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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第6章
54/74

第53話「新たなステージへ」


週明けの月曜日、部活の朝練習。


「おはよう、緋色」


蒼がいつも通り声をかけてくる。


「あ、おはよう」


「おはよう、緋色くん!蒼くん」


女子部の部室から歩いてくるえみと美咲が2人に声をかけてくれた。


えみと目が合った瞬間、緋色の心臓が跳ね上がる。


えみは普段の自然な笑顔を返してきた。


いつもと変わらない、でも少し特別な笑顔。


「お、おはよう、えみちゃん、美咲先輩」

「おはようございます」


美咲がにやけながら、えみに聞いてきた。


「えみ~……昨日の夏祭り、楽しかった?花火、綺麗だったね~」


美咲の質問に、緋色とえみは一瞬固まる。


「う、うん!楽しかったし、とってもきれいだったね!」


えみが少し頬を赤らめ、慌てて答えると


「緋色も言ってたんでしょ花火大会。今年のお祭は ”特に” 良かったんじゃない?」


蒼は意味ありげな笑みを浮かべる。


「う、うん!」(……まさか、みられてた?!)


美咲がえみの肩を小突く。


「いいねぇ~青春だ!私にも春が来ないかな~」


「もーーーーー!!」


えみと美咲はじゃれ合いながら練習場へと走っていった。



ーーー




午後の練習前、みち先生が全員を集めた。


「みなさん、全国大会の組み合わせが正式に発表されました」


みち先生が大きな組み合わせ表を掲示板に貼り出す。



ーーー


全国大会 出場校(A〜H組)


グループA

富久武とくたけ 中学校ちゅうがっこう(富山県 北信越3位)

彩浪あやなみ 中学校ちゅうがっこう(香川県 四国1位)

大那おおな 中学校ちゅうがっこう(熊本県 九州2位)


グループB 

出雲帝陵いずもていりょう 中学校ちゅうがっこう(島根県 中国1位)

華司かじ 中学校ちゅうがっこう(岐阜県 東海2位)

納伴のうばん 中学校ちゅうがっこう(埼玉県 関東3位)


グループC   

涌陽わくひ 中学校ちゅうがっこう(鹿児島県 九州1位)

西比良にしひら 中学校ちゅうがっこう(栃木県 関東2位)

海衛ほくえ 学園がくいん(北海道 北海道・東北4位(開催県枠により出場))


グループD

丹々HFCただ えいちえふしー(兵庫県 近畿1位)

IWATEいわて HCえいちしー(岩手県 北海道・東北1位・開催シード枠)

師羅夷しらい 中学校ちゅうがっこう(山梨県 関東4位)


グループE

陽翔院ようしょういん 中学校ちゅうがっこう(福井県 北信越1位)

伊舌だぜつ 中学校ちゅうがっこう(宮城県 北海道・東北3位)

紀宗きしゅう 中学校ちゅうがっこう(和歌山県 近畿3位)


グループF

岐阜 日夕館ぎふひゆうかん 中学校ちゅうがっこう(岐阜県 東海1位)

成磐せいわ 中学校ちゅうがっこう(岡山県 中国2位)

火宇根ひうね 中学校ちゅうがっこう(奈良県 近畿4位)


グループG

川米かわま 中学校ちゅうがっこう(山形県 北海道・東北2位)

太嗚たお 中学校ちゅうがっこう(福井県 北信越2位)

シューティングレイヴ広島(表記:SR広島中)(広島県 中国3位)


グループH

加来偉かぐい 中学校ちゅうがっこう(栃木県 関東1位)

威吹海いぶみ 中学校ちゅうがっこう(滋賀県 近畿2位)

斐千璃いじり 中学校ちゅうがっこう(佐賀県 九州3位)


ーーー


「まず、私たちのグループを見てみましょう」

グループF

岐阜 日夕館 中学校 :東海地区1位

成磐中学校     :中国地区2位

火宇根 中学校   :近畿地区4位


「岐阜 日夕館中は去年の全国ベスト8です。火宇根中も近畿の強豪校です」


照が声を上げる。


「でも、俺たちも中国大会 準優勝じゃけぇな!負けとらーーーん!」


みち先生が全体の組み合わせ表を指しながら続ける。


「有名なところだと、加来偉中、陽翔院中、丹々HFC、岐阜 日夕館中など全国常連校に加え涌陽中など以前対戦したところもいるわね。」


緋色は組み合わせ表を見回し、グループCで「海衛学園」を見つけた。


(凜太郎!勝ち上がれば…楽しみだ)

