第51話「それぞれの決着」
中国大会決勝戦、残り3分。
成磐中と出雲帝陵中の激闘は、3-2で出雲がリードする緊迫した状況が続いていた。
その時、観客席がざわめいた。
「おお、成磐中の女子が来たぞ!」
男子の3位決定戦がシュートアウト戦までもつれたため、決勝戦の開始時間が少しずれていた。
そのおかげで、第3位で全国出場を決めた成磐中女子ホッケー部の選手たちが、試合終了間際に応援に駆けつけることができたのだ。
「みんな、お疲れ様!間に合ってよかった」
息を切らせながら観客席に滑り込む女子部員たち。
その中には、えみの姿もあった。
「えみちゃん!」
緋色の母・けいが手を振る。
「こんにちは、けいさん!私たちも全国行けました!」
えみが笑顔で答えながら、すぐにフィールドに視線を向ける。
(緋色くん... 頑張って! )
試合は依然として出雲帝陵中ペース。
颯真を中心とした組織的な攻撃で、成磐中は守勢に回らされていた。
残り2分30秒。
成磐中にセンターライン中央からのフリーヒット。
緋色がボールをセットし、深呼吸する。
(まだ時間は残ってる。)
その時、観客席から大声援が響いた。
「 男子部のみんな!私たちも全国決めてきたよー!最後までがんばれーーー!!」
女子部の応援の声が、フィールド全体に響く。
「緋色くん!頑張ってー!」
大声援の中でもえみの声だけが、なぜか緋色には澄んで聞こえ…
胸の中に温かな想いが広がった。
(えみちゃんの声...こんな時なのに落ち着くな……そうだ。 まだ諦めない、まだ終わってない…!! )
再び深呼吸し全体を見渡す。
負けたくない。 颯真に、この状況に、そして何より...
(仲間のために... 家族のために... えみちゃんのために...! )
その瞬間、声援が止み緋色の視界にさらなる変化が起きた―――
いつもの青い光に、再び光だした金色の光。それが―――重なり始める。
(これは………いける…!!)
パスコースが、仲間の動きが、相手の隙が、すべて鮮明に見える。
「今だ...!焔!」
緋色のパスが、右に広がっていた焔に向かう。
焔が飛び出した瞬間、緋色が再度パスを要求。
正面にいた颯真が反応しディフェンスにはいる。
リターンのパスをもらった瞬間左足で踏み込み、颯真を背負いながらのリバースターン。
「なにっ…速い!!」
リバースターンしてすぐにリバーススイープ。再度、焔とのワンツーしたボールは颯真の裏に通る。
焔は緋色と目が合っただけなのになぜか自然と体が動いていた。
焔は颯真の裏でパスを受け取ると、サークルの左からゴール正面に走っていた照に絶妙な速さでパスを出す。
「照先輩!!!」
焔についていた土紋が颯真のカバーに走る。照のトラップorシュートを阻止しにスティックを伸ばす。
「打たせないっ!……なに!?」
照が絶妙なスルーパスに走る瞬間、緋色と目が合う。
照は土紋との駆け引きを見ながら思う。
(…まさか……まさか、こーゆう事なんか…!!!??)
照はトラップもシュートも選択せずにそのパスを
「スルーーー!!!」
すぐさま照の裏へ走っていた緋色へ再びボールが届く。
土紋は照が邪魔になり緋色へ向かえない。
颯真は抜かれた後すぐにゴールへ戻っていた。
GKも反応しゴールのニア側を守り、颯真がカバーに入る。
「させるか!!」
緋色はリバーストラップと同時に今度は右で踏み込み、フォアターン。
(こいつ…!!どこまで見えて…!!?)颯真が初めて見せた驚きの表情。
スピードに乗ってカバ―に入っていた颯真は自身の勢いを止めらない
しかし、最後は左手一本でスティックを出し止めに入る。
緋色はそれも見えていた。
右抜きからすぐさまピックアップドリブル。GKも颯真もかわしシュート。
ゴールネットが大きく揺れる。
緋色はすべて「光」に導かれるように動き、周りの動きも完全に読み切った。
「ゴォォォォォォォール!!」
3-3。 同点。
「やったああああ!!」
成磐中ベンチが飛び跳ねる。
「うわああああ!!何という流れるような連携なんだ!!ていうかあの8番、神がかってないか!!??」
観客席は唖然としつつも、すぐさま大爆発!えみも立ち上がって喜んでいる。
田村監督が身を乗り出す。
「なんだあの動き... 完全にあの神門 颯真を抜き去っってしまったぞ!?岡山にあんな選手が埋もれていたのか!!間違いなく大収穫だ」
一方、颯真は緋色を見つめていた。
(ははは…面白い...!!これだからホッケーは面白い!)
