第74話「進化の先」
2時間の休憩時間。
大会会場の自分たちの休憩テントで、岡山選抜の選手たちは思い思いに体を休めていた。
照が大きく伸びをする。
「よっしゃ、次は岐阜戦じゃなー。再戦じゃけど今度も俺たちが勝つでーー!」
焔が頷く。
「楽しみですね!」
その輪から少し離れた場所で、藍人は一人、膝を抱えて座っていた。
視線は地面に落ちたまま。
(くそ...)
前の試合の最後の場面が、何度も頭の中でリプレイされる。
ゴールポストに当てて外したあの瞬間。
あの感触が、まだ手に残っていた。
藍人の肩に、大きな手が置かれた。
「藍人」
顔を上げると、巧真が立っていた。
「何下向いてんだ?さっきも言ったけど流れは良かったんだ。しっかりと俺には成長が感じられたんだが…、藍人は何も感じなかったのか?」
「でも、やっぱり決めないと……」
「結果も大事だが、内容が無いまま決まったならそれはただのまぐれ。その先の進化なんてないぞー?」
「……確かに。こんどこそあの感覚をモノにして、決め切って見せます!!」
藍人の目に、少しずつ光が戻ってくる。
「そうだな!藍人にはその目が合ってるよ。次もしっかり挑戦していこう」
少し離れた場所で、緋色は藍人と巧真の会話を見つめていた。
(最後の藍人のシュートシーン...いつもと違う青い光が強く輝いた)
(でも……タイミングが上手く掴めなかった。もっと周りを、藍人のプレーを信じなきゃ)
緋色は、自分の右足首に巻かれたミサンガを触る。深い赤、白、ピンクの色合い。えみと「お揃い」のミサンガ。
(次は...次はきっとみんなの期待に応えてみせる)
緋色は、新しいスティックを握りしめた。
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岡山選抜ベンチ
「はいみんな、集合ー!」
みち先生の声で、選手たちが集まる。元木監督が前に立った。
「さて、次は岐阜選抜だ。全国大会で成磐中が戦った相手だな」
照が頷く。
「篠原さん、虎徹、堀田さん、織田。全員能力が高く上手いです」
「そうだな。照、藍人。お前たちを中心に前で勝負していこう!攻撃力はこっちも十分にあるはずだ」
「はい!」
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岐阜選抜ベンチ
篠原がストレッチをしながら呟いた。
「岡山か。成磐中とのリベンジマッチだな!」
織田が頷く。
「全国のときの仕返しをしないとですね。虎徹もあれから学んで成長してますし、負けられないですよ」
当の虎徹は、一人でドリブル練習をしながら闘志を燃やしていた。
(緋色...俺はあれから変わったぞ!見てろよーー...!!!)
全中大会後の、あの対話を思い出す。
『一人では勝てない』
あの言葉が、ずっと胸に残っている。
(まだ完璧じゃないけど。でも...今日は、証明してやる!!)
「虎徹」
篠原の声に振り返ると、チームメイト全員が集まっていた。
「行くぞ」
「はい!」
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「それでは、岡山選抜 対 岐阜選抜の試合を始めます!」
審判の声が聞こえると選手たちは挨拶をし、観客席からは大きな拍手と歓声が鳴り響いた。
えみと美咲も、最前列で応援していた。
「ひいろくん、頑張れー!」
「蒼くん!藍人、焔、照先輩も頑張れー!」
けいとみっちゃんも隣にいる。
「緋色、ファイト―!」
「頑張るさー!」
フィールドでは、両チームが整列していた。
岡山選抜
GK:天音
DF:市川(RDF)、塁斗(SW)、志倉(ST) 、山田(LDF)
MF:焔(RMF)、緋色(CMF) 、木嶋(LMF)
FW:照(RWG)、藍人(CFW)、雷太(LWG)
岐阜選抜
GK:馬場(2年)
DF:竹田(2年)、堀田(3年・CP)、加納(3年)、長谷川(2年)
MF:加野(3年)、織田(2年)、森山(3年)
FW:篠原(3年)、虎徹(2年)、野殿(3年)
両チーム、握手を交わす。
緋色と虎徹が向かい合った。
「緋色、今日は負けないぜ!成長した俺を見せてやる!!」
「うん!僕も負けないよ」
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ピッー!
