僕の初真世界探訪(2回目)
連れてこられたのは研究所――を装ったSORA関東第七支部の裏の広場。
陸の孤島であるこの場所は、ほとんどが自動車通勤なのか広い駐車場があるが、それとは別に広い空き地がある。
10月の風が抜ける音だけが響く。
人もいなければ人目も遮られているようだ。
建物と森で囲まれたスペースになっている。
そこのど真ん中にある鉄塔を前に、香月さんが立ち止まる。
鉄塔は送電線のそれみたいな高い物ではなく、せいぜい4階建てぐらいの高さで、上に様々なアンテナが付いている。
「これがあるからここは安全なのよね」
「え? でもこれこっち側のアンテナですよね」
「すぐにわかるわ。ほら、ピアサー出してみなさい」
言われて、僕はさっきもらったばかりのピアサーを取り出す。
見れば見るほど折りたたみ傘そっくりだ。だけど布は一切使われて居らず、外カバーも樹脂製だ。
「ボタンは3つ。横にある方のボタンが小さいゲートを開けるものと大きいゲートを開けるもの。で、後ろにあるのが解除ボタン。簡単でしょ?」
「小さいゲート、って何のためにあるんですか?」
「先に周囲を確認するため。こっちから向こうに行くのに敵の目の前だったら困るし、戻ってくる時も目撃者がいたら困るでしょ?」
「なるほど……」
どっちも大事だ。そのことはここまで聞いた僕の知識でも判断でいる。
「今日は省略するけど、mk4のマニュアル読んでおいてね。確認手順はそっちにあるはず」
「わかりました」
あの分厚いマニュアルか……土日でなんとかなるかな。
「じゃあ行くよ」
香月さんは、自分のピアサーを取り出し、開いて構える。
そのまま待っていると、光を放ってやがて空中にゲートが空く。
「10秒ぐらい?」
「そう、10秒。多少揺れても問題無いけど、その場合はゲートが狭くなる。私たちなら問題無さそうだけど……」
僕と目線が合う香月さんは、女の子の平均ぐらいの身長だろう。
僕は男としては低い身長だが、体の大きな人だったら確かにゲートが狭く感じるかもしれない。
「じゃあ私が先に行くから」
そう言ってゲートをくぐる香月さんの後を続いて、僕もゲートをくぐる。
「こっちは草地なんですね」
一面緑で、湿った匂いがする。
「そんな事より気づかない?」
言われて辺りを見ると、すぐに気づいた。
「これ、向こうにあったのと同じ?」
「そう。こっちの世界ではこんな風に各所にアンテナが配置されて、防壁の状態や敵の存在を感知しているの。あと、こっちは人工衛星とかないから、地図アプリもこのアンテナの電波を使っているらしいわ」
目の前にあったのは、支部の空き地にあったものとそっくりな鉄塔とアンテナだった。
真世界にいきなり人工物があるので、場違いな感じがしたが用途を聞いて大事な物だとわかった。
「これって向こうのアンテナとつながってたりするんですか?」
「ああ、それはないの」
「え? じゃああの空き地にあったアンテナは何のために?」
そこで香月さんは指を一本立てて、それを振りながら僕に説明する。
「そこが、真世界と表層世界の重要な関係なの。二つの世界は互いに微妙な影響を与え合っている。例えば、あっち、あの山見覚えない?」
「ああ、確かに」
それは、建物から裏の空き地に出るとき正面にあった山と同じ形をしていた。
まず目に入った鉄塔をすかして向こうにあったので自然と目に入ったのだ。
「大まかな地形は真世界と表層世界で共通している。表層世界で起きた地形変化は真世界でも似たようになるし、その逆もあるのよ。だから、真世界で長持ちする施設を建てたかったら、表層世界でも重なるように同じ物を建てる、って聞いたわ」
その説明に、僕はちょっと納得いかないものを感じた。
「じゃあ、現じ……表層世界の建物も真世界の影響を受けて潰れるのが速いの?」
「そっちの方向の影響は少ないらしいの。私も昔に気になったから聞いてみたんだけどね。ただ、表層世界から真世界は目に見えて影響があるみたいで、都会のビル街とかちょっとした山地みたいになってるらしいの」
「へえ……香月さんは見たことがあるの?」
