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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第6章
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第58話「関東の壁」



「やっぱどこもすげぇな...」


成磐中は他のコートで行われている決勝トーナメント1回戦の試合結果を観て驚きを隠せなかった。


「富久武中が威吹海中に3-1で勝利か…威吹海中も攻めていたけど。やっぱり北信越の代表は安定してるなぁ」


「陽翔院中とIWATE HCは接戦だったみたいだな。3-2で陽翔院中が勝ったみたい…」


「特にあの岩手の2番のフリックはやばい…。ネットが破れそうなほどの威力だった。高校生レベルじゃないか……? けど、総合力ではやっぱり陽翔院中が上だったか」



緋色は周りの観客の声に耳を傾けながら、改めて全国大会のレベルの高さを実感していた。


「出雲帝陵中が太嗚中に3-0で順当に勝ってる...」


すると


「みたかさっきの出雲帝陵中と太嗚中の試合!神門からのパスをFWがダイレクトシュート!すごかったなー!9番の…宮儀だっけ?あんなの今までいたかなー?」


「出雲帝陵中の完全復活だな!迅牙が戻ってきたことで選手層がさらに厚くなった」


「これでここ最近のチームでは最強になったんじゃないか?!」


試合を観戦していた2人組が興奮気味に照の隣を通り過ぎていった。



照はその話を聞いて驚き、すぐにパンフレットを見た


「え、宮儀?……ほんまに宮儀なんか!?復帰しとったん!?」


宮儀(さいぐう) 迅牙(じんが)って選手を照 先輩は知ってるんですか?前の決勝ではいなかったけど…。」


焔が照に聞くと


「俺がまだ1年の頃じゃったかな…。最初の中国大会っで大怪我して、もう辞めたって聞いてたけどまさか復帰しとるとわ……これはやばいぞ…。」


照が珍しく焦っていた。



そして、一際大きな歓声が隣のコートから響いてきた。


「加来偉中が彩浪中に5-2で勝利!また河合が3得点だぞ?!」



「え…!3得点って...また?」焔が目を丸くする。


「しかも2年生だろ?2年生でここまでの得点能力は……異常じゃないか!?」


観客席がざわめいている。


緋色も思わずそちらのコートを見ると確かに、背番号7をつけた選手が仲間たちに囲まれて喜んでいる。


「あれが河合 瞬...!!」


勝ち上がれば、準決勝で当たるかもしれない相手。


その圧倒的な実力を目の当たりにして、緋色は身が引き締まる思いだった。




ーーー




みち先生が情報を整理している。


「これで勝ち上がれば、準々決勝の相手は陽翔院中になりそうですね。」


緋色は頷く。


全国大会……きっと勝ち上がってくるチームのレベルはこれが当たり前なんだ。


「そうじゃなぁ!僕らも負けとれんなーーーー!」


照の声に、チーム全体の士気が高まる。


「僕たちも、絶対に勝ちましょう!」


焔の宣言に、緋色も決意を新たにした。



---



「それでは、もう一度相手チームの確認をしましょう」


みち先生が、西比良中の情報を書き込んだ作戦ボードを取り出した。


「昨日もミーティングで分析した通り、西比良中は3-1-1のシステムで来ると思うわ。」


ボードには、西比良中の選手たちの情報が書かれていた。


「FWにワントップだと思う、埜尻選手。相手コートを縦横無尽に走り回れるのが特徴ね」


緋色は少しだけ見た感覚だけでも普通の選手とは違う動きをしていたのを思い出していた。


「えぇ……FW1人だったら僕がマークして良いのかな...」


山田が不安そうに呟く。


「MFは左近選手。2年生ですが、昨日見たビデオだとフォローする能力が非常に高いと思うわ。…いっちゃ悪いけど地味です……が、確実に仕事をする選手だと思います」


