表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋色のスティック  作者: ぱっち8
第7章
73/76

第72話「俺に出せ」


全国大会から2週間が経った。


「おはよう、緋色」


朝の庭。

父・巧真がすでにスティックを構えている。


「おはよう、お父さん」


新しいスティック「HI-RO」を握る。

一週間使い続けて、少しずつ手に馴染んできた。


「基礎から行くぞ。フォアトラップ、プッシュパス、3Dタッチ。基本を徹底的にしよう。」


巧真がボールを転がす。

緋色はトラップし、正確にパスで返す。


カツッ、コツッ。


静かな朝の音。


「いい音だ。スティックに慣れてきたな」


「うん」


「今日の夜は岡山選抜の11人制練習だろ?」


「うん。藍人たちと」


「楽しみだな」


巧真が笑う。



---



各学校が終わってから、夜7時からある11人制の練習では


「よーし!今日も気合い入れてくぞー!」


照の大きな掛け声で、青刃中との合同練習が始まった。


「緋色!」


藍人が駆け寄ってくる。


「藍人、お疲れさま!調子どう?」


「まあまあかな。でも...」


藍人が少し言いよどむ。


「でも?」


「いや、なんでもない。練習しよう」


二人は笑い合う。





11人制の岡山選抜の監督に青刃中の元木監督が選ばれた。

みち先生、巧真がコーチとして入る。


「2対1の対人練習、行くぞー!」


練習が始まり緋色、雷太が攻撃、塁斗が守備に入った。


「緋色さーーーーん!」


雷太が叫ぶ。


「ちょ、、、雷太!!」


塁斗の裏に渾身のスピードで走る雷太に緋色は慌てて合わせパスを出す。

雷太がシュートを放つが、天音がセーブ。


「なにーー!」


「ナイス、天音!」

塁斗がこぼれ球をクリアした。



その後、緋色と藍人の番。


「藍人、行こう!」


すると緋色は青いラインが光りだし、藍人にスルーパス。

藍人が難なくシュートを決めた。


…が、藍人は首をかしげていた。


「ナイス藍人!さすが!」


「……ありがとう!やっぱり緋色のパスは受けやすいね」


「…?」


その後も緋色からどんどん繰り出されるパスに、FW陣はシュートを放っていった。




「よし次は、8対8、10分の試合形式だ」


「やったー!試合だ!」

監督からの声に周りが喜ぶ。




試合が始まるとが藍人がボールを奪い、緋色にパス。


緋色は青い光で周囲を見る。

照が右、雷太が中央の奥。


そして藍人が...


(パスコースが沢山ある。…藍人が凄くいい位置にいる)


緋色は藍人のコースを選択しパスを出す。


藍人が完璧にトラップ。

二重ドリブルで塁斗をかわし、シュート。


ゴール。


「ナイス、藍人!」


「…ナイスパス、緋色!」


でも、藍人の表情は複雑だった。


(…なんだろう。緋色のパスはとても良くて凄くプレーしやすいんだけど、なぜかしっくりこない…)



---



試合は続く。


緋色のパスが次々と通る。

照に、焔に、藍人に、雷太に。


出し放題だ。

みんな、緋色のパスを受けやすいと言う。


「緋色さんのパス、めっちゃいいなー!」


雷太が言う。


「取りやすいし、凄くタイミングがいいよね」

焔も頷く。


でも、藍人の顔は浮かない。



---



練習後


「藍人、ちょっといいか」


巧真が藍人を呼び止める。


「…はい?なんですか巧真コーチ」


「相変わらずお前のドリブルは推進力があって素晴らしいな」


「ありがとうございます」


「だが、…もっと良くなるぞ?」


「...どういうことですか?」


巧真はスティックを手に取る。


「お前は今、自分のプレーにぎこちなさを感じてないか?」


「…はい!な…なんでわかるんですか?」

藍人が首を傾げる。


「物足りないんだろ?緋色のパス。」

巧真が問いかける。


「え…!?」


藍人はなぜかしっくりこなかった感覚。

巧真の言葉にハッとした。


(緋色のパスはとても受けやすい……なのにそれに物足りてないかったのか、僕は…?!)




