第49話「黄金の復活」
中国大会 決勝 セレモニー
青い人工芝に、両チームの選手たちがジャッジ席前に整列した。
成磐中:GK蒼、DF塁斗・山田、MF緋色、FW照・焔
出雲帝陵中:GK斎宮衛士、DF石峰土紋・原田勇樹、MF神門颯真、FW松本進・藤原陸太
「これから、成磐中学校 対 出雲帝陵中学校の決勝戦を行います。礼!!」
「よろしくお願いします!」
主審の掛け声とともに両チームの大きな挨拶が響き、試合開始のホイッスルが鳴った。
第1クォーター
立ち上がりから、王者:出雲帝陵中の組織力が光る。
颯真がボールを受けると、周囲への指示が的確に飛ぶ。
「松本、サイドから仕掛けろ」
「土紋、中央のスペースを消せ」
2年生とは思えない統率力で、チーム全体をコントロールしている。
一方、成磐中は緋色を中心に攻撃を組み立てようとするが、出雲の組織的な守備に苦戦していた。
(青い光は見えてる...でも、なんだか重い)
緋色は颯真のプレッシャーを強く感じていた。
去年と同じように、颯真の存在感は圧倒的だった。
特に焔は土紋の前で完全に手詰まり状態だった。
焔が3Dドリブルを仕掛けても、土紋は焔との間にスペースを作り3Dドリブルに対して冷静な対応。
「…簡単にはやらせないぞ」
土紋の的確なタックル。ボールはあっさりと奪われてしまう。
(ものすごく”見られてる”…。スキがない…!)
U12の選考会では、颯真の印象があまりにも強烈で、土紋のことはほとんど覚えていない。
そして、U12で止められた記憶もほとんどない。焔の困惑は深まるばかりだった。
一方、土紋の脳裏には、あの日の記憶が蘇っていた。
―――小学6年生の秋。
焔の圧倒的なスキルを目の当たりにし、上には上がいるんだと痛感したU12の選考会。
焔の目には土紋は映っていなかった。
その後、颯真の誘いで訪れた出雲帝陵中のグラウンド。
「土紋、悔しいなら中学の練習にこい。…負けたくないんだろ?」
そこで見た先輩たちのプレーは、全国でトップクラスの強豪校だけあって小学生レベルとは次元が違っていた。
「まだまだだな、土紋。基礎からやり直せ」
「違う、相手をよく見ろ。一発で行くな」
厳しい指導を受けながらも、土紋は必死に食らいついた。
U12代表選考会で痛感したあの気持ち。
自分も焔のような華やかな選手になりたい。
一人の選手として輝けるようになりたい。
自身の "存在" を証明したかった―――
「颯真くん、僕ももっと強くなりたい。今度は必ずあいつの視界に入りたいんだ!」
「…なら、覚悟を決めろ。俺と同じメニューをこなす気があるか?」
土紋は迷わず頷いた。
それからの間、土紋は人の何倍も練習した。
基礎の基礎から、守備の読み、ポジショニング、カバーリング。
地味で泥臭い練習を繰り返した。
(あの時から...僕は変わったんだ)
―――
土紋の視線が焔を捉える。
かつて自分を見っていなかった天才ストライカー。
(今度は違う…。僕はお前に勝つ!)
ーーー
土紋には静かな闘志とは対照的に、焔は困惑していた。
(くそっ…なかなか突破できない!今まで勝ててたはずの相手に...)