続いてDF陣の説明に移る。


「そして、注目すべきはDF陣です。キャプテンの結城 選手はスクープやフリック」


「そしてもう一人の3年生DF、町田選手は左サイドバック。守備範囲が非常に広く、攻撃参加も積極的にしてくるわね」


「そして...」


みち先生の声に緊張が走る。


「2年生の珠洲選手。映像で見た限りそのスピードはとてつもないわ。変則的なフォーメーションだし、ここがカギになりそうね……」


「多分、3-1-1のシステムでくると思うから、この3枚のDFをどう攻略するかが非常に重要になります」


みち先生が戦術ボードに ”さらに” 書き出す。


「ただし!3枚のDFは確かに堅い。でも、逆に…」


「相手がわかってるからこそ作戦も立てれるわ。まずは守備が大事になっては来る。だけど照くん、焔くん、そして緋色くん。きみたちのコンビネーションがこの試合の生命線よ。」


みち先生の言葉に、全員が頷いた。勝機はきっとある。



---



開始前 スターティングメンバー


成磐中:GK福士 蒼、DF浦田 塁斗・山田 雄太、MF相原 緋色、FW朝比奈 照・駿河 焔


西比良中:GK太田 膳、DF結城任都ゆうき たもつ町田浩まちだ ひろ珠洲悠すず ゆうMF左近景さこん けいFW埜尻千暉のじり せんき




「よっしゃ、いくでーー!」


照の掛け声で、成磐中がピッチに向かう。


西比良中の選手たちも既にポジションについている。


確かに、DFの3人は体格もよく、風格がある。


特に結城のキャプテンマークをつけた選手は、その存在感があった。


「落ち着いていこう、みんな」


緋色が自分にも言い聞かせるように声をかける。



ピィーーー!


試合開始のホイッスルが鳴る。



第1クォーター



成磐中のボールでスタートした。


緋色がまず全体を見渡す。DFが3枚のためいつもよりプレッシャーが緩く感じる


(なるほど...確かにDFは堅そうだな、でも...)


西比良中の3-1-1システムの配置が頭に入った。


「みんな、まずは落ち着いてパスを回そう」


緋色のパスが山田に渡る。山田から塁斗へ、まずは相手の出方を見る。



千暉の動きが独特だった。

FWが一枚のため、左右に大きくポジションを変えている。そのためマークしていた山田が困惑している。


「山田、無理に一人でマークしなくていいよ!」


緋色が声をかけると塁斗がフォローに入ってくれた。


(…あれだけ左右に動かれると確かにマークはし難いかもかもしれない)




第1クォーター、何度か西比良のショートカウンターがあったが緋色と塁斗のカバーで失点を防ぐ。

両チームとも様子を見合う展開が続いていた。



第2クォーター


クォーター間の休憩でみち先生が作戦を伝える。


「ミーティングで話した通り、珠洲選手が上がった瞬間を狙ってみましょう」




FWの千暉が左に抜けた瞬間、中盤の位置に珠洲がドリブルで仕掛けてきた。


「ここよ!」ベンチからの声が聞こえる。


西比良中の右サイド攻撃。珠洲がそのスピードを活かして前線に駆け上がる。


「今だ!塁斗先輩!」


緋色が狙っていた分、青い光が鮮明に光った。


緋色がすかさずサイドに寄せると、塁斗が飛び出し2人で珠洲を止めることに成功!


「なにっ!?…まずい!」


「珠洲さんが上がったスペースが空いてる!!」


成磐中が一気にショートカウンターを仕掛けた。珠洲があがっていたスペースに焔が走る。


「緋色 先輩!」


焔が走ると西比良のDF結城がフォローにつく。


「行かせるか!…なっ!?」


緋色は塁斗からボールを受けた瞬間パスではなくドリブルを選択。


照や焔への既に見えていた青い光のパスコースを一旦キャンセル、金色の光で見えていたドリブルコースでサークル中央のコースに向け進んでいく。


(外にひらく焔に結城さん、照 先輩にもう1人のDF町田さん。行くならここだ!)


