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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第5章
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第52話「笑顔」


中国大会決勝戦から一週間。


成磐中ホッケー部のグラウンドに、青刃中学校の選手たちがやってきた。


「今日はありがとうございます」


みち先生が頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそ。全国大会に向けて、少しでも力になれれば」


青刃中の監督が笑顔で応える。


青刃中は中国大会3位決定戦で敗れ、全国出場を逃していた。


それでも全国に出場する成磐中のために練習試合を申し出てくれたのだ。


「よっしゃー!今日はよろしくお願いしまーす!」


天音の嬉しそうな大きな声が青い人工芝に響く。


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


蒼が丁寧に頭を下げる。


練習試合が始まると、両チームとも中国大会の余韻そのままのプレーを見せた。


緋色のパスに照の豪快なシュートや、藍人の鋭いドリブルvs塁斗の守備など白熱したプレーの連続。


そして両GKの見事なセーブなど、見ごたえのある試合展開がみられた。


そして


「緋色先輩!」


パスを受けた焔は得意の3Dドリブルから、無理に打つのではなくアシストを選択。


焔も土紋との対戦を経て、より冷静に判断するようになっていた。


「うおー!焔、前より落ち着いてるじゃんー!負けてられ―――ん!!」


雷太が嬉しそうに声を上げ焔に張り合っていた。


「雷太も相変わらずスピードのあるドリブル!僕も見習わなきゃ」


焔が素直に雷太を褒める。


練習試合は意義のある時間になっていた。


「いやー、みんな中国大会が終わって凄ぇ上手くなっとんなー!」


照が満足そうに汗を拭く。


「全国大会、俺たちの分まで頑張ってくれよ」


藍人が緋色の肩を叩く。


「うん。きっと良い結果を持って帰ってくるよ!」


緋色が力強く答える。



その時、照が思い出したように手を叩いた。


「そうそう!今日って土曜日だよな?明日、地元で夏祭りがあるがん!俺ら久しぶりに休みだし、天音も一緒に行こーで!」


「おー!いいっすね!行く行く!」


天音が即座に反応する。


「んじゃ、ついでに雷太も一緒に来いよ!」


「良いんですか?やったー!…ついで?」


雷太も(?)喜んで手を上げる。


その様子を見ていた藍人が、ふと緋色の表情に気づく。


緋色は少し離れたところで、女子部の練習を見つめていた。


その先には、笑顔で片づけをしているえみの姿があった。


「・・・なるほど」


藍人は以前の『Hockey Lab』のことを思い出し小さく微笑んだ。


隣で騒いでいる天音と雷太、主犯格の照に近づく。


「俺も一緒に行こう。俺たち ”で” 楽しもうぜ」


「お?おうーーー…?」戸惑う3人に


藍人と目が合った蒼も反応する。


「僕もこのメンバー "で" 行きたいです」


念を押す蒼。


その時、練習を終えた女子部の美咲がえみと緋色のもとにやってきた。


「お疲れ様!練習試合はどうだった?」


えみが緋色に声をかける。


「あ、えみちゃん。お疲れ様。とても良い練習になったよ」


緋色が振り返ると、えみの笑顔が目に飛び込んできた。


「そうそう、お祭りの話、聞こえちゃった」


美咲が意味深に笑う。


「えみ、今年はどうするの?」


「あー、そうだね。まだ決めてないんだ」


えみが緋色を一瞬見るがすぐに目をそらす。


「お母さんと行こうかなー、なんて…」


緋色の心臓が早鐘を打つ。


(そうだ...去年、えみちゃんと約束したんだった)



――――「ふふっ♪ 来年の夏祭りも、一緒に来れたらいいね」――――



去年の夏祭りでの記憶が蘇る。




その時、ニヤニヤした蒼が緋色の肩を叩いた。


「緋色、僕は ”約束" があるから今年はちょっと行けないかもな~」


美咲も笑いながら頷く。


「そうそう、 私も"一緒" に行きたいけど用事が出来ちゃってさ~」


藍人が察したように天音と雷太、照を呼ぶ。


「天音、雷太、照先輩。そういや、さっき先生が怒って3人探してたぞ。今のうちに逃げよう」


「え?なんで?なんかしたっけ?」


「まあ、いろいろとあるんだよ。急ごう!」


藍人が意味深に笑いながら、三人を引っ張っていく。


美咲も蒼に目配せする。


「あ、私たちも先生に用事があるんだった!蒼くん行こう!」


「そうでしたね!急がなきゃ!」


二人が手早くその場を離れていく。


「え?…あ、蒼!?…美咲 先輩!?」


気がつくと、緋色とえみが二人きりになっていた。


(みんな...まさか、わざと僕たちを二人に…?!)


