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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第7章
74/74

第73話「炎」


11人制大会 当日。


岡山選抜は、京都府選抜との初戦に臨んでいた。


「よっしゃーー、行くでーー!!」


照の掛け声で、円陣を組む。


「俺たちのホッケーを見せてやろう!」


「おう!」


全員が拳を突き上げる。




---



試合開始。



京都府選抜は、堅実な守備と素早い攻撃が特徴のチーム。


緋色は前回市長杯で対戦した京都のチームのことを思い出し、気を引き締めていた。


京都のキャプテンが試合をコントロールし、岡山の攻撃を封じようと動く。


藍人はセンターFWの位置に立っていた。―――――――



「藍人、今日は言ってた通り、CFWで試合に出てもらう。自分の力を信じて思いっきりやってこい」


巧真からの声に藍人は難しい顔をしていた。


(巧真コーチの言いたいことはわかる…けど、あれからうまくいかなかった。)


(何が足りないんだろう。……この試合で何かきっかけが掴めたら…)



藍人のいつもの余裕のなさに、緋色は気づいていた。


(藍人は自分の壁に悩んでいるんだろうな…何か手助けができたらいいんだけど…。)




――――――――――



序盤に岡山選抜にチャンスがやってきた。


「おおー!岡山が見事なインターセプト!カウンターだ!!」

会場が一気に盛り上がる


(チャンスがきた!!コーチの『引き出す』感覚を...今こそ!)




緋色がボールを持つと、周囲を見渡し青い光でコースを探る。


照が右サイドラインに走り、焔が横にパスコースを作って、雷太が左奥のサークルにいる。


そして、藍人が中央に落ちてきている。


「…ここは、照先輩だ!」


緋色は照にスイープの強いパスを選択。

照がスピードに乗ったドリブルで仕掛け、京都のDFはたまらずスティックで叩いてしまいPCを与えてしまった。


そのPCを塁斗からのヒットに焔が合わせ先制に成功する。



その3分後---


緋色がまたボールを持つ。


今度はDFの展開してきたパスにボールをもらいにDFラインまで、落ちてもらいにきた緋色は京都チームがプレスに来ないとすぐさま前を向き中央を駆け上がっていった。


(また来た!!次こそは!俺がシュートまで!)


藍人は右に走り出しボールを要求した。


(俺に...!)


しかし、緋色のパスは焔へ。


「なにっ!?」


焔が3Dドリブルで仕掛けるが、シュートは外れる。


藍人の走りを利用して緋色は焔にパスを出していた。


まだ、ボールに触れていない。


(...なんで。…なんでボールが回ってこないんだ…!?)



---


その後も岡山の攻撃はやまず、前半15分。


緋色のスルーパスから雷太がスピードで突破し、センタリングを上げる。


照が見事なタッチシュートでゴールし、2点差をつけた。


「よっしゃああ!」


照が拳を突き上げる。


チーム全体が沸く。




でも、藍人は複雑な表情だった…


(照先輩...すごいシュートだ。まるで照先輩にボールが吸い寄せられるみたいにどんどんパスが来る。)


(でも、俺は...俺には……)


藍人が唇をかみしめた。




---




前半終了間際。


焔がボールを奪うと、ショートカウンターを発動。一気に照へとパスが繋がり、照がすぐに折り返しのパスを緋色に渡す。


「緋色!!リターン!!」


「先輩!横います!!」


「緋色さ――――ん!オレオレ!!!」


青い光が数多の選択肢に繋がっていく。


「すごい、みんながみんな自分の信じたコースに…」




(俺は………、俺だって…...…、皆に負けていられないんだ!!!!!)


藍人は突然サークルの右奥から中央に猛烈な勢いで走り出す。




青い光でコースを見ていた緋色に一瞬、青いラインが強く光った。


照、焔、雷太、藍人。緋色は雷太の光に反応していた。


「え…!!?」


藍人が走る方向に光が強さを増していた。


(今だ!俺に...!俺に出せ!!緋色!!!!)


藍人の強烈なシグナル。


「あ、やばい!!タイミングが…!」


緋色が一瞬ためらったため、パスは雷太へ行くが大幅にずれてしまった。



「ああぁーーー!!何やってんだ!チャンスだったのに!」


会場で大きなため息が漏れた。



「……くそっ!…まだだ、まだ俺は…!!」

藍人の心の炎は悔しさに、自分の不甲斐なさに燃え上がっていた。


「今の…今の光は……?」


緋色は初めての感覚に目を丸くしていた。




前半終了


2-0



---



ハーフタイム



「いい感じだ。このまま行こう」


元木監督が言う。


藍人は黙って下を向いていた。


「…藍人、大丈夫?」


緋色が心配して声をかける。


「...あぁ、大丈夫」


でも、藍人の顔は浮かない。


(くそ……全然ボールに触れてない。照先輩や焔、雷太はあんなに活躍してるのに...)


