第62話「狙い撃ち」
ピィーーー!
第3クォーター
後半開始のホイッスルが鳴る。
陽翔院中のボールでスタート。
前半同様、眞仲を中心に焦らず攻めてくる。
しかし緋色は焦らない。まずは相手の出方を確認することから始めた。
陽翔院は和良のスピードを活かした攻撃で、成磐中の守備陣を苦しめる。
「…速い!」
山田が必死についていこうとするが、和良のスピードについて行けない。
サークルインし、すぐさまシュートを放つが蒼が反応し好セーブ。得点を許さない。
「すいません、ナイスキーパーです!助かりました。」
全員で守りフォローし合う成磐中
「いいぞ蒼!その調子だ!」
観客席から蒼コールが起こる。
中盤では眞仲と緋色の読み合いも激化。
緋色の予測を外し眞仲がスルーパスに繋げると、緋色も青い光で眞仲の隙をつきゴールを狙うパス。
読み合いが続いていた。
両チーム、互いの技術をぶつけ合う展開が続く。
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第3クォーター 3分
緋色は小さく仕掛けてみる。
照がポジションを変え水野へマークを自分につかせると、緋色からのパスを右サイドライン際でボールを受ける。
そのまま、水野がプレッシャーをかけにきた。
「緋色、サポート!」
塁斗の声に緋色がサポートに入ると、水野の視線が一瞬、緋色の方にも向く。
(あの8番には眞仲さんがついてる。すでにラインに追い込んだし…こいつは足が速い。縦か…?)
その瞬間、照が体の向きを一瞬変え緋色を見る。
(8番に戻すか?…いや!今までの流れだと8番へのパスは可能性は低い…フェイク。縦だ!)
水野の読み通り、照はボールをライン際に戻し急加速しライン際を突破しようと仕掛ける。
「させるか!喜田行かせるぞ!」
水野が反応する。…が、緋色への意識に少し遅れて追いかけることに。
しかし、その展開を読んでいたため喜田との連携で照からボールを奪った。
「あ、くそー!!行けると思ったのに!」
突破までには至らなかったが、緋色は確信した。
(やっぱりだ。水野さんは複数のタスクがあると判断が一瞬だけ遅れる…しかも選手の特徴で動いてる…)
「どうでした?」
焔が寄ってくる。
緋色は小さく頷いた。作戦は実行可能だ。
―――――― ハーフタイム中
「実は試してみたいことがあるんです。最後のプレー覚えてますか?あのPCを取ったシーン...」
緋色がチームを見回す。
「焔がエンドラインぎりぎりで水野さんからPCを獲得した時のことです」
焔が頷く。
「はい、…それがどうしたんですか?」
「あの時、水野さんの動きに少し違和感を覚えたんです。」
緋色の言葉を、みち先生も興味深く聞いている。
「水野さんは常にとても計算されたDFをしてきます。敵の情報を頭に入れ、相手を誘い込んで、喜田さんや他のメンバーと連携して確実に止める」
「でも、エンドライン際なんかのスペースがない極端な状況では、少し違うんです」
緋色が作戦ボードに向かう。
「サイドラインやエンドライン際では、水野さんは可能性の高い方向に意識を集中させる癖があります。ラインブレイクよりも、広いスペースに出てくることを90%想定している」
「...なるほど。DFしてる身としては当たり前のことだけど、それをあれだけレベルの高い誘い込みをしてるからってことか。つまり...」
塁斗が理解し始める。
「逆にラインブレイクの警戒は10%程度。もちろん反応はしてくると思いますが、あえて極端な場所で勝負すれば、突破できるかもしれません」
緋色が続ける。
「ただし、一度やれば必ずDFの意識を広げて対策されます。多分一回きりのチャンスです」
照が身を乗り出す。
「可能性があるならやる価値はあるじゃろ!んで、どうやってやるんじゃ?」
「焔がサイドライン際で勝負する時、僕がサポートに入ります。水野さんの意識を分散させて、タスクを増やす。その隙に...」
「僕がスペースの薄い方向に突破する、ってことですね」
焔が理解した。
「そう。水野さんを突破できれば、あとは照先輩との連携でGKとの勝負に持ち込めるはずです」
みち先生が戦術を整理する。
「確かに理にかなっているわね。でも本当に一発勝負になるから、タイミングが重要よ」
「第3クォーターで一度小さく試してみます。本当に通用するか確認してから、終盤に勝負をかけましょう」
緋色の提案に、チーム全体が頷く。作戦の開始だ―――――――――
第3クォーター終盤
ついに緋色たちが仕掛ける瞬間がきた。
「焔、準備はいい?そろそろやってみよう」
「はい!任せてください」
成磐中自陣でのボール。照と焔がポジションを変え水野を誘う。
前線の動きを察知した塁斗が緋色の顔を確認し、緋色は頷く。
(やるんだな……よし!)
その光景を見た瞬間、左サイドラインぎりぎり広がった焔に塁斗が素早くパスを送る。
マークについていた水野がそのまま、誘い込みの体勢に入る。
(こいつはドリブルが上手い。だが、8番がいるとワンツーもある。単独なら…)
水野の考え時間を奪うように
「照 先輩!広がってください!」
緋色がすでに焔に近づき周りに指示を出していた。
水野はその声を聴くと首を振り、周りの位置取りを一瞬で頭に叩き込む。
(な…!? 9番が広がって…8番もこの位置……だが味方はマークについてる。これなら…)
一瞬の間に水野は思考を繰り返し判断することに…しかし
「焔!行くぞ!!」
判断が定まらない瞬間を緋色は狙う。
マークについていた眞仲と水野の間に入り、緋色が焔のサポートに入る。
水野の意識が分散する。
(眞仲さんはマークに8番についてるが間に合ってない…やばい中に行かれる…!!)
