第59話「耐え抜く力」
最終 第4クォーター
ピィーーーー!
最終クォーター開始の笛が鳴る。
「みんな、全員で守るのよ!サークル内ではスティックをしっかり下げて!PCはだめよ!」
みち先生の声が響く中、西比良中は開始早々から猛攻を仕掛けてきた。
千暉の動きがさらに激しくなる。
今度は山田だけでなく、塁斗、そして緋色まで翻弄しようとしている。
「くそ...どれだけ動けるんだ」
山田が必死についていこうとするが、千暉は予測不可能な動きを続ける。
千暉は中盤まで下がりDFラインからのパスを受けに落ちてきた。
しかし結城のロングストロークは千暉ではなく成磐中ゴールに向かって飛んでくる。
「しまった!…蒼!」
緋色が叫ぶ。左近が緋色の後ろを抜けタッチシュートに入ろうとしていた。
「見えてる!任せて!」
蒼が触られる直前に反応。スライディングでクリアした。
「ナイスキーパー!」
会場の応援団が安堵のため息をついた。
しかし、西比良中の攻撃はそれで終わらない。
町田の左サイドからの攻撃参加や、左近とのポジションチェンジで珠洲が右サイドを猛スピードでオーバーラップしてくるなど怒涛の攻撃を最終クォーター直前から仕掛けてくる。
西比良中のコートから結城がサークル内にスクープを上げるとそこに蒼が先にポジションをとっていた。
ピ―――!
「4m!!!成磐中ボール!」*
*スクープの際、危険防止のため落下地点に先に入ったプレーヤーにトラップ処理する優先権がある。相手プレーヤーは4m以上離れ、優先プレーヤーが触った時点で奪いに行ける。GKにも適用される。範囲内にいた場合は反則となる。
「くそっ…よく見てたなあのGK」
走りこんでいた千暉が悔しがる。
終盤になっても5人全員が攻撃に絡む圧倒的な攻撃力だった。
「みんな、落ち着いて!まだ1点差だから!」
蒼の声が聞こえるが、成磐中は完全に後手に回っていた。
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最終クォーター3分、西比良中にPCが与えられた。
「そろそろ追いつくぞ!!」
結城がフリック体勢に入る。長身から放たれるフリックは威力十分だった。
「よっし!!これで同点だ!」
結城のフリックが唸りを上げて右中段ゴールに向かう。
「うぉぉぉぉ!」
蒼が体を反応し横っ飛びセーブ。弾かれたボールはわずかにゴールポストをかすめてゴールにはならなかった。
「すげぇ...これも止めるのかよ、あのGK!!」
観客席がざわめく。
「いいぞ!!いいぞ!!あ~お!!いいぞ!いいぞ!あ~お!!」
成磐中の応援席から蒼コールが起こる。
しかし、まだ終わらない。
そのロングコーナーから結城→町田へ。
正確で強烈なスイープのセンタリングが千暉に向かう。
またも千暉のタッチシュート
「きた!!もらった…!!」
しかしここも、蒼が好反応する。
わずかに軌道の変わったタッチシュートをスティックに当て片手でボールを弾く。
「まじかよっ!!? 何だこのキーパー!」
千暉が驚きの声を上げる。
「よっし!!ラッキー!何とかスティックにあたった!」
蒼の神がかったセーブが続いた。
「蒼、ナイスじゃーーー!助かった!!」
照が叫ぶ。
時間が経つにつれ、焦りだす西比良中。
左近の地味だが効果的なパスワークが千暉のシュートチャンスを作り出す。
珠洲のスピードを活かしたショートカウンターアタック。
すべてを粘るDFとGK蒼が止めていく。
「これだけ打ってるのに入らない、、、こんなキーパー見たことない...」
観客席のどよめきの声が聞こえる。
市長杯でのPC連続セーブを思い出させる、神がかった守備が続いていた。
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最終クォーター 5分
緋色は必死に考えていた。
(このままじゃダメだ...何か、何か突破口がないといずれやられてしまう!)
青い光を働かせようとするが、相手の攻撃があまりに多彩で読み切れない。
その時、ふとみっちゃんの言葉が頭に浮かんだ。
―――『技術だけじゃダメさー。相手の気持ち、仲間の気持ち、わかるかい?』―――
そして母の言葉も。
―――『点と点を線で結ぶのよ』―――
緋色は深呼吸をした。
(そうだ...点じゃない。あの時と同じ、線で見るんだ)
頭の中が整理され、青い光が再び光始める。
以前にも感じ取れた、相手にも流れていた青い光・・・
緋色は相手の一つ一つの動きを「点」として見るのではなく、攻撃の「流れ」として「線」で捉え始めた。
千暉の下がる動き→それに反応し左近がフォローに走る→空いたスペースに珠洲が走る→勇気のロングパス。
(これは…1度されてた攻撃に似ている!そういうことか!)