試合開始の笛が鳴った。
前半3分
緋色がボールを受け、すぐに木嶋へ繋ぐ。
木嶋が強いヒットで前線へロングパス。
照がトラップして、堀田とのマッチアップ!
照がスピードで縦へ抜こうとするが、堀田は冷静に対応しボールを奪取しすぐにカウンター。
堀田が織田へ繋いで前線へ展開。
篠原が受けて、1人かわしてシュートを放つ。
天音が横っ飛びでセーブ!
「よっしゃーー!!どんどんこいやーーー!!」
天音の大声が飛んだ。
「ナイスキーパー!天音!」
開始早々のどちらも速い展開からの攻防に観客席から歓声が上がる。
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前半 5分
藍人は中央で厳しいマンマークを受けていた。
加納が常に横にいて、自由にボールを受けられない。
(くそ!なかなかボールが入ってこない...!)
緋色は中盤でボールを持って、前線へのパスコースを探すが藍人への青い光は見えない。
(藍人へのコースが完全にふさがれてる!タイミングどころじゃ...)
緋色は、サイドに流れていた照へパス。
照がドリブルで仕掛けるが、またも堀田に止められる。
「だ―――くそ!!さすがじゃなー堀田ぁーー!」
「こっちもリベンジがかかってるんでな――!」
3年の意地がぶつかり合っていた。
その直後
織田へとボールが渡り素早く前へ展開する。
「珍しく虎徹が静かだ…ってわけでもないのか」
織田は静かに笑い、強烈なスイープで前線で手を上げ飛び跳ねてる虎徹にパスを出す。
「よっしゃーーー!やっとパスが来たー!!進化した虎徹さまを見せてやるぜ」
スピードに乗る虎徹がボールを受けて、ドリブルで塁斗に仕掛けはじめる。
「相変わらず速いっ!!だがスピードには乗らせない!!」
しかし塁斗の思惑が外れ、虎徹は一瞬のフェイントから横の森山へパス。
森山がすぐさまリターンパスし、虎徹はスピードを殺さずに塁斗を抜き去った。
「なっ!!」
フォローに来ていた志倉をも得意のドリブルで鮮やかに抜き、そのままリバースシュートを放った!
「もらったーーーー!!」
しかし、シュートはポスト左に逸れ、ゴールならず。
「げっ!!」
「おおーーー!!さすが虎徹!!鋭いシュートだ!!」
一瞬でシュートまで持っていく虎徹の能力に観客席から歓声が上がった。
「虎徹、今のパスからのシュート凄く良かったぞ!」
篠原が声をかける。
虎徹は、小さく頷いた。
「次は決めまぁーーーす!!」
(あの虎徹くんが強引なシュートじゃなく冷静にパスを選択…依然とプレーの幅が違う!!)
緋色がこの短い期間での虎徹の変化に驚いていた。
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前半 12分
藍人は、前線へ張り出して待つがボールは来ない。
照へ、焔へ、雷太へはチャンスにつながるボールは供給されている。
(くそ、なんでチャンスボールは僕には来ないんだ...!?)
焦りから走り出すタイミングがずれていて、緋色の出したいタイミングには藍人へのコースは消えていた。
それを見て緋色は葛藤する。
(試行錯誤している藍人に今すぐにでも出したい...でも...)
緋色は、一度深呼吸をした。
(信じて待とう。必ず来る!藍人が本当に輝く瞬間を…!)
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前半15分
岐阜がサイド攻撃を展開する。
織田の正確なパスワークで、左サイドに走りこむ篠原へ繋ぐ。
篠原がドリブルで冷静にDFをかわすとカバーに入る前に冷静に横へパス。
虎徹がサークル斜め45度の位置で受けると再度、塁斗と1対1に。
「何度も簡単にはいかせないっ!!」
虎徹がスピードで縦に抜こうとするが、塁斗は冷静にゴール行かせないように低くスティックを下げディフェンスしていた。
その対応を見て、一瞬塁斗の足が揃うのを見逃さなかった虎徹は爆発力あるドリブルで中央への突破。
「くっ!!まじかよ…!」
一瞬で塁斗のDFを抜き去り強烈なシュートを放った。
虎徹のシュートを察知した天音が前に出るが、間に合わずシュートは左下のボードに当たりゴールとなった。
ピピィーーーーーーー!!!
