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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第7章
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第70話「 HI-RO 」


全国大会から数日が経った。


成磐中ホッケー部は、いつもの日常練習に戻っていた。

青い人工芝の上で、パス練習の音が心地よく響く。


「コツッ、コツッ」


「先輩たちすごかったよなぁ~。俺たち全然、役に立てなかったよな」

1年生の山田が目を輝かせる。


「僕たちも、いつか全国であれぐらい活躍しようぜ!!」

中村も拳を握る。


照が岡山弁で笑う。


「もちろんじゃー!ていうかお前らも同じチームじゃったろー!」


緋色も微笑む。


(あれから数日。全国ベスト4か…まだ実感が湧かないな)




「皆さん、いい調子ですね。疲れは取れましたか?」

練習を見守るみち先生が声をかける。


「はい!もう大丈夫です!」

部員たちが声を揃える。



「でも、全国のレベルはすごかったな...」

蒼が水を飲みながら言う。


「僕も...まだまだだって痛感しました」

焔も頷く。


「でも、お前たちは確実に成長してる。それは間違いない」

塁斗が二人の肩を叩く。


緋色の胸に、温かいものが広がる。

(仲間がいるってやっぱりいいな。一人じゃない。だから、もっと強くなれる)



‐‐‐



ある昼休みのこと。


廊下を歩いていると手を振る二人組。


「やっほー、緋色くん」

「ひいろくん、ちょっといい?」


前方から歩いてくるえみと美咲が声をかけてきた。


「えみちゃん...?どうしたの?」


緋色が近づいていく。


「ふふっ♪ちょっと見せたいものがあるんだ」

えみが微笑む。


三人で窓際に移動すると、えみが緋色の足元を見る。


「おっ、ちゃんとつけてくれてるんだ」

えみが嬉しそうに微笑む。


緋色の右足首には、えみから貰った深い赤・白・ピンクのミサンガが巻かれている。


「うん...大事にしてるよ!」

緋色が照れながら答える。


「ふふっ♪実はねぇ...」


えみがスカートの裾をほんの少しだけ上げて、自分の足首を見せる。

そこには、緋色と同じ色合いのミサンガが巻かれていた。


「お揃いなんだよ!」

えみが優しく微笑む。


「え…!?そうなんだ...!」


「準決勝はだめだったけど...」

えみが少し悔しそうに笑う。


「でも、いつかひいろくんの助けになればいいなって思ってるんだ」

緋色の胸が熱くなる。


「えみちゃん...ありがとう。絶対、もっと上手くなるよ!」


二人の視線が交錯する。

温かい空気が流れる。


「はいはいはいー…お二人さん!私のこと忘れないでー!」


美咲が両手を広げて二人の間に割り込む。


「あ、美咲!いたんだった…」

えみが慌てる。


「いやー、相変わらず、いい雰囲気だったね〜。青春だね〜」

美咲がニヤニヤしている。


「も、もう!美咲!」

えみが顔を真っ赤にする。


緋色も照れて俯く。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り響く。


「あ、授業!じゃあね、ひいろくん!」

えみが笑顔で手を振って走っていく。


「またねー緋色くん!頑張ってねー!」

美咲も手を振りながら追いかけていく。


一人残された緋色は、胸に手を当てる。


(お揃い...えみちゃんと...)


右足首のミサンガを見つめる。


(助けになれば...か。僕も、なにかえみちゃんの力になれればな)