また珠洲の戻ってくるスピードとコースも消しながらドリブルの選択だった。


「ナイス緋色!!こっちじゃ!!」「緋色 先輩!!」


2つのパスコースに、緋色のドリブル。西比良中は完全に不利な状況の3v2を作られた形だ。


「照先輩!」


フリーでのシュートを避けたい町田が慌てて緋色のドリブルに対応するが、そのタイミングで縦パスを照に渡す。


珠洲の戻りより早く、町田のフォローも外す完璧なタイミングだった。


照の爆発的スピードが炸裂する。空いたスペースにでたスルーパスに反応し一気にGKに仕掛ける。


「焔!」


GKが出てきた瞬間を狙い、照からの完璧なラストパスに焔が確実にシュートを決めた。



ピピ―――――――ッ!!



「よっしゃーーーー!決まった!」


焔のシュートがゴールネットを揺らす。成磐中が先制に成功した。



1-0



「やったぁ!」


ベンチから歓声が上がる。みち先生の作戦が見事にはまった瞬間だった。



珠洲が悔しそうに地面を叩いている。


「くそっ、狙われてたなあれは...!」


自分の武器を逆手に取られた複雑さが表情に出ていた。


「あぁ、このチーム思ってたよりも強いぞ。町田、珠洲、もっと集中してDFしていくぞ」


キャプテンの結城が全体に声をかけ気を引き締める。




しかし、追加点のチャンスはすぐに訪れた。


第2クォーター終了間際、今度は焔が起点となる。



焔の細かく鋭い動きがDFを翻弄する。結城も町田も、焔の3Dドリブル+エアリアルドリブルの動きについて行くのに必死だ。


焔が得意のドリブルから、相手DFの一瞬の隙をつく


「緋色先輩!」


焔から緋色へのバックパス。


緋色はトラップで向きを一瞬で変える。


「うぉ―――い、左近!どこいった!?」


左近のマークを外し、視野を一気に逆方向へ広げる。


「ここだ!照先輩!」


スルーパスが照に通る。照がペナルティエリアに入った瞬間、豪快なシュートを放つ。


DFに入った珠洲のカバーも間に合わない。


「よっしゃ―――!ナイスパス!んでナイスシュートじゃおれーー!!!」


照の大声で成磐中が一気に盛り上がる



「おお、また成磐中がゴールだ!!!あの西比良中に2点差もつけたぞ!」


「本当に強いんじゃないか!?」


観客席では驚きと称賛の声が相次いでいた。



2-0



第2クォーター終了のホーンが鳴り、2-0で折り返した成磐中のベンチは沸いていた。


「これまでにない完璧なスタートですね。強豪相手にここまでできるのは、みんなの気持ちがしっかり入ってる証拠ですね」


みち先生も満足そうだ。


「しかし、このまま最後まで行けるとも限りません。集中していきましょう!」


緋色には不安な予感があった。関東2位の強豪チームが、このまま終わるはずがない。



---



ハーフタイムから戻ってきた西比良中の選手たちの表情が、明らかに変わっていた。


特に千暉の目つきが鋭くなっている。


「このまま終わってたまるか...見てろよ」



ピィーーーー!



第3クォーター


後半開始のホイッスルと同時に、西比良中が激変した。


千暉の動きがさらに予測不可能になる。今度は山田だけでなく、塁斗も翻弄される。


「えぇ、どこにいくんだ!?...どうすれば…」


山田の困惑した声が聞こえる。


千暉は ”わざと”山田の視界に入りながら塁斗の守備範囲内にポジショニングしていた。


マークにつかれながらも塁斗に近づいて行ったり、サイドいっぱいに張り付いたり。




第3クォーター 2分



「山田!俺がつくから他のカバーに入れ!」


塁斗が必死にフォローに回る。が、山田は混乱していた。


「僕も手伝います!」


緋色も守備に参加した瞬間、千暉の動きが変わった。


鳴りを潜めていた左近が結城からのスクープパスに反応。緋色たちが警戒していた千暉ではなく左近にパスが渡ったことで後手に回ってしまった。


「ここだ!!」


左近が受けた瞬間、センタリングを素早くサークル内に打ち込んだ。


山田はマークに着こうと千暉に寄っていたが塁斗とぶつかり交錯してしまった。


「あ、…やばい!」


「待ってたぜー!もらったーー!!」


千暉が一瞬の隙をつきゴールネットに突き刺さる豪快なタッチシュートをきめてみせた。


ピピィーーーーーーー!!!!