「おおーーーーー!決まった!!虎徹らしい豪快なゴールだ!!」
岐阜県の応援団が念願の先制点に大騒ぎしていた。
「おおおおおっしゃぁーーーーーーー!!!!! みたかぁぁーーー!」
虎徹がスティックを突き上げて喜ぶ。
「きたきたー!ナイスシュート虎徹!!!」
織田が自分のことのように喜んだ。
岡山 0-1 岐阜
篠原が虎徹の背中を叩く。
「虎徹、やっとお前らしいシュートが決まったな!待ってたぜ!」
「はい...!ありがとうございます!」
虎徹の目が潤んでいた
そのまま前半終了ホーンが鳴った。
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ハーフタイム
岡山ベンチでは、元木監督が指示を出す。
「すごいシュートだったがまずは落ち着こう。まだ前半だ」
「いやー、あのシュートはすげぇわ。速ぇーー」
照も驚く一閃に岡山選抜チームは固っていた。
「じゃけど、まだ後半がある!取り返していくで――!!」
照の一言に全員が気合を入れなおした。
選手たちが散っていく中、巧真が緋色と藍人を呼び止めた。
「二人とも、ちょっといいか」
巧真は二人を少し離れた場所に連れて行った。
「藍人、緋色。後半はもっと自分のプレーを信じてやってみろ。味方に『合わす』んじゃない。味方から出してもらうんじゃない。自分から『引き出せ』!もっとチャレンジするんだ」
「はい...!」
2人は巧真の言葉を胸にフィールドへと走っていった。
(チャレンジしないと、何も変わらないぞ…!)
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後半開始。
岡山は、GKが蒼に交代していた。
岡山ボールで再開し中央で緋色がボールを受け、前を見る。
藍人が中央でマークを受けている。
(くそ、まだ出せない...)
緋色は、焔へパス。
焔がドリブルで仕掛けるDFを3Dドリブルで抜き去りセンタリング
そのボールに照が合わせるが、マークについていた堀田がブロックしエンドラインに切れた。
「くそーー!!」
照が悔しがり、ロングコーナーへ。
ボールをセットし深呼吸する緋色。
(お父さんが言ってた、チャレンジする……。そうだ安全策ばかりじゃ突破口は見つからない!藍人の動きをよく見るんだ!)
(また何もしないまま終わってしまうのだけは絶対に嫌だ!!…チャレンジするんだ!自分の想像の先に…!!!)
気持を一心に決めた藍人は自然と動き出していた。
常にマンマークにつかれていた藍人は、徐々にスピードを上げながら右に移動。
(何をする気だ…?)
マークについていた堀田もついて行く。
一瞬止まったかと思うと藍人は照の前にダッシュで走りこむ。
(え…!?このコースは…!)
藍人が走りこんだ先には照がいるため、堀田の走るコースには照と加納がいる。
「し……しまった…!!!」
完全に堀田のマークを剥がした藍人は緋色と目が合う。
( 『ここだ!!!ここに出せ!緋色!!!!』 )
緋色は目で、肌で、走り出す藍人の圧力で、パスを出していた。
いや、『出さされて』いた。
緋色のパスコースが光り輝く。
(これは……決まる!)
緋色が確信する。
藍人が行くコースに緋色の青い光がなぞられていく。
サークルの外ギリギリでボールを受けた藍人はトラップからそのまま2重ドリブル。
シュッ、カツッ、シュッ、ガッ!!!!
囲まれる一瞬の隙を見逃さず、リバースシュート一閃。
一瞬の出来事に岐阜DFは動けないままシュートは右上に突き刺さっていた。
岡山 1-1 岐阜
「おおおおおおおおおお!!何だ今のーーーーー!!すげーーーーがん藍人!!」
照を含め岡山選抜のメンバーが駆け寄ってきた
「やった…!!やっと決められた!!!」
藍人は久々の自分らしい、いやそれ以上の感覚に心が軽くなった。
「藍人!やったね!!!さっきのは確実に『引き出された』パスだった!!!」
緋色が興奮して言うと
「あぁ!!もう…俺は下は向かない!!チャレンジし続けてやる!」
(さすが藍人だ!…僕も負けられない!!)
藍人の宣言に緋色も心が高揚する。
進化する藍人と虎徹。緋色は負けず進みだす。