心の中で叫ぶ。北海道での約束が果たされる。


「私たち成磐中は久々の全国よ、まずは予選リーグ突破に集中しましょう」



「そして、もう一つお知らせがあります」


みち先生が続ける。


「全国大会に向けて、今週末から学校での泊まり込み強化合宿を行います。土曜日は朝から特別練習を予定していますので、各自準備をお願いします」



ーーー



土曜日の朝、グラウンドに集合した部員たち。


「みんな、おはよう!」


聞き覚えのある声に、全員が振り返る。


「誠先輩!」


昨年のキャプテン・長瀬 誠が立っていた。


その隣には、さらに前の卒業生たちも。


「よう、後輩たち。全国行くんだろ?手伝いに来たぜ」


誠の隣にいた先輩が自己紹介する。


「俺は二年前ここでやってた高2の、誠の先輩の棚橋だ。よろしくな」


もう一人も続く。


「俺も同じ高2の山本です。高校ではやってないんだけど、全中に後輩が出るって聞いて久しぶりにホッケーやりたくなってさ」


みち先生が微笑む。


「実は今日、卒業生の皆さんに練習試合の相手をしてもらいます」


そして、もう一人の人物がグラウンドに入ってきた。


「え……えぇ!? お、お父さん!?」

緋色が驚きの声を上げる。


巧真が静かに歩いてくる。


「おはようございます。相原巧真です。今日は皆さんの練習のお手伝いをさせてもらいます。」


巧真が挨拶すると、みち先生が付け加える。


「実は緋色くんのお父さんも元成磐中のホッケー部なの。全国大会にも出てるのよ。学生の頃は『白い魔術師』なんて呼ばれてたりした凄い人なんだから」


みちの発言に巧真が焦る。


「みち先生!昔のことですから…!」





練習試合が始まった。


成磐中 vs 卒業生+巧真+みち先生チーム


試合が始まると、卒業生たちが後輩に違いを見せる。


誠がコースを巧く制限しコースを切ると、打たれたシュートは難なくGKの前へ。


「こんなんじゃはいんなぞー!」


弾いたボールにすぐさま誠が反応し巧真へ、、、その瞬間。


巧真のプレーに全員が息を呑んだ。


ボールを持った瞬間、まるで時間が止まったかのように…。


全体を俯瞰するような視線。予測のできない正確無比なパス。的確な指示とポジショニング。


まさに「魔法」のようなプレーの数々。


「すげぇ……ほんとにずっとやってなかった人なの…!?次元が違う」

焔が呆然とつぶやく。


特に印象的だったのは、巧真が見せた変幻自在のパス。


塁斗と山田が挟み込んだ瞬間、ボール1つ分だけ浮かせスティックに触らせない絶妙な低空パス。

焔が警戒し、距離を取れば簡単に頭上を越えて前線へスクープパス。

緋色が奪いに行くと簡単にキープされ、裏のスペースへのスルーパス。

時間、スペース、間合い。ワンーツーにダイレクトパスなど、ありとあらゆる技術をみせてくれた。

 

また、味方に渡すパスはどれも正確で、味方の取りやすい場所に次々と供給されていく。


「これが…… ”パス” ってことなのか」


成磐中の全員が父・巧真の技術に圧倒されていた。


前半終了、1- 3で卒業生チームがリード。


ハーフタイムの指導


「みんな、よく戦っているよ。上手になったね」


巧真が現役チームの輪に入ってきた。


「ただ、いくつか前から試合を観ていて気づいたことがあるんだ」


一人一人を見ながら、的確なアドバイスを送る。


「焔くん、君の3Dドリブルはすごいね、1年生とは思えないくらい。でも、使うタイミングをもう少し…」

「なるほど…」

「塁斗くん、守備の連携は見ていてとても良いと思うよ。あとは、攻撃の時に…」

「…わかりました!」

「照くん、ゴール前での存在感は素晴らしい。でも、時には…」

「おおー!確かに!!」


そして緋色の前に立つ。


「緋色、お前はよく周りが見れるようになったね。味方のことが本当によく見え始めてる。あとは味方だけじゃなく、…もっとフィールド全体の『息』を感じてごらん?それがきっと新しい扉になる。魔術師による『魔法の』の始まりだ。」



後半開始



後半、現役チームの動きが明らかに変わった。


焔、塁斗、照など成磐中のメンバーは巧真からのアドバイスを活かし自分の可能性を広げていく


そして緋色は巧真の言葉を自分で考え、試行錯誤しながらパスを出す。


「ナイスパス!」


焔がゴールを決める。


試合は2-4で終了した。



練習試合後、巧真は個別指導の時間を設けた。


緋色とのパス練習で、巧真は


「よくあの決勝で全体を見て、自分だけじゃなく周りのFWを使って攻めれたな。それに敵の動きもそれなりにみれてた。」


中国大会決勝を思い出しているようだった。


「緋色、覚えているか?去年の夏、庭でやったことを」


「うん」


巧真がボールを軽く浮かせる。


「これが次の段階だ。…何が見えてる?」


「…え?」



その後、夕方5時になり巧真は帰っていった。


「ありがとうございました、きっといい結果を報告出来るように頑張ります!」

みち先生は卒業生と巧真に深々とお礼を伝えた。



夜、宿泊用の教室で、みんなが集まっていた。


「今日の誠先輩、高校行ってレベルあがりすぎじゃねぇー?全然抜けんかった… それに巧真さんのプレー、ヤバすぎる!」


照が興奮冷めやらぬ様子で語る。


「あれが『白い魔術師』か……」


蒼も感嘆の声を漏らす。


緋色が口を開く。


「父さんも、誠先輩も、みんな僕たちのために来てくれた。期待に応えたいね。」


焔が頷く。


「僕も今日、たくさん学びました。もっと練習します」


塁斗も決意を新たにする。


「組織的な守備と…絶対本番でやって見せる!」


照が拳を握る。


「全国ベスト4……いや、もっと上じゃーー!」


「みんなで行こう。去年、誠先輩を連れていけなっかった全国の舞台へ」


緋色の言葉に、全員が頷いた。


窓の外には、夏の星空が広がっていた。


全国大会まで、あと2週間。


新たなステージが、すぐそこまで迫っていた。

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