第47話「全国への扉」
県大会予選リーグが終了し、決勝トーナメント進出校が決まった。
特にAグループは熾烈な2位争いが繰り広げられていた。
出雲帝陵中学校は予想通りの圧倒的な強さを見せつけ堂々のAグループ1位。
神門颯真のプレーはもちろんだが、注目すべきは1年生の石峰 土紋だった。
「あの1年生、すごいな...」
観客席がざわついていた。
青刃中学校との試合で、土紋は藍人の攻撃を完全にシャットアウト。
藍人の得意な「二重ドリブル」も、颯真の的確な指示、土紋の広い守備範囲の前では単調になり思うように通用しなかった。
天音が必死にゴールを守るも、攻撃陣が得点できず0-4で完敗。
結果、青刃中学校は個人技に偏った攻撃の限界が露呈した形となった。
八羅針中学校も善戦した。出雲帝陵中には1-4で敗れたものの、青刃中とは0-0で引き分け、防府・長門中には2-0で勝利し、得失点差でAグループ2位通過を果たした。
そして迎えた決勝トーナメント1回戦。
各試合の結果が次々と伝えられた。
①出雲帝陵中(A1位)○ 5-0 ✕ 旋翔中(B4位)
②シューティングレイヴ広島(B2位) ○ 1-0 ✕ 青刃中(A3位)
「え...青刃中が広島に負けた?!」
藍人と天音を擁する青刃中の敗退は大きな波紋を呼んだ。
天音が好セーブを連発するも、攻撃陣が得点できずに敗退。
個人技重視の戦術チーム同士の対戦はPCを何とか決め切ったシューティングレイヴ広島の勝利。
「藍人先輩や天音さんの個の力でもなかなかとトーナメント突破は簡単じゃないのか」 焔が呟く。
「そうだね…。1人1人の個人だけの力じゃこの先は…厳しいのかもね。」緋色が答えた。
決勝トーナメント1回戦
成磐中(B1位) vs 防府・長門中(A4位)
成磐中の相手は、Aグループ最下位の防府・長門中学校。
予選で全敗した相手だったが、青刃中の試合を目の当たりにした成磐中は油断していなかった。
「よろしくお願いします!」
試合前の挨拶で、防府・長門中の選手たちの目に宿る闘志を緋色は感じ取った。
特に3年生の田辺悠馬と江良慎吾の表情は真剣そのものだった。
「みんな、予選で全敗だからって甘く見ちゃダメだ。相手の目は死んでない…きっと死にもの狂いで来る!」
試合開始
第1クォーター 3分
緋色の言葉通り、防府・長門中は開始早々から激しいプレッシャーをかけてきた。
「負けるもんか!俺たちにとっても最後の大会なんだ!諦めるなんてありえない!!」
田辺 悠馬が雑草魂を込めた声でチームメイトを鼓舞する。
特に江良 慎吾の守備は執念深く、焔に対して間合いを取り冷静かつ粘り強くタックルを仕掛けてきた。
「うっ...」
焔のドリブルが江良の前で止められる。予選で見せた個人技がなかなか通用しない。
「焔、無理しなくていい。パスを回そう!」
緋色の焔を落ち着かせると緋色の目には青い光が見え、一瞬のスキをついて焔とワンツーパス。
折り返しのパスを受け、硬いDFラインから抜け出した焔の表情が変わった。
「緋色先輩!さすがです!」
(凄い…なんでいつもあんなにきれいにパスが出せるんだろう…)
焔→緋色→焔へのパス。ワンツーパスを入れることで焔は加速。
得意の3Dドリブルで難なくサークルへ進入。照への決定的なアシストで成磐中が先制点を奪った。
「よっしゃーーーーー!!」
第1クォーターはそのまま1-0で終了。
第2クォーター、第3クォーターは粘り強いDFで決定機を作れずどちらも無得点のまま、試合は最終クォーターへ。
第4クォーター5分
照がハーフラインまで下がり、DFを背負いながら緋色に下げる。
全体を見渡し準備ができていた緋色はすぐさま右サイドに素早く展開。
照があけたスペースに焔が走る。
(…ここだ!!)
「塁斗先輩!!上です!!!」 緋色の手の方向と声が響いた瞬間、塁斗から絶妙なスクープパスが通る。
きれいな円を描き ”縦方向” に出されたパスに反応していたのは、山田に代わり入っていた運動神経抜群の新入生の中村だった。
ホッケー未経験ながらサッカーで鍛えた抜群の嗅覚で縦のスペースに走っていた。
江良はつり出され、すかさずサークルに向かっていた足の速い照に追いつけない。
中村からの拙いセンタリングを照がトラップもせずに豪快にシュートを叩きこんだ。
「ナイスパス、中村ぁぁ!!よう走っとった!!!」
「ありがとうございます、先輩!」
試合は2-0で成磐中の勝利。田辺と江良は最後まで諦めずに戦い抜いた。
「お前ら強いな。次も頑張れよ」田辺が汗を拭いながら緋色に伝えた。
「ありがとうございました!次も必ず勝ちます!」
緋色は握手をし、力強く頷いた。
1回戦結果
③八羅針中 (A2位)○ 3-2 ✕ 石見双星中(B3位)(1-1からのシュートアウト勝利)
④成磐中(B1位) 2-0 防府・長門中(A4位)
準決勝では、成磐中は八羅針中と対戦。
緻密な組織力に苦戦したが、焔と緋色の連携、そして照の決定力で2-1の勝利を収めた。
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間ーーー
「やったあああああ!!!」
「全国じゃあああああ!!!」
「去年の分まで!!!」
ベンチから飛び出した仲間たちが抱き合い、涙を流す選手もいた。
観客席の成磐中応援団が立ち上がって拍手を送っている。
「誠先輩...見てますか。僕たちやりました」
緋色は空を見上げ、心の中で呟いた。
「よっしゃああああ!でもまだ終わりじゃないで!決勝も勝つんじゃ!」 照が雄叫びを上げる。
去年の悔しさを知る2年生たちにとって、この瞬間は特別だった。
一方、もう一つの準決勝では出雲帝陵中がシューティングレイヴ広島を3-0で圧倒。
神門 颯真と新1年生の石峰 土紋の活躍で広島に付け入る隙を与えなかった。
「いよいよ、決勝だ」
控室で緋色は深呼吸した。
相手は神門颯真と石峰土紋を擁する出雲帝陵中。
1年前の因縁の相手。ついに実現した頂上決戦。
(去年とは違う。今度はみんなで挑むんだ!)
「よっしゃあ!俺らが優勝するで――!」 照が大声で叫ぶ。
「みんな、行こう」
ついに迎えた中国大会決勝戦ーーー
去年の雪辱を果たし、全国の舞台へと続く扉が、今まさに開かれようとしていた。
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