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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第6章
68/74

第67話「ノイズ」


ピーーーー!


再開の笛が鳴る。

ここまで2‐2と全国トップクラスの攻撃陣と戦えていることもあり、成磐中の応援席は盛り上がっていた。


「緋色~いい調子さ~!この調子で行くんだよ~」


みっちゃんの明るい声が響く。


「成磐中ー!ファイト―!ひいろくん頑張ってー!!」


えみからも声援が届く。




「よっしゃ、後半じゃー!こっからもういっちょ気合い入れていくでー!」


照が声を張り上げる。


ここからが本当の勝負だった。加来偉中ボールで後半開始。



---



第3クォーター 




緋色は試合開始後、すぐに全体を確認、加来偉中の布陣を見渡した。


「フォーメーションやメンバーは変わってないな...」


しかし…何かが違っていた。


河合 瞬の動きが何か違う。前半は適当にふらついていた瞬が、なぜか緋色の方を見ている。


「あれ...河合 瞬がこっちを見てる?」


緋色が違和感を覚えたのはそれだった。瞬が観察している。


「成磐中の8番さん。良い眼をしてますね~センスなのかな~」


緋色がパスを出そうとした瞬間、瞬が突然動き出す。

まるで緋色のパスコースを読もうとするかのように。


「え、あの動き...今までしてこなかったのに?」


緋色は走りこむ照と目が合い、青い光を頼りにパスを出そうとしていた。


たが、なぜかノイズのようなものが光の中に混じり込んでくる。


(…なんでだ!?急に見えにくく...)



緋色の青い光に、颯真と対峙した時ですらなかった初めての「ノイズ」が入り始めていた。



---



第3クォーター 2分



成磐中の攻撃。

緋色が焔にパスを出し焔がドリブルで仕掛けようとするが、瞬が予想外の場所に現れる。


「え?なんでそこにいるんだ?前線にいるんじゃ…」


焔が困惑する。


今まで守備に来なかった瞬がドリブルのコースに立っている。


瞬は守備をするつもりは全くない。…が、緋色のパスに反応して移動していた

その結果として、成磐中の攻撃ルートに偶然立ちはだかることになる。



「8番さんのパス、面白そうなんですよねぇ~。やっぱりこの辺にきたー」


瞬が飄々とつぶやく。


「あのパスの感覚、ちょっと味わってみたいなぁ~。どんな風に見えてるんだろぉ…ぴかー、しゅっっ。ばしー!…かなー?」


(く…やりにくい!出したいコースに常にスティックか河合 瞬がいる…!)


緋色は戸惑っていた…。


自分のパスを攻略しボールを奪いに来る相手はいたが、興味を持ち試合中に自分のパスに理解を深めてこようとされるのは、今まで経験したことがない。


しかも、その興味が自分の能力を明らかに阻害している。


「くそ、集中できない...!」


緋色のパスが照に向かうが、いつものような鋭さがない。

瞬の存在が邪魔となり青い光の精度が落ちていた。


「どうしたー緋色!いつもと違うでー?」


照が声をかける。




第3クォーター 3分




皐月が瞬の状況を見て、チームに声をかけた。


「よし、ポジション変更するぞ。ノリ始めた今の瞬なら多分いけるだろ」


「おーい瞬、…そろそろ好きにやっていいぞ」



その言葉を聞いた瞬の表情が一変した。



「おぉ~ついに我、解放ですか~。やったね、待ってましたー」


瞬が嬉しそうに笑う。

加来偉中のフォーメーションが瞬間的に変化した。


右DFに百舌鳥、中央DF長門、左DFに皐月の3バック。

MFに河合 瞬、FWに戸津の3-1-1システム。


「ポジションが変わった...?!」


緋色が察知する。


前のスペースが一気に広がり、瞬の自由度が大幅に増した。


「これで思う存分やれますなぁ~8番さんお名前なんて言うの?たしかぁ…緋色くんー?」


瞬が皐月からボールを受けると、ドリブルを開始する。

今度は緋色に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。


「えっ!?直接来た…!」


緋色が驚く。前半の消極的な瞬とは全く違う、積極性な姿勢だった。

前半はサークル付近でしかボールを触らなかった選手の突然のドリブル。


瞬のドリブルは独特だった。スピードは戸津以上に速く、焔のように3Ⅾを入れてくる。

そして予測不能なタイミングで切り返し急激に方向を変える。


「速い!!しかも何してくるか読めない...なんで今までしてこなかったんだ!?」


瞬の動きには前半のパターンがないため、緋色が対応に困惑する。


しかもなぜか瞬のドリブルコースは緋色の見える光の上。

しかし今までにないプレー。


読もうにも動きが速すぎるため緋色は追いつけない。


「前半とギャップがありすぎる…!!」


瞬が緋色を抜き去ると、そのままフォローに来た塁斗との一対一になる。

しかし、瞬はスピードを落とし塁斗を抜こうとはしない。


「あー…2番くんは固いし面白くないー…普通過ぎる~」


瞬が興味を失ったように、ボールを皐月にパス。


「えぇ…なんだそれ...!?」


塁斗が困惑する。

皐月からのボールが百舌鳥に渡り、百舌鳥から瞬への絶妙なワンタッチパス。


「おおー、皐月さんそれおもろ」


塁斗と焔が慌てて対応するが、3人の息の合った動きに完全に翻弄される。


「くそ!なんだこれ!?サークルの中だぞ?!」


塁斗が必死についていこうとするが、河合 瞬が一瞬で蒼との一対一を作り出していた。


「やらせない!!止めるっ!」


蒼が構え飛び出すと


河合瞬はゆっくりと蒼に近づく。振りかぶりシュートモーションに入る...


