第68話「答え合わせ」
第4クォーター開始前
短い休憩時間にみち先生が選手を集める。
2-3で成磐中が1点ビハインドの状況。
残り7分で同点に追いつけるか、それとも加来偉中が逃げ切るか。
「みんな、集まって!フォーメーションを変更します。勝つためにできることを全部しましょう!」
第4クォーター
ピ―――――!
開始の笛が鳴る。
「あれれ~緋色くんがあんなに遠くに…そう来たかぁ~」
河合 瞬が成磐中の作戦に理解を示す。
緋色がDFのポジションにいるのだ。
「え!ひいろくんがDFにいるよ!美咲どういうことなんだろう…?」
「…わかんない!」
成磐中の応援席にいるえみや美咲も驚いていた。
今までに見たことのない布陣で最後の勝負に挑む成磐中。
――――――――
1分の休憩中、成磐中ベンチではみちがポジションを伝えていた。
「緋色くん、DFラインに下がってみましょう。山田くんと交代で中村くんをFWに、焔くんはMFに下がって照くんはそのまま前線の起点に。」
「えっ!?僕がDF?」
緋色が驚く。今まで経験したことのないポジションだった。
「河合くんとの距離を取って、少しでもその『ノイズ』を軽減してみましょう。やったことがない布陣だけど、現状を打破するためにできることをやってみましょう」
「練習でやってないことをするのは、先生としても心苦しいけど…」
「…わかりました!勝つためにみんなでできることをやりましょう!」
緋色が決意を固める。
「そうじゃな!みんなで何としても勝ちに行くぞーー!!」
照がチームを鼓舞する。勝つために!
―――――――――
第4クォーター 1分
新しいフォーメーションでのスタート。
緋色がDFラインに位置すると、確かに河合瞬との距離が離れ、青い光のノイズが軽減されていた。
「確かにさっきよりも見えやすくなった...」
緋色がホッとする。
成磐中の攻撃。焔がMFの位置からDFに下がっている緋色にパス。
照がサイドを駆け上がり、中村も縦パスを狙う動きを見せる。
「緋色先輩!今です!」
緋色のパスが少し効果を発揮し始める。照にパスが繋がり中村へのセンタリングが通る。
中村がタッチシュートを放つ。…がGK馬島が反応してセーブする。
「くっ、惜しい!」
成磐中にとって久々の貴重なチャンスだったが、得点には至らなかった。
第4クォーター 3分
加来偉中の反撃。
河合瞬が中盤でボールを受けると、相変わらず緋色の方を見ている。
「緋色くんが下がったからさみしいですなー。まあでも遠くからでも緋色くんはいろいろ見えてるんですね~。……ん-、んじゃこっちからいってみよー」
瞬が飄々と言いながら、皐月にパス。
皐月から百舌鳥へのサイドチェンジ、百舌鳥が戸津のカウンターを狙う。
「来たキタ、きったぁぁぁーーー!!やっとパスが来た!」
戸津が猛烈なスピードでカウンター攻撃を仕掛ける。塁斗を抜き去り、そのままゴールに向かう。
「次いつ来るかわからない…(切実)絶対決めるぅーーーー!」
戸津のシュートが放たれるが、GK蒼の好セーブに阻まれる。
「あぁ~…さすが戸津さんですねぇ~。つまんない」
戸津が悔しがる。瞬が呆れる。
加来偉中の危険な攻撃はまだ続く。
百舌鳥が右サイドから仕掛け、センタリングを上げる。
「危ない!」
緋色が青い光で百舌鳥のパスを読み、塁斗と連携してコースを限定する。
「ありゃりゃー、いいポジショニングぅ~いけねぇー」
蒼も飛び出して瞬へのセンタリングは大きくクリアされ、何とか失点を防ぐ。
「ナイスディフェンスです!」
DFラインでの緋色の判断と連携が光った瞬間だった。
第4クォーター 5分
押され気味の成磐中は何とか失点を防ぎ、同点のチャンスを迎えた。
「緋色先輩!仕掛けます!フォローお願いします!」
焔が中盤からドリブルを仕掛ける。依然として長門は焔のドリブルに苦戦していた。
右サイドに長門を引っ張り出しエアリアルドリブル+3Dドリブルで完全に抜き去る。
「焔!」
焔が皐月に捕まる寸前、緋色がパスを受け照へとラストパスを送る。
青い光が浮かび上がる…が
「ここだな―――きっと~」
再び、瞬がコースに入ろうとする。しかし緋色の方が少し速い
「これなら間に合う!…照先輩!!」
完璧に出されたラストパスに照が反応。強烈なタッチシュートになったがGKに当たりポストに弾かれしまった。
「ぬあーーーー!!まじかーーー!!!」
照の叫び声とともに観客席からも大きなため息がつかれた。
「あぁーーーーー!!久々の決定機!!惜しい!!!!」
‐‐‐
第4クォーター 終盤
最後の攻防が始まる。
皐月がセンターライン真ん中でボールを受けると、瞬に向けて正確なパスを送る。
瞬がボールを受けた瞬間、緋色と目が合った。
「緋色くんならどうするかなー」
瞬が微笑みながらつぶやく。
「追いつくには、もう時間が……ここで奪ってカウンターしかない!!」
緋色も首を振り、全体を把握する。
裏に飛び出している戸津、左右から上がってくる皐月と百舌鳥。
緋色にも見える点と線の光るパスライン。
皐月への左パス、戸津への縦パス、百舌鳥への右サイドのライン。
「見えてる...!」
緋色が瞬の次の動きを読もうとする。
瞬が皐月へパス。
皐月から戸津への縦パスが狙われるが、塁斗がマークについているため、戸津はすぐにリターンパス。
この時、戸津に瞬が寄ったため緋色の光るラインに「ノイズ」が発生。
(……河合瞬が…もらうか!?)