「ああ、そのことも言っておかないとね。基本SORAは支部の受け持ち範囲外の真世界には立ち入らない事になってるの。上の人なら応援で呼ばれることがあるみたいだけど、私たちには関係ない」
全国で50ちょっと、だっけ。
1県1つと考えると少ないけど、実際には大要石の近くは名家の担当だから、その隙間にSORAの受け持ちエリアがあるらしい。
関東には7つのエリアがあって、つまり第七は新しい支部ということになるそうだ。
「ともかく、このアンテナは重要だから、しっかり場所は覚えておいて。かならずSORAの敷地内にあるから、いざというときの緊急脱出にも使う。常駐している人もいるから緊急時の連絡にも使えるわ」
なるほど、後で確認しておこう。
特に自宅や学校の最寄りの場所は重要だ。
「さあ、じゃあちょっと近くを……と、その前に、mk4出しなさい」
「え、ああ、うん」
僕は真新しい、まだ表面のビニールも剥がしていないSEDmk4をポケットから出す。
一見したところアウトドア系のタフネススマホっぽい見た目だが、よりゴツゴツした作りで、いくつか蓋がある。
「ああ、やっぱり新型は良いわね。あ、ここの蓋を開けるとプローブが入ってるの。げ、これもワイヤレスになってるのか。早く私も新型に変えて欲しいな」
その様子は、新型スマホをうらやましがる妹にそっくりだったので、僕はちょっと可笑しくなった。
だけど同時に、それがつい1年前のことだと思い出し、今の妹の境遇を考えてちょっと気持ちが落ち込む。
「なに?」
「いや……ちょっと……」
「子供っぽいとか思ってる? だってこれ、リフターの必須装備なのよ。安全にも稼ぎの効率にも直結するんだから、最善を求めるのは当然よ」
「……そうじゃないんだ。ちょっとね……妹を思い出して……」
「あ……ごめん……」
あの場にはいなかったが、昼ご飯の時に会話の時間が保たなかったので、僕は簡単に事情を説明していた。
名家は嫌な連中だ、というのは彼女のスタンスらしくて、あからさまに同情されたのが意外だったが、それ以降ちょっと雰囲気が柔らかくなった気がする。
「気にしないで、それで、mk4で何をすればいいの?」
「あ、うん。まず使用者登録してちょうだい」
「え? さっき食堂でID入れたけどあれとは別?」
「あれはあくまでSORAの隊員としての登録で、魔力的な登録があるのよ。それはこっちに来ないと出来ないから、今やるの」
そう言われて、僕は画面のアイコンを探してタップする。
すると、画面にSEDの持ち方が出るのでその通りの姿勢を取る。
両手でSEDの端を持ち、それを下腹部に持ってくる。
「これって丹田、とかってやつ?」
「そうなんじゃない? 詳しく知らないけど」
5分かかる、とのことだったのでその間香月さんが自分のmk3を出して、魔法について説明してくれる。
mk3はmk4とほとんど同じ見た目だったけど、香月さんの手にあるとその無骨さとのギャップが目立つ気がする。
まあ、僕も低身長痩せ型の小さい男だから、ごついスマホ型端末は似合わないんだけどね。
「……こんな風に自分の魔力で使える魔法を自動判定してくれるの。使えない魔法はグレーアウトされてるわ」
そう言われて見ると、ほとんどの項目がグレーだった。
光っているのは『ライト』『拡声』『防虫防壁』だけ。
「防虫?」
「そう、ある意味一番重要ね。これが無いと虫刺されがひどいらしいわ。だから森に入る前に魔法を使えるようにしておきたかったの……あ、終わったみたいね」
指摘されて見ると、確かに完了と表示がでている。
「ちょっと見せて……わっ、ほとんど使えるじゃない――『熱線』『電撃』『感知』……『止血』もあるじゃない」
「それってすごいの?」
「M2でも持っている人と持っていない人がいるの。攻撃寄りだと持っていない人が多めなんだけど、あなたの場合はちゃんとそれもあるから」
「へえ……魔法使いと僧侶みたいなものかな?」
「そうね。両方できる人は賢者タイプって言われてる。将来有望ね」
なるほど、実際にゲームみたいじゃなくても、人の解釈としてゲームみたいな解釈があるんだな。
それにしても賢者か……僕、別に賢いとは思わないけどなあ……