(…い、言うぞ……!)


緋色は深呼吸すると、えみを見つめた。


「えみちゃん...もしよかったら」


「…?」


えみが首をかしげる。


「明日の夏祭り...一緒に行かない?」


緋色の言葉に、えみの顔がぱっと明るくなった。


「うん!行きたい!」


えみの即答に、緋色は安堵の息を漏らす。


「ほんと!?」


えみの笑顔に、緋色の胸が熱くなった。


「明日の6時に、えみちゃん家まで迎えに行くね!」


「うん!ありがとう…楽しみ!」


えみの嬉しそうな表情を見て、緋色は胸の高鳴りを感じていた。


(……よかった!!)



ーーー



日曜の夕暮れ時。


地元の夏祭り会場は、子供たちや家族連れで賑わっていた。


緋色は普段より少しおしゃれをした格好で、そわそわしながらえみの家の前に到着した。


「緋色くん!」


その声に目を向けると、そこには浴衣姿のえみが立っていた。


去年とは違うオレンジに薄いピンクの花がちりばめられた浴衣に赤い帯。


髪は普段よりも少し上にまとめられ、小さな花の髪飾りが揺れている。


「あ...」


緋色は一瞬、言葉を失った。


「ど、どうかな?変じゃない?」


えみが少し恥ずかしそうに聞く。


「(すごく可愛い...)と、とても似合ってる!」


緋色の素直な言葉に、えみの顔が赤くなった。


「ありがとう...緋色くんも今日はおしゃれしてくれたんだね」


「え……へ、変かな?」


「ううん!いつもよりちょっと頑張ってくれた感じ?かっこいいよ!」


えみの言葉に、緋色も照れ笑いを浮かべた。


「じゃあ、行こうか」


「うん!」


二人は並んで、お祭り会場を歩き始めた。


「わあ、やっぱりすごい人だねー」


えみが周囲を見回す。


「そうだね。でも、僕こういう雰囲気、好きだな」


緋色が答えると、えみが振り返る。


「私も!昔から、お祭りって特別な感じがするよね」


二人は屋台が立ち並ぶ通りを歩いていく。


「あ、金魚すくい!」


えみが指差す。


「やってみる?」


「うん!」


金魚すくいの屋台で、二人は並んでポイを持った。


「えみちゃん、上手だね」


「ふふっ♪昔、おばあちゃんに教えてもらったの」


えみが器用に金魚をすくい上げる。


緋色は昔の記憶を思い出していた。


(そういえば、小さな頃も一緒にお祭りで金魚すくいをしてたっけ…)


当時のえみの嬉しそうな満面の笑顔を思い出す。


(あの頃から...えみちゃんの隣で笑った顔を見るのが…好きだったな…)


「緋色くん?どうしたの?」


えみの声で我に返る。


「あ、ごめん。昔のことを思い出してて」


「昔のこと?」


「えみちゃんと一緒にお祭りで金魚すくいしたなって。その時もえみちゃんは金魚すくいが上手だった!」


「ふふ♪覚えてくれてたんだ」


緋色の言葉に、えみの頬が少し赤くなった。



「あ、りんご飴!」


えみが次の屋台を見つける。


「買おうか」


「うん!」


りんご飴を買って、二人で歩きながら食べる。


「お祭りだね~」


えみが笑顔で言う。


緋色はえみの楽しそうな横顔を見つめていた。


(僕は...もしかして、そのころから...)



遠くから花火大会の開始アナウンスが聞こえてきた。

「まもなく花火大会を開始いたします」



その時、遠くから大きな声が聞こえてきた。


「おーい!天音ー!緋色がなかなか見つからんなー!」


振り返ると、天音と照が周りを見渡しながら歩いていた。


(あ、……あれは照先輩と天音!!)


緋色は心の中で焦る。(まずい!!!)