喜田が照にマークをついている分、瞬間的な2v1が作られた。
「焔!!」
緋色が走り出す
「ちっ!!」
その瞬間、焔が ”水野に誘われていた縦” に爆発的なエアリアルドリブルを仕掛けた。
「今だ!!ここしか…このタイミングしかない!」
得意のスピードに乗ったドリブルから一気にライン際を突破。
水野は緋色への一瞬の対応にスティックも体も向けてしまい完全に後手に回ってしまう。
「くそ…やられた!そういうことか!!!」
水野が振り返る中、焔は既にペナルティサークル付近にまで到達。
照は喜田のマークを振りきりGKの前に来ていた。
「ここだ!照先輩!」
照への絶妙なパス。
緋色の眼に青い光が輝きだす。
「照先輩ーー!!」
照がワンタッチでサークルトップの緋色につなぐ。
「…ここじゃ!もらったでー!」
照の爆発的スピードが炸裂。パスの瞬間、ほんの一瞬で浦崎と喜田の間を抜け―――
緋色から絶妙なラストパスにトラップもせずそのままダイレクトでシュートを放った。
浦崎が飛び出すが、照のタイミングの方が一瞬早い。
豪快なシュートがゴール右隅に突き刺さる。
ピピィーーーーーーー!
「よっしゃー!やったーーー!作戦が完全にはまった!」
成磐中の選手たちが抱き合って喜ぶ。
「決まった――――!!あの水野が完全にやられたぞ!あそこまではめったにないんじゃないか!?」
観客席も大きな歓声に包まれ、陽翔院中の大応援団はどよめいていた。
1-1
「ナイスパスじゃ!緋色!見たか俺の完璧なシュート!!」
照が緋色を抱き上げる。
「すごかったです!!ダイレクトとは思わなかったですけど…!」
緋色は苦笑い。照の豪快なダイレクトシュートに内心ドキドキしていた
水野が悔しそうに地面を見つめている。
「一本取られたな...あそこまで完璧にやられるとは…でも、次は絶対止める」
水野の目に闘志が宿っていた。
そのまま終了のホーンが鳴り第3クォーター終了。
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第4クォーター
両チーム最後の力を振り絞る。
陽翔院中は全体のミスを即座に修正し、より組織的な守備を展開した。
眞仲と水野を中心に成磐中の攻撃パターンを次々と封じていく。
「そう簡単にはいかせないぞ。何度もやられてたまるか」
水野も学習し、複数のタスクを冷静に対処し突破を許さない。
一方、成磐中も粘り強く守備を固める。
和良のスピード攻撃には塁斗と緋色が連携してカバー。
歌田の裏抜けには山田が必死についていく。
「おい…お互い、簡単には崩れないな。息がつまりそうだ…」
観客席からも感嘆の声が漏れる。
第4クォーター 5分
眞仲の不意を突いたドリブル突破から陽翔院中にPCが与えられた。
失点したPCを警戒しつつ集中する成磐中DF陣。
眞仲のヒットシュートが蒼の正面を捉える。
「止めたーー!」
蒼のセーブで失点を阻止。
直後、そのセカンドボールを塁斗がロングヒットで前線に。
成磐中の反撃。焔はPCで前のめりになっていた陽翔院中へカウンター、GKと1v1の決定機を作る。
しかし焔の動きを察知しシュートコースを潰しに詰めていた浦崎の飛び出しにボールは弾かれ得点ならず。
「あーーー、惜しい!」
両チーム、決定機を作りながらも決めきれない。
「やらせないって言ったろ!!」
GK浦崎がナイスセーブに吠える
「くそ、チャンスが…!」
焔が悔しがる。
最終クォーター 終了30秒前
陽翔院中の最後のチャンス。和良が塁斗の裏を突き仕掛けてきた。
「くそ…!最後までスピードが落ちない!とめろ!!」
山田が喜田のマークから捨て、必死にカバーに入っていた。
和良のシュートが放たれる。
蒼の体レガードに当たり体を張ってブロック。シュートはゴールポストの外に外れた。
ブーーーー!
試合終了のホーンが鳴った。
成磐中 1-1 陽翔院中
「SO戦!SO戦だーー!」
観客席が沸く中、両チームの選手たちは互いの健闘を讃え合っていた。
「いい試合だったな」
眞仲が緋色に歩み寄る。
「眞仲さん。僕の読みの外に何度も...すごく勉強になりました」
「君の眼は本物だな。水野をあそこまで後手にするとは...」
両司令塔が握手を交わす。
しかし、真の勝負はこれからだった。
SO戦で全国ベスト8への切符を手にするのは、果たしてどちらか。
運命の一戦が、間もなく始まろうとしていた。
今回も読んでくださって本当にありがとうございます!
第62話では、水野×緋色の“狙い”と“読み合い”がぶつかり合う展開でした。
焔・照・塁斗との連携で、チャンスを“作って狙って撃ち抜く”、
これまでの成磐中の集大成のようなゴールだったと思います。
でも、それだけじゃ終わらない。
勝負はまだ終わってない。SO戦へ。
そして一つだけお知らせです!
「緋色のスティック」は今、クラウドファンディングにも挑戦中です。
https://camp-fire.jp/projects/884214/view?utm_campaign=cp_po_share_c_msg_projects_show
この物語を、本にして届けるために。
ご興味のある方は、プロフィールや活動報告から詳細をご覧いただけたら幸いです!
次回はいよいよ、ベスト8をかけた運命のSO戦。
手に汗握りながら、見届けていただけたら嬉しいです!
―――ぱっち8