そして試合開始から5分。
出雲帝陵中に決定的な場面が訪れた。
颯真のシンプルだが鋭い縦パスを松本が受け、ドリブルで塁斗を抜き去る。
そのままサークルに進入し、冷静にシュートを放った。
蒼が必死に伸ばすが、コースが完璧だった。
ゴールネットが揺れる。
「くそっ...」
緋色は悔しそうに歯を食いしばる。
0-1。
出雲帝陵中が先制した。
観客席では田村監督が満足そうに頷いていた。
「やはり颯真くんのレベルは高い。これなら来年の国際大会でも…いや今年のU15でも十分通用するかもな」
一方、観客席の巧真は静かに息子を見つめていた。
(去年とは違う。全体もよく見えいているし、悪くない。)
しかし、緋色の表情には確かに悔しさがあった。
だが、それと同時に仲間を信じようとする意志も感じ取れた。
成磐中も反撃を試みる。緋色が青い光を頼りにパスコースを探すが、颯真の絶妙な立ち位置と出雲の組織的な守備に阻まれ続けた。
特に土紋の存在感は大きい。
焔だけでなく、照の攻撃ルートも的確に読んで封じ込んでいる。
「全然パスが通らん...!こいつらのゾーンディフェンス半端じゃねえ…!」
照が悔しそうに呟く。
第1クォーター終了間際
出雲がもう一度決定機を作る。
颯真から藤原へのスルーパス。藤原がスピードを活かしたカットインでサークルに進入するが、正面から打たれたシュートに今度は蒼が素晴らしいセーブを見せた。
「ナイス、蒼!」
緋色が讃える。
第1クォーターは0-1で終了。
1分間のインターバルに入った。
第2クォーター
短いインターバルで、みち先生が選手たちに声をかける。
「大丈夫、まだ始まったばかりよ。焦らずに、自分たちのプレーをしましょう」
しかし、第2クォーターが始まると、出雲帝陵中の攻勢はさらに激しくなった。
颯真を中心とした攻撃は多彩で、成磐中の守備陣を翻弄する。
松本のドリブル突破、藤原のスピードを活かした攻撃、そして原田を含めたDFの押上げでどこからでも攻撃を仕掛けてくる。
第2クォーター前半、ついに追加点を奪われた。
颯真のロングコーナーを、原田が左サイドに流れて受ける。
そのままエンドラインを抉ると見せかけ斜め45にリターンパスをもらいに来ていた颯真の強烈なダイレクトでのリバースシュートが蒼のニア側のポストに当たり、角度を少し変えゴールネットに突き刺さった。
「おおおおおおお!!!凄すぎる!スーパーゴールだっ!!!さすが颯真!」
観客席の出雲帝陵中の大応援団は歓喜に包まれた
「くそっ...なんていうシュートだ…凄すぎる…!」
蒼が悔しそうに地面を叩く。
0-2。
成磐中は前半の第2クォーター前半で、既に劣勢に立たされてしまった。
観客席では、成磐中の応援団にも動揺が広がる。
「何ていうレベルのシュートだよ…だ、大丈夫か成磐中...」
「もしかして…去年と同じことになるんじゃ...」
緋色にも焦りが生まれ始めていた。
青い光は見えている…見えているが、颯真のプレッシャーと点差の重みで、どこかぎこちない。
焔も土紋を前に、完全に手詰まり状態だった。
その後は出雲帝陵中の猛攻を何とかしのいだ成磐中。
ここまでの試合とは比べようのないプレッシャーに悩まされていた。
第2クォーターは0-2で終了。
5分間のハーフタイムに入る。
ハーフタイム
ベンチでは、みち先生が選手たちに語りかけた。
「みんな、聞いて。確かに相手は今までとは比べようも無いくらい強い。でも、私たちも去年とは違うわ。一人一人が成長して、チームとして戦えるようになってる」
みち先生の視線が緋色に向けられる。
「緋色くん、あなたは去年の自分と比べてどう?」
緋色は少し考えてから答える。
「...去年は、一人で何とかしようとしていました。でも今は...」
緋色は仲間たちを見回す。
「今は、みんながいます。チームでここまで戦ってきました!」
「そうよ。それが一番大きな成長。技術も大切だけど、私はあなたたちの最大の成長はチームを信じる心だと思ってるわ。このチームはそれが一番重要だと思ってる。」
照が立ち上がる。
「よっしゃあ!まだ半分残っとるでー!俺らの本気を見せたろじゃねぇか!」
蒼も頷く。
「僕も、これ以上、追加点は与えない!みんなでカバーし合おう!」
焔も立ち上がった。
「僕も...一人で土紋に勝とうとしていました。でも、緋色先輩が教えてくれたように、チームで戦います」
「それでは、少しやり方を変えましょう。照くんはポジションを… 緋色くんは…」
みち先生の作戦の元、チームは諦めない心と新たな決意が満ちた。
第3クォーター
後半開始。
成磐中の表情が明らかに変わっていた。
成磐中のポジションが変化。
DFに塁斗、MFに焔、緋色、山田、FWに照という1-3-1の布陣に変更された。
「……ほぅ。」 颯真がニヤリと反応する。
後半の開始から緋色を中心とした攻撃が、前半とは違う鋭さを見せ始める。
MFが増えたことで緋色の負担が減りパスが集まり始める。
緋色は空いたスペースでボールを受け、無理に突破しようとせず、確実にパスを回してチャンスを作る。
焔も土紋との距離が少し空いたことでボールを受けた瞬間の余裕が生まれる。
無理な突破を避け、緋色や照との連携を重視するようになった。
「いい判断だ、焔」
緋色の声に、焔が応える。
「はい、緋色先輩。でも負けたくない!…ボールを回してください!」
(負けられないなぁ…。)
緋色は焔のたくましさに微笑み、深呼吸した。
そして第3クォーター中盤、ついにその瞬間が訪れた。
緋色が全体を見渡し、自陣の左サイドでボールを受けた瞬間。
視界に懐かしい光が走る。
それはかつて緋色の最大の武器だった ” 金色の光 ” ―――
1年前に失った、あの光る感覚が突然戻ってきた。
(...これは!!!)