「見つけたら一緒に回ろうと思っとんのになー」


照が近づいてくる。


「来てないいんかなーー?」


天音が迫る。



その時、少し離れたところから様子を見ていた蒼と美咲が


「あーあ、せっかくいい雰囲気だったのに!」


美咲が小さくため息をつく。


「もーー、何とかしないと」


蒼が立ち上がる。


「天音!照先輩!」


蒼が駆け寄る。


「あ、蒼!」


「奇遇ですね!藍人があっちの方で探してましたよ?行きましょう!」


「え?でも俺らは緋色をさが...」


「いいから!急いで!」


蒼が強引に照と天音の背中を押す。


美咲は緋色に目で合図を出し


(今のうちに!)


蒼と美咲の連携で天音と照をその場から遠ざけてくれた。


(2人とも...また僕のために………よし!!!!)



その隙に緋色は意を決して、えみの手を取った。


「えみちゃん…花火の見える特等席があるんだ。…行こう!」


えみの手の温かさを感じながら、緋色は歩き出す。


「え?…うん!」


えみは嬉しそうに手をにぎり返し、緋色について行く。




二人はお祭り会場から少し離れた小さな公園に向かった。


それは二人が小さい頃によく遊んでいた、馴染みの公園だった。


「ここ...」


「覚えてる?昔、よく一緒に遊んだ場所」


「うん。ブランコで競争したり、かくれんぼしたり」


えみが懐かしそうに周りを見回す。


「ここなら、花火もよく見えるんだよ」


二人は公園にある、1つしかないベンチに座った。


「もうすぐ花火が上がるよ」


緋色が空を見上げる。


「うん…」


えみが緋色の隣に座る。


その時、最初の花火が夜空に打ち上げられた。


大きな光の花が咲き、パチパチと音を立てて散っていく。


「きれい...」


えみが花火に見とれている。


緋色はえみの横顔を見つめていた。


花火の光に照らされたえみの顔。目を輝かせて空を見上げる表情。


(去年よりも、、、こんな特別な気持に気付けるなんて)


次々と打ち上げられる花火に、えみが立ち上がり歓声を上げる。


「わあ!すごい!ふふっ♪楽しいね!」


えみが緋色をみて笑いかける。


その瞬間、緋色の胸に強い感情が込み上げてきた。


(この笑顔......僕は...やっぱり…)


「……好きだ...」


緋色の口から、無意識に言葉が漏れた。


「え?」


えみが振り返る。


「あ!」


緋色は慌てて言葉を繋げた。


「ホ……ホッケー!ホッケーが好きだな~って!えみちゃん、あ、あの時、誘ってくれてありがとうね!」


必死にごまかす緋色。


「ふふっ♪どういたしまして!一緒に全国大会も頑張ろうね」


えみも内心ドキドキしながら答える。


(え…今なんて...)


二人の間に、少し甘い沈黙が流れた。


花火は続いている。


「緋色くん」


「うん?」


「今日は、本当に楽しかった。ありがとう」


「こちらこそ。また...また一緒に来ようね」


「うん!約束だよ」


えみの笑顔に、緋色は改めて思った。


(僕は、えみちゃんが好きなんだ)


その想いを胸に、二人は最後の花火を見上げた。


夏祭りの夜が、静かに更けていく。


新しい季節、そして新しい戦いに向けて、緋色の心にも新しい想いが芽生えていた。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


「緋色のスティック」はホッケーを通して、

仲間と成長していく物語ですが、

こうした“たった一言”が胸を震わせる瞬間も、大切に描いていきたいと思っています。


スポーツだけじゃない。

勝負の場だけじゃない。

フィールドの外にも、たくさんの“ドラマ”がある。


今日のお話は、そんな日常の中での、

ぎこちなくて、まっすぐで、

でも確かに“前に進んでいる気持ち”を書けたんじゃないかと思っています。


──この物語を、形にして届けたくて、

現在、クラウドファンディングに挑戦しています。


「緋色のスティック」を1冊の本にして、

緋色たちの青春を、手にとって読めるものとして残すために。


もし、この1話でも「少しでも心が動いたな」と思ってもらえたら、

ぜひ、クラファンページも覗いてみてください。


【クラウドファンディングページはこちら】

https://camp-fire.jp/projects/884214/view


物語は、まだ続きます。

全国への道。そして、それぞれの想いがつながっていく先へ。


一緒に見届けてもらえたら嬉しいです。


応援、よろしくお願いします!


──ぱっち8

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