「ある一定の選手になってきたらな、パスは『出してもらう』ばかりじゃなくなる。…『出させる』ものへと変わってくるんだ」


「出させる...?」


「ああ。パスを出す味方の選手に自分の『最高のタイミング』で、出させるんだ」



「『俺に出せ!!』と。」



藍人の目が見開かれる。


「緋色のパスは確かに良いと思う。だが、お前はそれに『合わせて』いるだけだ。出してもらっているパスに反応している。」


「...」


「お前のドリブルが最高に活きる瞬間がある。そこに、パスを『出させる』んだ。俺に出せ!と。」


「パスを引き出す...」


藍人が呟く。



「まあ簡単な事じゃないんだが、今の藍人のプレーを見てたら窮屈そうに思えてな。きっとこのチームの、今のお前ならできると思う。」



巧真が藍人の肩に手を置く。


「もう一つ提案だ。11人制の大会、センターFWをやってみないか?」


「え?僕、今はMFですけど...」


「お前のドリブルは、FWでこそ活きる。焔をMFに回して、お前が攻めの中心をやってみろ」


「でも...」


「考えろ。そして、試してみろ。それが進化の起爆剤となる」


巧真が立ち去る。


藍人はその場に立ち尽くしていた。


(俺の進化したプレー……)



---




「藍人どうしたの?なんか、浮かない顔してたけど」


緋色が声をかける。


「緋色...」


藍人が少し笑う。


「いや...巧真コーチに言われたことを考えてて」


「お父さんに?」


「パスを『出させる』んだって」


「出させる...?」


緋色も首を傾げる。


「俺、今まで緋色のパスを『受けて』ただけだったのかもしれない」


「どういうこと?」


「わかんない。でも...何か、わかった気がするんだ!」


藍人が空を見上げる。


「11人制の大会、FWやってみろって言われた」


「FW?」


「正直どうすればいいのかわかんないけど…でも今はその挑戦にワクワクしてる!!」


「そっか!じゃあ11人制で色々試してみようよ。一緒に!」


藍人が緋色を見る。


「...そうだな!」


新しい未知なる挑戦に、二人は笑い合った。



---



その夜



「今日、藍人に何て言ったの?」


夕食後、緋色が巧真に聞く。


「ん?…パスのもらい方についてだな」


「もらい方?」


「お前は今、パスを選んで最適なところに『出して』いるだろ?」


「…うん」


「だが、それじゃあ物足りない選手が中にはいるんだよ。」


巧真がテレビを消す。


「トッププレーヤーが相手になればなるほど、パサーっていうのはパスを『出させられる』んだ」


「出させられる...?」


「そう。自分がここだ!と思っているコースとは別に、味方が『ここに出せ!』と動く。その動きに、パスを『引き出される』」


「引き出される...」


緋色が呟く。


「お前のパスは確かに良い。でも、それはお前のタイミングだ」


「...」


「味方のタイミングで、パスを『出させられる』。出し手と受け手の、そのせめぎ合いでチームはもっと良くなっていくんだ。」


緋色は黙り込む。


「じゃあ、どうすれば...」


「そうだな、藍人にも言ったんだが、しっかり考えていっぱい試してみろ。それがいつか正解を生むよ」


巧真が立ち上がる。


「11人制の大会が、良い機会になるかもな」


「...うん!」


緋色は、巧真の言葉の意味を考えていた。



---



翌日、みち先生からチームに連絡事項が伝えられた。


「11人制の大会、組み合わせが決まったわ」


「相手は?」


「初戦は...」


みち先生が少し笑う。


「京都府選抜よ」


「京都...!」


「そして、そこに勝ったら第3シードの岐阜県選抜と当たります」


緋色の脳裏に、虎徹の顔が浮かぶ。


「虎徹...」


「ええ。全国で戦った相手ね」


緋色は、拳を握りしめた。


パスの出し方、藍人のセンターFW。


虎徹との再戦。




緋色は初めての11人制の舞台へ向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