‐‐‐



週末の午前中。


けい、みっちゃんと緋色の3人は『Hockey Lab』を訪れた。


「全国大会ベスト4、おめでとう!いや~良かったね!!」

店長のぱっちさんが笑顔で出迎えてくれた。


「ありがとうございます」

緋色が頭を下げる。


「特に、照くんとそろって優秀選手選出なんだって!?素晴らしい快挙じゃないか!」


「ありがとうございます、チームの皆のお陰です」

緋色が照れる。


「実は今日は新しいスティックを探しに来たんです。活躍したら買ってもいいって約束しちゃって」

けいが説明する。


「それでしたら、こっちにあるから是非見てってください。新モデルもあるよ」

ぱっちさんが案内してくれた。


店内の奥にあるスティックコーナーに着くと、緋色の目にある1本のスティックに釘付けになった。

新モデル「HERO」というポップ。


シンプルなデザインに、丸い面に「HERO」のロゴが刻まれている。


「これ...」


緋色が手に取る。とても軽くしっくりくる。

その瞬間、不思議なしっくり感が手に伝わる。


「それは新しいモデルだね!その『HERO』モデルはパス精度に特化した設計だよ」

ぱっちさんが説明する。


「パス精度...!」

緋色が呟く。


「へぇ…今の緋色にぴったりなんじゃないの?」

けいが微笑む。


「HERO...主人公とか英雄って意味さー。緋色にぴったりよー」

みっちゃんも嬉しそうに言う。


緋色は何度かスティックを振ってみる。

重さ、バランス、すべてが自分に合っている気がする。


「…すごく馴染む。…あれ?」


そう言うと緋色はあることに気付いた。


「このスティック、平らな方は『HERO』じゃなくて『HI‐ RO』になってる」

『 E 』のスペルが『 I‐ 』にミスプリントされていたのだ。


「HI‐ROひーろ…」


「えぇ…!!?ごめんね、違うもの持ってくるよ!」

慌てるパッチさんに


「…これにします。いや、これがいいです!!!」

緋色が不思議と笑顔になる。このスティックが自分を呼んでるような気がした。


「えぇ!?…い、良いんですか?」

ぱっちさんはけいの方を見る


「…わかったわ。それにしましょう」

けいが優しく微笑む。


「…それじゃ安くしときますよ!優秀選手祝いも兼ねて!」

会計を済ませ、新しいスティックを手にした緋色。


「大切に使うのよ」

けいが優しく言う。


「うん...!絶対、大切にする!これで、もっと上手くなれる気がする」

緋色がスティックを見つめ目が輝く。


「緋色の新しい相棒さー!楽しみねぇ~」

みっちゃんが嬉しそうにいった。

3人で店を出ると、岡山の青い空が広がっていた。




帰宅後、夕食の時間。

家族4人が食卓を囲んでいる。


「新しいスティック、いいものが見つかってよかったわね」

けいが微笑む。


「うん...本当にありがとう」

緋色が深く頭を下げる。


「そうだ、緋色。もう少し本格的に家で、お前を教えてあげようかなと思ってるんだが……どうだ?」

巧真が真剣な表情で言う。


「え...?」

緋色が驚く。


「烈真…出雲帝陵中の神門先生とも中国大会で話ができて…俺もホッケーとちゃんと向き合わないと…ってな。」

巧真が遠くを見つめる。


「長い間、ホッケーから逃げてた。でも、お前の頑張る姿を見て、烈真と話せて...俺も前を向けるようになった」


「お父さん...」


「お前の試合のビデオもあるだけ貰ってきたんだ。緋色が嫌じゃなきゃ一緒に見て、細かく教えてやるよ。」

巧真が微笑む。


「本当に!?」

緋色の目がこの日一番の輝きを見せた。


「ああ。毎日の自主練もできるだけ付き合う。お前の成長、全力でサポートするよ」


「お父さん...ありがとう!」

緋色の目に涙が浮かぶ。


「明日から始めるぞ?」

巧真が優しく言う。


「うん!!」


緋色が力強く答える。

父子の絆が、さらに深まった瞬間だった。




‐‐‐




翌日の部活後、みち先生が緋色達に声をかける。


「改めて、U15選考会の詳細をお伝えします」


緋色たちが真剣な表情で聞く。


「U15選考会は12月開催です。照くん、緋色くんは優秀選手枠で参加、蒼くん、焔くんはU14選抜枠で参加になります。」


「はい!」

4人が声を揃える。


「それまでに、11人制の大会もあります。スケジュールは後日お知らせしますが、あなたたちにはかなりタイトになります」


「大丈夫です!」

緋色たちが声を揃える。


「そして...この選考会は、来年度の『U15-JaPTジャプト』への選考も兼ねています」


「ジャプト...」

緋色が呟く。


「15歳未満なら参加可能な国際大会。高校1年生の一部も参加する、日本初のハイレベルな国際親善大会です」

緋色たちの目が輝く。


「4人とも、岡山の代表として、日本の代表として...頑張ってください」

みち先生が優しく微笑む。


「はい!」

4人が力強く答える。


「そして、チーム全員で応援します。4人だけの戦いじゃない。成磐中全員の戦いです」

みち先生の言葉に、全員が頷く。



‐‐‐



翌朝、早朝6時。


庭での初めての巧真との朝練習。


「緋色、お前のパスは正確だ。かなり技術も向上してると思う」

巧真が言う。


「ありがとう…」


「だが...」


巧真が一呼吸置く。


「お前は、なんで俺が『白い魔術師』って呼ばれてたか知ってるか?」


緋色が考える。


「パスが上手かった…から...?」



巧真が首を振る。

「それくらいの選手は、全国にはたくさんいる。それだけじゃないんだ」


「じゃあ...何なの?」


巧真が遠くを見つめる。


「魔術師って所以はな...ただパスの技を見せるだけじゃない」


緋色が真剣に聞く。


「相手を驚かせるようなパスを出す事だけでもない」


「…?じゃあ...」


巧真が緋色の目を見る。


「俺が『白い魔術師』、そう言われていたのはな...」


風が吹く。

木の葉が揺れる。



「見てる者全員を、『操り』『動かし』『信じさせる』ていたんだ。」



緋色の目が見開く。

「え...?」



「来週、お前にも見せてやるよ」

巧真が静かに微笑む。


「え...?」


「高校生との練習試合があるんだろ?そこに俺も臨時コーチとして入る予定なんだ。」


緋色が驚く。


「お父さんが...!?」


「あぁ。お前の目で見て、感じて、理解してみろ」

巧真が優しく息子の頭に手を置く。


「言葉だけじゃ伝わらない。見せてやる、『白い魔術師』ってやつをな」

緋色の胸が高鳴る。


(お父さんのプレーを...『白い魔術師』のプレーを生で見られる!)



「……あなた、…朝っぱらから自分で言ってて恥ずかしくないの?」

けいが言う。


「………………確かに。」




朝日が昇り始める。


二人の影が、長く伸びていく。

父の背中が、いつもより大きく見えた。


期待が、緋色の心を満たしていく。




新しい扉が、開こうとしていた。

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