僕の能力は数値化された。一部は伏せられた
3=1=2。
その数字は、どういう意味を持っているのだろう?
なんとなくあんまり大きい数字ではない気がするけど……あ、
「そう言えば数字って最大いくつなんですか?」
よく考えれば、最初に聞くべきだった。
「最大で9だね。一般人を0として、合計10段階。D、S、Mをこの順でイコール記号で繋いで現すから、君の場合は『スリー・ワン・ツー』あるいは『さん、いち、に』みたいに言う」
「それってどれぐらいなんでしょうか?」
芹沢さんは、ちらっと香月さんの方を見る。
ああ、そういえば僕が使えるかどうか、みたいなことを言っていたな。
「いいんじゃない? D3って事は1時間は保証出来るし……術士タイプなのはちょっと私には教えられないけど、基本の立ち回りぐらいなら教えてあげられる」
「うん。僕も同意見だ。それぞれの数字について説明すると……」
D:3 真世界での活動限界が1時間~4時間
S:1 普通の大人よりは強い
M:2 初歩の魔法は使える
ぐらいらしい。ちなみに、香月さんは4=3=1で、
D:4 真世界での活動限界が4時間~8時間
S:3 人間の限界をすこし超えるぐらい
M:1 魔法はほとんど使えない
だそうだ。
僕がその数字の意味をかみしめていると、何やら香月さんが芹沢さんに聞いている。
「ねえ、崩壊速度測定はしてないの? D3が自力で真世界に移動できるなんて聞いたことなんだけど……」
「もちろんしたさ。だけどその測定数値は伏せさせてもらう。あくまで1時間は滞在可能。その方が誰にとっても都合が良いんだよ。君だって勧誘がうっとうしいだろう?」
「ああ……なるほど、確かにそうね」
なんか不穏だなと思って聞いてみる。
「2つ質問なんですが、まず崩壊速度測定って何ですか?」
「向こうでは人体から魔粒子という成分が消えていくんだ」
「体が消えていく? ちょっと怖いんですが……」
「問題無いよ。約半分が消えた時点で防壁の安全装置が働く。それに本当に体が消えていくわけじゃない。実感は出来ないと思うよ。実は魔粒子はこっちの世界には満ちていて、ただ防壁の作用で観測できないんだ。だからこっちで大体1日過ごせば満タンに戻る」
ふと、気になったのでそれについても聞いてみる。
「魔粒子ってのはさっきの霊子と違うんですか?」
「前者は昔から存在が確認されている。英語で言うとmagitronだね。昔は魔力の正体だと思われていたけど後に否定された。名前にだけ名残が残っている感じだね。後者はまだ仮説の段階で、実在は確認出来ていない。こっちはとりあえずphantumと名付けられている」
なるほど、向こうでの『元気』みたいなものか。活動していると元気がなくなっていくけど、人体から元気という物質が失われる訳じゃない。
「じゃあ、数値を伏せるって何の意味があるんですか?」
「立原くんにも注意してほしいんだけど、D4より上は名家に目を付けられるんだ。向こうの戦力としてはD4だと最低限だけど頭数にはなる。SORAの任務だとD3で十分だろう、D4からは名家に差し出せ。ってな感じなんだよね」
「私もこの前の測定で4に上がってから、知らない電話から良くかかってくるようになったのよ。私はここを離れる気が無いのに、諦めが悪いのよね。しかも十二家それぞれが別々に来るから、断ってもキリがないのよ」
「3と4でそんなに違うんですか? 基準はどうなってるんでしょう」
芹沢さんが説明してくれたのはこうだった。
D1:真世界滞在10分未満
D2:真世界滞在1時間未満
D3:真世界滞在4時間未満
D4:真世界滞在8時間未満
D5:真世界滞在1日未満
D6:真世界滞在1週間未満
D7:真世界滞在1ヶ月未満
D8:真世界滞在1年未満
D9:それ以上
「一年以上……って、そんなの向こうで住めるじゃないですか」
「そうだね。500年前には多くいた。でも、今じゃ本当に少ない。日本だと確か十二家それぞれに1人か2人ぐらいだったはずさ。防壁に守られて、僕たちは真世界への耐性を徐々に失ってきたんだ」
その後芹沢さんが何気なく言った言葉は僕も表情を固くせざるを得なかった。