(……。正念場だな、藍人)


巧真が見つめる。




---




後半開始



京都が攻勢に出る。


左からの確なパスワークから、FWがシュートを放つ。


天音が反応し弾くが、こぼれ球を押し込まれる。


2-1。


「ああああーーーー!!やっちゃった!ごめーーん!!」


天音が悔しがる。


「大丈夫だ!まだまだいけるぞ!声出していこう!!」


塁斗が声をかける。



---



後半15分。


焔がサークル付近で緋色とのパスから抜け出し3Dドリブルで仕掛け、京都のDF二人をかわしシュートを放った。


そのシュートは惜しくもGKに当たり弾かれてしまう。


反応が遅れ藍人は動けずにいたが、雷太が詰めてゴールに押し込んだ


ゴールが決まり追加点。


3-1


「よっしゃーーー!ラッキーーーー!!」


雷太が叫ぶ。


チーム全体が待望の追加点に喜ぶなか、藍人はその場に立ち尽くしていた。


(焔も...雷太もすごい。まだ俺だけ…俺だけ何もできてない…)



---



後半終了間際。


照が再び攻撃を仕掛ける。

中央から左へ流れながらドリブルで抜けていき藍人へ。


藍人はサークルトップに待つ緋色へ折り返す。




(いつまで…いつまで俺は!!このまま……情けないまま終わってたまるか!)

藍人はパスを出した後、自然と走り出していた。



(……!!それだ、藍人!!)

巧真がベンチから身を乗り出す。




緋色には選択肢が3つあった。

①自らサークルインしてシュート。

②右にずらして雷太へのスルーパス。

③藍人への戻すリターンパス。


どれも守備のいるところしか選択肢がなく、緋色はドリブルを選択しようとしていた。




しかし選択したのは ” 藍人へのリターンパス ” だった。

なぜかはわからない。


しかし緋色には聞こえた気がした。



――――― 俺に出せ!! ―――――



緋色のパスに藍人は体をひねりながら強引にダイレクトシュートを放った。


ゴ―――――ン!!


ボールはGKにかすり、ゴールポストに当たりゴールから遠ざかっていった。



「くそぉぉぉぉ!!!!!」



藍人の叫び声が響くと同時に試合終了が終了。


岡山選抜が、京都府選抜を3-1で下した。



「やったああああ!!」



チーム全体が喜ぶ。


そのなかでも、藍人は笑えなかった。



---




「お疲れ様、藍人!」


緋色が藍人に声をかける。


「...お疲れ」


藍人が俯く。


「藍人?」


「...なんでもない」


---


ベンチに戻ると、元木監督が告げる。


「よく勝った。だが、次が本番だ」


「2時間後には岐阜選抜と2回戦で対戦する」


チーム全体に緊張が走る。


初戦前から分かっていた組み合わせ。


勝てば岐阜と当たる。


虎徹、篠原、堀田、織田...全国で戦ったメンバーたちとの再戦。


緋色は、心臓が高鳴るのを感じた。


藍人も、拳を握りしめる。


(...岐阜戦……次こそは!!)




‐‐‐




「藍人」


巧真が声をかける。


「巧真コーチ...」


「京都戦、どうだった?」


「...はい。…全然ダメでした。」


「…そうか?」


巧真が笑う。

「俺はそうは思わなかったぞ?特に最後のシュートシーン。とても良かった。」


「…でも結局、入りませんでした…。」

藍人が悔しがる。


「そうだな。結果は外れてしまったな。だが俺が言ってるのはその " 前 " のことだぞ?」


「え…?」


「どんなに良いプレーでも失敗することはあるさ。どれだけ続けられるかじゃないか?その悔しさを、岐阜戦でぶつけろ」


「『俺に出せ』って、もっと強く周りに示すんだ」


「...はい」


藍人の目に、新たに炎が灯る。



---



緋色も休憩中に考えていた。


(京都戦...最後に藍人にパスを出した。…いやあれが『出させられた』ってことなのかな?)


(確かにあの時は...藍人の動きを強烈に感じた…。)


(お父さんが言ってた。出し手と受け手のせめぎ合いだって。僕も藍人の気迫に負けられない!)



2時間後。


岡山選抜は、岐阜選抜との対戦に臨む。


虎徹との再戦。


そして、藍人の闘争本能が覚醒する。

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