残り1分。
再開の笛が鳴り、時間的にも出雲帝陵中の最後の攻撃。
「よっしゃーーー!もう一点取って大逆転じゃーーー!!」
照の声に全員が声を上げ集中する。
颯真がボールを持ち、今までにない本気の表情を見せていた。
「楽しかったぜ。最後に... 俺の全力を見せてやる」
颯真のドリブルが始まった。
照と山田が笛と同時にボールを奪いにくるが空中で左右に動かし軽々と抜く。
緋色がすぐさまカバーに入るが
「颯真!!」
味方が呼ぶ声すらフェイントに使い、パスと見せかけ鋭い右抜き。
たった一瞬でまるで雷が走ったかのようスピードで3人は抜かれてしまう。
「くそっ!!まじかよ…!!まだ本気じゃなかったんか!?」
先ほどとは逆の立場。 今度は颯真が攻め、成磐中が守る。
颯真の変幻自在のドリブル。 左、右、また左。終盤に来ても落ちることのない技術、スピード。
必死についていこうとするが、颯真の技術は別次元だった。
「させない...!」
しかし颯真は塁斗すら3Dドリブルで抜き去り、サークルに進入しゴール前へ。
蒼が必死に間合いを詰めるが、颯真のシュートは完璧なコースに飛んだ。
ゴールネットが再び揺れる。
「決まったーーーーーーー!!!」
先ほどまで沈んでいた出雲帝陵中側の観客席の応援団が大盛り上がり。
4-3。
同点からたった1分もたたずしての逆転弾。
その瞬間、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「お疲れ様でした!」
両チームの挨拶が響く中、颯真が緋色のもとに歩いてきた。
「やはり... お前は面白い。 認めてやるよ、久々に楽しかったぜ。 次もやろう」
颯真が手を差し出す。
「はい... 僕も楽しかった。結局勝てなかったけど… 必ず。必ず追いついてみせる!」
緋色が颯真の手を握り返す。
敗戦の悔しさはあったが、緋色の表情は清々しかった。
「みんな!」
緋色がチームメイトを見回す。
「負けたけど... 僕たちは確実に成長してる。 全国では、もっと強くなった僕たちを見せよう!」
「おう!」
照が拳を上げる。
「全国でリベンジじゃあ!」
試合後、大会本部では重要な会話が交わされていた。
「椎名先生、神門監督、少しお時間をいただけますか」
U15代表監督の田村が二人を呼びだしていた。
「来年春の国際大会に向けて、今日の試合を見させていただきましたが... 決勝戦にふさわしい良い試合でした。そして神門 颯真くんと相原 緋色くんを、U15代表の選考会に特別枠で招待したいと思っています」
みち先生が驚く。
「え... 緋色くんも!?」
「はい。14歳での抜擢は異例ですが、今日のプレーを見て確信しました。 2人とも、いずれ日本代表として戦える逸材と判断しました。」
神門烈真が頷く。
「颯真にとっても良い経験になります。ありがとうございます」
出雲帝陵中のテントに戻る際、烈真は巧真の姿に気付いた。
そこには、静かに息子を見守る相原 巧真の姿があった。
烈真は迷わず歩いていく。
「...巧真!!」
巧真が声に驚き振り返る。
二人の視線が交わりしばらくの沈黙の後、烈真が口を開く。
「見に来てたんだな…ちょっと痩せたか?」
「あぁ…あれからずっと何もしてないからな…。」巧真が返す。
「…どうだった俺の息子は?凄かっただろ?…それにお前の息子、緋色くんも!中学校当時の俺たちとは比べ物にならないよな。」
「そうだな…。」
「…帰ってこいよ巧真。お前がいないと張り合いがないんだ...」
「…しかし、俺は……。お前のプレーヤーとしての夢を奪ってしまったんだ。…のこのこ自分だけスティックを握り続けるなんて…」
巧真の目に、涙が浮かんだ。
「烈真... すまなかった。 あの時は...」
「もういい。昔のことだろ?」
―――過去、巧真と烈真はライバルだった。
「白い魔術師」と呼ばれるほどのパスセンスを持つ巧真。
「紫電」と恐れられるほどのスピードスターだった烈真。
同じ中国地区で、同い年、似た名前。
2人は小さなころから切磋琢磨してきた、最高のライバルだった。
小・中・高・大学と常に意識し合い、また日本代表として共に戦ってきた ”親友” だった。
ある時の代表合宿での練習で巧真と烈真が交錯し、烈真は大怪我を負ってしまう。
その後遺症から以前までのスピードが出せなくなり、烈真は引退。
巧真は親友であり最高のライバルを引退に追い込んでしまったという重圧に耐えられず
フィールドホッケー界から去ってしまっていた――――
「息子たちが新しい時代を作ろうとしているんだ。俺たちも、もうそろそろ先に進もうぜ?また…一緒にやろう!」
烈真が手を差し出す。
「…良いのか?俺が…ホッケーをしても…」
巧真が烈真の目を見る。
「当たり前だろ!さっきも言ったぜ?お前がいないと張り合いがないんだよ!」
烈真は笑顔で巧真の手を握る。
長い間の因縁が、ついに解けた瞬間だった。
夕陽が青い人工芝を染める中、成磐中の選手たちは肩を組んで歩いていく。
敗戦の悔しさと、全国への期待を胸に。
そして緋色は、観客席のえみを見つめていた。
(ありがとう…)
様々な思いを胸に、また新たな戦いが近づいてきている。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
中国大会決勝戦というクライマックスを迎え、
それぞれのキャラクターにとってかけがえのない“変化”と“成長”が描けました。
緋色が見つけた一体感。
焔が手にした「一人じゃない」プレー。
土紋や颯真が見せてくれた、努力の結晶と未来への強さ。
そして、かつてのライバルたちが、息子たちの姿を通して前に進んでいく。
この物語をここまで紡いでこれたのは、読んでくれているあなたのおかげです。
そして今――
この「緋色のスティック」の世界を、1冊の本として届けるための挑戦が始まっています。
◎現在、クラウドファンディングに挑戦中です!
作中のキャラたちが「誰かと繋がって進んでいく」ように、
この作品も“読者と一緒に進む”旅をしています。
みんなの力で漫画にさせてください!!
【クラファンページはこちら】
https://camp-fire.jp/projects/884214/view
物語は続きます。全国大会も、彼らの挑戦も。
そして、そこにあなたがいてくれたら、それはもう“作品の一部”です。
続きを、共に迎えにいきましょう。
応援、よろしくお願いします!
──ぱっち8