「よっしゃ―――――!!まだまだ終わらせない!もっと決めるぞ!」


一発で決め切った千暉は意地を見せる。



「ナイスシュート!!このまま逆転までいけー!」


一瞬の得点劇に西比良中の応援席は盛り上がりを見せた



2‐1



その後は完全に西比良中ペースになる。


第3クォーター 5分


右サイドから珠洲に加え、結城と町田が積極的に攻撃参加を始めた。


結城のロングストロークが成磐中のゴールを脅かす。


町田の左サイドからの攻撃参加に、成磐中の右サイドが手薄になる。


さらに、珠洲のスピードを活かしたカウンターが成磐中の守備陣を苦しめる。


「ナイスキーパー!!蒼助かった!」


西比良中のPC。


結城のフリックも蒼が好セーブを見せ何とか防ぐ。




「なんじゃこりゃ…さっきまで俺たちのペースじゃったのに一気に持ってかれたぞ!このままじゃヤバい...」


照は肌感覚で圧倒的に押される試合状況に焦りが口に出る。



「みんな、まだ1点差だ!落ち着いて守ろう!」


蒼の声が響く。



しかし、西比良中の攻撃は勢いを増すばかりだった。


千暉が左近とのワンツーパスで山田を完全に外し、シュートコースを作る。


結城のロングボールが正確に千暉に供給される。


町田の左サイドからのセンタリングが危険な場面を作り出す。


珠洲のスピードでカウンターが次々と決まりかける。


「実力を見せつけられてる...」


なんとか蒼の好セーブに助けられ失点は免れていた。


緋色も必死に守備に回るが相手のスピードと攻撃パターンがあまりに多彩で読み切れない状況だった。




第3クォーター終了間際、またも西比良中の猛攻が続く。



千暉の縦横無尽な動きと予測不能なドリブルに、山田が完全に置き去りにされる。


「やばい!」


緋色が必死にカバーに入るが、千暉のシュートは既に放たれていた。


「よっしゃ、これで同点だーー!!!」


蒼が懸命に手を伸ばし反応するも届かない。


「やばい……!!」



ゴォーーーーン!!


ゴールポストを叩く音が響く。


「危ない!助かった...」


「ちっ!!だが完全にうちのペースだ!」


千暉は得点の匂いを感じていた。


第3クォーター終了のブザーが鳴る。


「みんな、最後のクォーターよ!気を引き締めて!」


みち先生の声が響く中、西比良中の猛攻は止まる気配がない。


緋色は歯を食いしばった。このまま押し切られるわけにはいかない。


最終クォーターで何かを見つけなければ...西比良中の攻撃はまだ終わらない。



ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


「あと1点差」というプレッシャー。

攻められ続ける緊張。

守るだけでは勝てない、でも崩せなければ終わってしまう。


そんな“静かな崖っぷち”の時間を、今回は描けたんじゃないかと思います。


西比良中の変則的な布陣、その中でも光った千暉の突破力──

それに、振り切られそうな緋色と成磐中…。


試合を“コントロールできない”状態の怖さと、

「それでも何かを見つけよう」とする緋色の言葉。


このあと始まる最終クォーターに、彼らがどんな1プレーを出せるのか──

続きも、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


そして、いま現在この物語を「1冊の本」として形にするための挑戦も進んでいます。


【クラウドファンディングはこちら】

https://camp-fire.jp/projects/884214/view


描く、ということはいつだって覚悟の連続で、

それを続けられているのは、読んでくださるあなたのおかげです。


「1点を追いかける物語」と

「夢をつなぐ本づくり」が、今こうして交差している。


応援、心から感謝しています。


──ぱっち8



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