金色のラインと青いラインが同時に見える。
” 自分の光 ”と、” みんなとの光 ”。
緋色の表情が一変する。
(金色の光が戻ってきた...! でも今度は違う。一人じゃない。みんなと…勝つんだ!)
緋色はトラップと同時に動き出す。
ボールを奪いに来たFW松本を金色の光で抜きさり、すぐさま山田へ。
山田のマークについていた颯真の姿を確認していた緋色は
「山田くん!塁斗先輩に戻して!!!」「焔ー!」
冷静に指示を出す緋色にはすでに青い光が見えていた。
パスカットに動いていた颯真をパスで釣り出す。
山田から塁斗へ。塁斗から右サイドにポジションチェンジしていた焔へ。
「…ちっ!!」 この状況に気付いた颯真が初めて試合中に焦る。
2つのパスコースを読む。
金色の光が示す完璧なタイミング、青い光が示す仲間との絆。
焔にわたったパスを受けるために緋色が中央に走りみ再びボールを受けると 「照先輩!」
パスを出す焔、走りこむ照と目を合いわせていた緋色の光がさらに輝きだす。
(ここだ・・・!)
土紋の詰めるスキを与えず、焔から出されたヒットパスを金色の光にのり右斜め方向にカットイン。
すぐさま照がGK前に走る青い光に繋げる。
「照先輩!!」
GKを背中に背負い照はワンタッチで緋色に返す。
「なにぃ……!!??」
GKは照のシュートだと判断していたため反応が遅れてしまった。
緋色はGKのいない無人のゴールにまるでパスをするようにシュートを決めた。
「ゴオオォォォォォォォォォ――――――ルっっ!!!」
「わあああああ!!何だ今の!一瞬過ぎて何が起きたのかわかんねぇ!どうなったんだ!!!??」
両チームの大歓声が巻き起こった。
2-1。
成磐中は1点をついに返した。
照、焔が緋色に抱き着き
「何じゃーーーー今のー!勝手に体が動いたぞ!凄すぎるーーーー!」照が叫ぶと
「緋色先輩、何なんですか今の! ドリブルもパスも、凄すぎます!!!!」
珍しく焔が興奮している。
「何か急に、あの光が戻ってきたんです。そしたら自然とパスコースなんかが全部見えてきて、僕もとっさに。」
緋色が解説すると、塁斗が喜んで話す
「やっと緋色らしい、プレーができたんだな!」
チームの士気が一気に上がるのを全員が感じていた。
観客席でU15代表 田村監督が身を乗り出す。
「おぉ、素晴らしい…!あの成磐中の選手も、やるじゃないか。でも…どこかで見たことあるプレースタイルだな…。」
そして、観客席の巧真も静かに立ち上がった。
息子の成長を、確かに感じ取っていた。
「ふぅ…。あれは完全にやられたな。見事なプレーだった…以前とは違うようだな。相原…。」
颯真は素直に緋色のプレーを認めていた。そして新たなライバルの出現に不敵に笑う。
緋色は拳を握りしめる。
(戻ってきた...金色の光る感覚が。今度は違う。一人じゃない。みんなと一緒に戦うんだ!)
一方、焔は緋色の目の覚めるプレーに気づきを得ていた。
(そうか...一人で勝つ必要はないんだ。チームで勝てばいいんだ!)
第3クォーターが終了。
2-1で出雲帝陵中がリードを保っているが、成磐中に確かな手応えが生まれていた。
最終クォーターへ向けて、最後の戦いが始まろうとしていた。
因縁の決勝戦は、いよいよクライマックスに向かっていく。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
遂に迎えた中国大会決勝戦。
この「黄金の復活」という回は、自分の中でも本当に大切なエピソードです。
主人公・緋色の"金色の光"が戻ってきた瞬間──
それは単なるテクニックじゃなく、"仲間を信じる強さ"を手に入れたからこそ訪れたものでした。
緋色、焔、照…。みんながぶつかりながら、それぞれの気づきと成長をしていく。
もしかしたら、読者のあなたも、誰かと一緒に戦ったり、勝ち負けに悩んだことがあるかもしれません。
この物語が、誰かの「今」や「過去」や「頑張りたい未来」に、少しでも寄り添えたなら嬉しいです。
実はこの作品、ホッケーをもっと知ってもらいたくて書いています。
決して有名な競技じゃないけれど、“心が動くスポーツ”です。
この物語をクラウドファンディングで書籍化できたら、
フィールドホッケーという競技にも、もっと光を当てられると思っています。
興味を持ってくださった方は、よかったら「共犯者」になってください。
応援やシェアも、ぜんぶが“次の一歩”につながります◎
それでは、また次のクォーターで。
───ぱっち8