「D9なんて本当に極わずかなんだ。実は真世界にはずっと向こうで生活している人類、のような者もいる。昔話に出るエルフとかドワーフとかそういう人たちだね。彼らは一生を向こうで過ごす。D値で言えば9の上、研究者的にはオーバーナインなんて言っている。そして、純然たる人間でオーバーナインはまだ確認されたことが無い。だから――立原くん、気をつけて」
「それって……! まさかこの子が?」
「香月くんもいいね? 立原くんはD3だ」
「え、ええ、わかったわ」
そこで、パンと手を叩いた芹沢さんは声のトーンを明るくして続けた。
「S1、M2に関しては気にすることはないよ。確かに低いけど今後の活動次第かな。どちらかが、恐らくMの方だろうけど3になれば十分主力でやっていける」
「私がS3になったのが大体1年弱ね。私も高校入って始めたときはS2だったから」
「え? 香月さんは今高2なんですか?」
「そう、同学年ね……何か?」
「いえ、何でも無いです」
てっきり年上かと……
「ははっ、この子はうちに馴染んでいるから。落ち着きがあるって思われたって事だよ」
僕は全速力で同意する。
高速首振りでちょっと首が疲れた。
「立ち回り方は香月くんに任せるとして、術士か……とりあえずmk4一式を渡しておくか」
「え? 私も持ってないのに……」
「戦士タイプの君が持っていても通信とマップぐらいにしか使わないじゃないか。mk3で問題無いだろう?」
「自動索敵が欲しいのよ。向こうに行ったって敵を見つけるのにほとんどの時間を使うのよ。効率が全然違うわ」
「わかったよ、年末までには用意しておく。今は、それで我慢してくれるかい?」
「しょうがないわね……」
それから僕は、地下室を出て倉庫のような場所に連れて行かれ、箱を2つ渡される。
「こっちがSEDmk4。SORA Enhanced Deviceの第4世代だ。エスイーディ-でもセッドでも通じる。異世界での活動をサポートしてくれる機械で、いくらかの魔法プログラムも入っている。M2の適性があれば使えると思う。で、こっちの箱がピアサー。使い方は香月くんに聞いて。こっちには世代とか無いから」
「はい、ありがとうございます」
受け取った箱はずっしり重かった。
これが僕の商売道具になるのだ。
でも、命を守る道具でもある。その点はコンビニの制服とは違う。
僕は箱の重さにそんな事を感じ取っていた。
「じゃあ、後は任せたよ」
そう言い残して芹沢さんは去って行った。
後には僕と香月さんが残される。
「とりあえず……昼ご飯にしない?」
「あ、うん」
この支部は東京近郊ではあるが、近くに駅もなく交通の便は悪い。
そして、わざと支部が手を回しているのかというぐらい、近所に家も店もない。
だから内部に食堂が用意されている。
僕たちはそこに入った。
「食……堂?」
「だって、常勤の人なんて20人もいないし、ほとんど夜シフトだからこんなもんでしょ。ほら、好きなの選んで」
食堂というのは名ばかりでちょっと大きな休憩室だった。
そして調理場やカウンターがあるわけでもなく、ただ冷蔵庫、冷凍庫があって電子レンジが並んでいるだけ。
冷凍の宅配弁当のおかずと、パックご飯を電子レンジで暖めて食べるらしい。
彼女の言葉の通り、昼間は利用者が少ないらしい。
ちょっと遅い時間だったこともあり、僕たちの他は誰もいなかった。
僕は唐揚げを選んで、電子レンジに入れる。パックご飯も同様にする。
「はい、緑茶で良いでしょ?」
香月さんがペットボトルのお茶を持ってきてくれる。
「今日は私がおごるわ。一応先輩なんだし」
聞けばおかずとご飯、飲み物セットで500円らしい。
外に食べに行くよりは安く付き、そもそも食べに行く店が近くにないから利用する人も多いらしい。
「お弁当を持ってくる人も多いけどね」
そんな事情を話してくれた。
食事を終える。
意外とちゃんとした唐揚げだった。最近の冷凍弁当は侮れない。
彼女は酢豚を選んでいたが、きれいに食べるというのと食べるのが速いというのが印象的だった。
「さて、多分お腹いっぱいじゃ無いと思うけど、動くからそれぐらいがちょうど良いと思うから行くわよ」
「行くってどこに?」
「真世界。安心しなさい。この近辺は安全だから」
そう言われても、突然のことで僕は心臓が速くなるのを感じた。