皐月にボールが戻った時も、瞬にシュートのチャンスがあるため、緋色に再び「ノイズ」が入る。
(くそ…光る線は見えてる…...パスコースも見えてはいるのに、河合瞬という " 点 " でまたノイズが…線が見えにくくなる..!!)
緋色が困惑する中、皐月から百舌鳥へのパス。
緋色は最後の縦パスを読み、中央を右斜めに走るコースを切りに行く。
「見えてる!…そこはだけは通さない!」
しかし、瞬が選んだのは全く違うルートだった。
皐月にボールが戻った時点で、瞬はエンドラインに向かって走っていた。
蒼の横、ゴールライン付近に移動していた瞬。
「…えっ?そこ!?」
走ると思われたコースにいない瞬。
緋色がエンドラインに振り向いた瞬間、瞬が猛スピードで駆け抜ける。
「にゃははーーーー。もらったぜぃ、緋色くぅ~ん!!」
蒼と緋色の間のわずかなスペースを縫って。
百舌鳥からの鋭く強烈な縦パスが来る。
瞬はスティックの角度と向きだけを変え、タッチシュート。
後追いで来る緋色、反応する蒼、どちらも間に合わなかった。
ボールがゴールネットを揺らす。
ピピーーーーーーーー!
2-4
「やられた...ノイズはそういうことか…!」
緋色が膝をつく。
「ふっふぅー、いい攻防~楽しかったー!緋色くんの見えてる世界は、本当に面白いですね~」
瞬が満足そうに笑っている。
試合終了まで残り30秒。もう追いつくことは不可能だった。
ブーーーー!
試合終了のホーン。
成磐中 2-4 加来偉中
成磐中の全国大会準決勝での挑戦が、ここで終わった。
「緋色くん、お疲れさんでした~おもろかったですねぇ!!」
試合後、河合 瞬が興奮気味に緋色のもとにやってきた。
「緋色くんのパスがとても気にいったんです~すんばらしい世界観!いやあーどう見えてるのか……おもろいっっ!!」
瞬の興奮が冷めずにいた
「...河合君は、すごい選手ですね。あそこまで僕のパスコースに反応され続けたのも久々で…悔しかったです。」
緋色が素直に答える。
「むむむ。…瞬でいいですよ~!緋色くんのパスは本当いいとこ行きますねーもらう人は幸せですなーーー羨ましい!今度、僕にも出してくださいぃ~スーパーゴール満載ですきっと~!」
瞬の純粋(?)な言葉に、緋色は複雑な気持ちになった。
負けは悔しい。でも、自分の能力をここまで理解してくれる選手がいることに、尊敬の念を抱いた。
(…………変人なところは置いておいて...嵐のような試合だったな…)
緋色は心の中でつぶやく。
瞬が手を差し出し、緋色がそれに応える。
新たなライバルとして戦い、お互いを認め合った二人。
成磐中の全国大会は終わったが、緋色の挑戦は続いて行く。
第68話「答え合わせ」まで読んでいただき、ありがとうございました。
ついに成磐中の全国大会が終わりました。河合瞬という新しいライバルとの戦いはいかがでしたか?
緋色の青い光に「ノイズ」が入るという新しい体験、そして自分の能力を理解され、それを上回られるという初めての敗北。この経験が、緋色の次なるステップへの糧となります。
河合瞬は、緋色とは全く違うタイプの天才です。技術的には颯真に匹敵しながら、その興味の向け方や楽しみ方が独特で...変人です(笑)。でも、緋色の能力を最も理解し、認めてくれる存在でもあります。
準決勝敗退という結果でしたが、緋色の物語はここで終わりではありません。U15代表への道、そしてより大きな舞台での挑戦が待っています。
クラウドファンディングのお知らせ
現在、『緋色のスティック』のクラウドファンディングを実施しています!
https://camp-fire.jp/projects/884214/view
書籍化やイラスト制作など、作品をより多くの方に届けるための挑戦です。ご支援いただけましたら、心から嬉しく思います。
これからも緋色たちの成長を温かく見守っていただけると幸いです。
次回からはどんな展開が待っているのか...楽しみにしていてください。
―――――ぱっち8