すべてが線でつながって見える。
「山田!千暉さんが下がるからそのままマークついていて!塁斗先輩、逆サイ見てください!」
緋色の的確な指示が飛ぶ。
「焔!下がって左近さんをマークして!フォローに来るよ!」
「照先輩、結城さんのロングボールが来る!中のコース消して!!」
緋色の読みが当たり始める。西比良中の攻撃パターンが消されていく。
「なんだ...読まれてる?」
千暉が困惑する。
「緋色の指示が的確になってきてる。何か見え始めたか…?」
塁斗が感心する。
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最終クォーター 6分
成磐中の守備が組織的になってきた。
緋色の「線」を読む力で、西比良中の攻撃パターンを予測。
それに合わせて緋色が声を掛け、塁斗、山田、そして照と焔も守備に参加する。
「焔、左サイドのカバーお願い!」
「照先輩、珠洲さんのスピードに注意!縦に入って!」
徐々に緋色の意図に気付いた蒼と塁斗も連携して声をかけ続ける。
成磐中の全員が連携して守備を行い、スムーズに相手の使いたいスペースを潰し始めた。
それでも負けられない西比良中は攻撃の手を止めない。
千暉が起点となり、結城のロングボールから決定的なチャンスを作る。
「これで決める!」
千暉のリバースシュート。しかし、緋色がシュートコース限定して詰めている。
「させないっ!」
蒼が体を張ってブロック。すぐさま緋色が外にクリアし、ボールはサイドラインにきれた。
「ナイス緋色!それだけコースを絞ってくれたら反応しやすい!」
またも蒼がスーパーセーブ。
「蒼!蒼!蒼!」
観客席の蒼コールが最高潮に達する。
「こんなの反則だろ...どんだけ止めんだよあのGK」
珠洲が苦笑いする。
最終クォーター終了30秒前、西比良中最後の攻撃。
千暉、珠洲が連携したサイド攻撃。
「今度こそ!」
ワンツーパスから抜けた千暉が最後のシュートを放つ。
蒼が飛び出し再びセーブに向かう。
しかし今度はボールはゴールを捉えられず外側のネットに当たりゴールならず。
ブーーーー!
試合終了のホーンが鳴った。
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成磐中 2-1 西比良中
「やったーーーー!」
成磐中のベンチから大きな歓声が上がる。
「みんなよく耐えたーー!ナイスゲーム!」
観客席からも大きな拍手が沸いた。
みち先生が駆け寄ってくる。
「蒼くん!この試合は間違いなくあなたのおかげよ、ナイスGKだったわ!」
蒼は息を切らしながらも笑顔を見せる。
「みんなが守ってくれたから...僕一人じゃできなかったです」
西比良中の選手たちも健闘を讃え合う。
「粘り強い、すごいチームだったな…」
結城が成磐中の選手たちに握手を求める。
「こんなに決まらなかったのも久々だったよ!悔しいけど…楽しかった!」
千暉が蒼に言う。
「君の動きも読めなかった、良いの決められちゃったし。さすがだよ!」
珠洲が緋色に声をかける。
「最後の方、完全に読まれてたなー悔しいぜ。また全国で戦おうな、次は負けないぞ」
左近も何か言いたげな顔をしながら緋色を後から見ていた。
試合後、みち先生が選手たちを集める。
「今日の試合で、みんなが大きく成長したのがわかります」
「個人の力だけでなく、チーム全体で戦うことの大切さを特に実感できたんじゃない?」
緋色は頷く。
一人では絶対に勝てなかった。みんながいたから勝てたんだ。
「準々決勝の相手は陽翔院中です」
みち先生が次の対戦相手を告げる。
「福井の代表、北信越1位の全国でも有名な強豪校です。でも、今日のような戦いができれば、きっと良い試合ができると思います。」
緋色は空を見上げた。
西比良中という強豪に勝利できた。でも、これはまだ始まりに過ぎない。
「陽翔院中か...」
次の壁はさらに高いだろう。でも、みんなとなら乗り越えられる。
そう確信していた。
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西比良中戦の後成磐中のテントではミーティングが行われていた。
「先ほどの試合で学んだことを整理しましょう」
みち先生がホワイトボードを用意する。
「あれだけの連続の攻撃に我慢して意識しながら守れたことで、守備の連携が格段に良くなったと思うわ。」
「緋色くん、よく全体が見えていたわね。」
「それに蒼くんのセーブにとても助けられたわ」
「そして何より、最後まで諦めない気持ち。みんなが思えていたからこそ、今回の勝利につながりました」
緋色は西比良中との試合を振り返る。
西比良中の選手たちは本当に強かった。結城、町田、珠洲、千暉…左近。みんなきっと全国でも実力者たちだったと思う。
でも、そんな相手でも成磐中は負けない仲間を信じる心がある。
みんなで乗り越えられる。それがこのチームの良いとこなんだ。
「2時間後にはベスト4進出をかけた準々決勝です。今はしっかり体を休めて、次の試合に備えましょう」
みち先生の言葉に、全員が頷く。
熱戦の繰り広げられる、盛り上がる会場を緋色は見ていた。
(えみちゃんも頑張ってるかな...)
そう思うことで、また一歩前に進む力をくれた。
準々決勝まであと2時間。
陽翔院中との戦いが待っている。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
今回の試合は、緋色たちが「読んだ」ことと「信じた」ことの、
2つの力で勝ち取った勝利だったと思います。
途中までは完全に押されていて、
個人技も連携も、相手の方が上だったかもしれません。
でも、そこから“全員で守る”意味を知り、
“仲間の動きそのものが武器になる”って信じた時──
緋色の中に“線”が生まれ、蒼が全部を止めて、照が声を上げた。
もう、誰か1人じゃ守れない。でも、「一緒なら、止められる」。
そんな気持ちが、今日の試合を勝利に変えてくれたように思いました。
いま、この物語をもっと多くの方に届けたくて、
『緋色のスティック』を一冊の本にするためのクラウドファンディングにも挑戦しています。
ぜひ応援いただけたら、次の「一歩」をともに踏み出していける気がします✨
クラファンページはこちら
https://camp-fire.jp/projects/884214/view?utm_campaign=cp_po_share_c_msg_projects_show
準々決勝、そしてその先にある景色に向かって。
また、みんなで前に進んでいきます!
──ぱっち8