(振りかぶった…ヒットシュート!!)


蒼がスライディングでコースを消しシュートを防ぎにいく。


しかし、河合瞬のスティックが地面を一瞬叩く。


「…フェイント!?」


その一瞬の動きに蒼のタイミングがずれる。


河合 瞬はふわりとボールを浮かせ、プッシュパスのようにゴール左上へ。


蒼が懸命に手を伸ばすが、絶妙なコースに届かない。


綺麗な放物線を描いたボールがゴールに吸い込まれる。



ピピーーーーーー!



「うはうはーー、気持ちいいシュートでした~。GKくんもいい反応してくれるし、こりゃいい~」


瞬が満足そうに笑う。



2-3



「……何…あれ...!!? やばっ……」


成磐中の女子部が応援席で静まり返る。



---



第3クォーター 5分



成磐中は焦り始めていた。


「くそ、逆転された...!」


塁斗が悔しがる。

緋色も困惑していた。


「僕の青い光が…機能してるけど...河合 瞬がノイズになってる」


瞬の存在が、緋色の能力を完全に阻害している。

パスを出そうとしても、瞬がコースに動く。


常にパスコース、ドリブルコースに瞬がいるため動き取れない。


「あの人、僕のプレーを感じてる...まるで味方のように動いてくる…!」



緋色が気づく。

瞬は試合をしながら、緋色のパスの特徴を感じていた。


「緋色くんのパス面白いですねー。どうやって見えてるんだろーかぁ~」


瞬が緋色に話しかけてくる。


「…え?」


「教えてほしいなー僕もそんなパス受けてみたい~」


瞬の純粋な興味が、緋色をさらに混乱させる。



---



第3クォーター 終盤




時間が経つにつれ、成磐中の攻撃は精彩を欠き始めた。

緋色の青い光が機能しないため、いつものような流れるような攻撃ができない。


「なんか、チームの調子がおかしい...全然ボールが前に進まない…!」


焔が気づく。


「緋色先輩のパスが...いつもと違う」


緋色自身も焦っていた。


「ノイズがあってパスが出せない!出したら確実に...瞬に取られる!なんてポジショニングだ…」




一方、加来偉中は瞬を中心とした攻撃が冴え始めていた。


百舌鳥と皐月が両サイドから上がり、瞬とのコンビネーションを繰り広げる。


「これは楽しいですなーもずっちナイス~」


瞬が生き生きとプレーしている。

戸津も、瞬から離れたことで自分らしいプレーができるようになっていた。


「やっと気持ちよくプレーできる!!...が、パスがこーーん!!皐月ー俺にもパスーーーーー!」


戸津が叫ぶ。




ブーーーー!

第3クォーター終了のホーン。



2-3



---



1分間の休憩 成磐中のベンチ


「どうしたーー緋色!いつものパスがきとらんぞ――!」


照が心配そうに声をかける。


「すみません...河合 瞬が常に僕のコースを潰してて……」


緋色が正直に答える。


「あの人、僕のパスに自分がもらうつもりで多分コースを見てて...それがノイズになって、青い光が見えても出せないんです」


みち先生も状況を理解した。


「河合瞬があなたのパス能力を認めてるのね...それで。」


「なるほど。でも、それに惑わされちゃダメよ。周りのみんなも緋色くんのパスだけじゃなく動いて助けてあげましょう!」


「はい...!」


緋色は答えるが、不安は拭えない。

河合 瞬という存在が、自分の最大の武器を封じている。


「最後のクォーター、何としても追いつこう」


しかし、河合 瞬はまだまだ底が見えていない。


緋色の胸に、新たな不安が芽生えていた。

河合瞬が、“ノってきた”。


これまでの「不気味なフラフラ」だけではない、

彼が“緋色という選手”に興味を持った途端、ピッチに“異質な風”が吹き始めました。


まるでコードを書き換えられたように、

緋色のパスセンスが“ノイズ”でかき消されていくこの展開……

彼にとって最大の武器だった「青い光」に、はじめて“迷い”が差し込んでしまったのかもしれません。


プレーを止められるのではなく、“感性”を覗かれる。

そんな恐ろしさ。


河合瞬の動きには、“壁”でも“炎”でもない、

でも確かに「プレーの芯を揺らす力」がありました。


この回で描きたかったのは、


■「光」はただの美しさではなく、

■「ノイズ」もまた1つの“表現”であること。


そしてその間で揺れる緋色の心です。


加来偉中の面々も、今までとはまた違う色合いで“個”を発揮し始めています。

果たして、成磐中はこの“立て直しが効かないように見える”試合展開の中で、どう巻き返していくのか…──


次回、第4クォーター。

その中で描かれるのは、再び「チームの力」かもしれません。


 


作品が本として読める未来を目指して──

いま『緋色のスティック』は、クラウドファンディングに挑戦中です。


▶ https://camp-fire.jp/projects/884214/view?utm_campaign=cp_po_share_c_msg_projects_show


静かなスタートではありますが、数名の方のあたたかな応援でも、

すでに作者としては何度も心を救われています。


「いつか手に取れる形に」「読者の元に届けたい」と願って始めたこの挑戦、

もしよければ少しだけ、覗いてもらえたら嬉しいです。

(拡散・いいねも大きな励ましになります)


 


1本のパスが揺らぐとき。

それは、勝ち負けだけではない、成長の大きな転換点になる。


成磐中の“らしさ”を取り戻すための後半——

その物語を、君と、言葉で追い続けたい。


次話も、ぜひ楽しみにしていてください!


―――――ぱっち8

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