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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第5章
47/75

第46話「去年とは」

中国大会1日目 予選リーグ最終戦。


Bグループ最後の相手は、シューティングレイヴ広島だった。


「ついに来たな...」


緋色が組み合わせ表を見つめながら呟く。


去年の中国大会での1-7という屈辱的な大敗。


市長杯で勝ったとはいえ、あの悔しさは今でも心に深く刻まれている。


「今年の広島は去年が強かった分戦力が大幅にダウンしてるって情報があるけれど、それでも油断はできないわよ」


みち先生が注意を促す。


「堂島迅達が卒業したとはいえ、残ってる選手たちの個人技は高いレベルにあるはず」


「でも今の僕たちなら大丈夫です」


焔が力強く言った。


「そうじゃ!去年とは全然違うでー!」


照も拳を握る。


緋色は昨年を振り返っていた。


(去年の僕は一人で戦おうとして、チームを崩壊させてしまった。でも今年は違う。今はみんなと戦える!)


「みんな、今日は特に冷静に行こう。相手の個人技がうまくてもいつもとうり僕たちは組織で対抗する」


緋色の言葉に、チーム全体が頷いた。



---



ウォーミングアップ中、シューティングレイヴ広島の選手たちが見えた。


確かに去年のような圧倒的なオーラはない。堂島迅という絶対的エースを失った影響は大きそうだった。


「なんか去年とは雰囲気が全然違うな」


塁斗が観察する。


「相変わらず個々の技術は高そうだけど...」


蒼も感じるものがあった。


広島の選手たちは各自でのアップ、チーム全体での練習はシュートくらいだった。


「むしろ今年の方が厄介かもなー。あれだけの個人技をみんなで来られると、対応が難しいかもしれん。」


照が心配そうに言った。


「でも、それなら僕たちの組織力が活きるはずです」


焔が前向きに答える。


みち先生が最後の確認をする。


「今日の戦術は守備からの組織的な攻撃。相手の個人技を複数人で封じて、カウンターで得点を狙いましょう」


「はい!」


選手たちが声を合わせた。



---



成磐中 vs シューティングレイヴ広島


審判の笛が響き、試合開始。


序盤から、広島の戦術が見えてきた。


個々の選手が自分の得意パターンで勝負を仕掛けてくる。連携よりも個人技重視のスタイルだった。


「…来た!」


広島の2年生MFが鋭いドリブルで山田を抜こうとする。


しかし山田は慌てずコースを限定し、塁斗との連携でボールを奪い返した。


「ナイスディフェンス!」


緋色が声をかける。


広島の別の選手が照を強引にマークから外しボールをもらおうとするが、味方からパスが出てこない。



第1クォーター6分、広島にとって決定的なチャンスが訪れた。


サイドからのセンタリングに広島FWが反応しタッチシュートを狙うがゴールポストに当たって外れた。


「くそっ!」


広島の選手が悔しそうに地面を叩く。


その時から、広島の雰囲気が少しずつ変わり始めた。



---



第2クォーター。



広島はシュートが決まらないことにイライラし始めていた。


「こんだけ打ってなんで決まらないんだよ!」


「どんだけツイてないんだ!!」


惜しいシュートが何度もあるのに決まらない。広島の選手たちのフラストレーションが徐々にたまっていく。


そのギスギスした雰囲気が、さらに個人プレーを助長していった。


各選手が自分だけで得点を取ろうと必死になり、パスを出すべき場面でも無理やり突破を図ろうとする。


「今だ!」


緋色がその隙を見逃さなかった。


広島の選手が無理なドリブルを仕掛けてボールを失った瞬間、緋色がインターセプトして照にパス。


照がそのまま豪快なシュートを放ち、ゴールを決めた。



1-0。



成磐中が先制した。


「よっしゃーーー!」


照が雄叫びを上げる。


しかし、ここからが問題だった。



---



失点した広島は、さらに焦り始めた。


そして、焦るあまりにプレー荒くなっていく。


「打てる!」


広島の選手が焔との間にこぼれたボールを腕を伸ばし無理やりシュートを打とうとした。


焔はシュートブロックに行こうとした瞬間、広島の選手と接触し笛が吹かれた。


ピピィーーーーーーッ!!


「広島の4番!危ないよ!危険なプレーはしないように!」


主審が注意しプレーは再開された。


それを見たみち先生がベンチから立ち上がる。


「焔くん、無理しないで!」


焔は激しいプレーに慣れておらず、際どいセカンドボールに触れるたびに、広島の選手と接触し体勢を崩していた。


緋色が心配そうに声をかける。


「大丈夫?焔」


「くそぅ…」 なれないプレーに悔しがる焔。


しかし広島の選手たちは、成磐中の新エースである焔を潰そうと明らかに狙いを定めていた。



第3クォーター3分、ついにみち先生が決断した。


「焔くん!交代よ!」


「えっ?でも僕はまだ...」


「だめ。これ以上危険なプレーにさらすわけにはいかない。ベンチで試合を見る事も勉強よ。」


みち先生の判断は的確だった。焔の安全を最優先に考えた采配だった。


「分かりました...」


焔は悔しそうだったが、みち先生の判断に従った。


代わりに田中が投入される。



---



焔がベンチに下がった後、成磐中の戦術は変わった。


緋色と塁斗を中心とした、より組織的で落ち着いた戦い方にシフトしたのだ。


「緋色くん、塁斗くん、君たちが中心になって組み立てて」


みち先生の指示に、二人は頷いた。



第3クォーター5分、成磐中の組織力が発揮された。



緋色が中盤でボールを受けると、青い光で塁斗へのパスコースを確認すると先に田中に縦に走るよう指示をだす。


緋色は塁斗にスペースに広がるパスを出し、時間を作ると塁斗はそのままダイレクトで田中にパスを送る。


田中はこと隅で受けると照への正確なセンタリングを上げる。


照がセンタリングのボールを勢いを消すことなく角度だけ変えシュートはゴールネットに突き刺さった。


2-0。


成磐中がリードを広げた。


「よし!!みんなが連動してゴールが決められた!」


緋色が満足そうに呟いた。


一方、広島はますます個人プレーに走り、チームとしての機能を完全に失っていた。


「なんで俺に今出さないんだよ!」


「お前こそ走るのが遅れただろ!」


広島の気持ちの糸が切れ選手たちが互いのミスばかりに気を取られ始めていた。



---



最終クォーター。


広島は必死に追い上げを図ろうとするが、成磐中の組織的な守備に阻まれ続けた。


緋色と塁斗の冷静な判断で、危険な場面もしっかりと凌いでいく。


「この落ち着き、すごい...」


ベンチで試合を見ていた焔が感心していた。


「僕じゃまだここまで全体をみたり、落ち着いて相手のプレーに対処したりはできてない…」


確かに、去年の成磐中なら広島の個人技に翻弄されていただろう。


しかし今年のチームは、相手の個人技を組織力で封じ込め、自分たちのペースで試合を進めることができていた。


試合終了間際、広島が最後の攻撃を仕掛けてくる。


しかし蒼の好セーブと、緋色・塁斗の連携したクリアで、最後まで失点することはなかった。


試合終了のホーンが響く。


2-0。


成磐中がシューティングレイヴ広島に完勝し、Bグループ1位での決勝トーナメント進出を決めた。



---



試合後、選手たちが抱き合って喜んでいた。


「やったー!去年の雪辱を果たしたでーーー!」


照が興奮している。


「みんな、本当にお疲れさま。良い試合だったわ」


みち先生も満足そうだった。


緋色は感慨深げに振り返っていた。


(去年は1-7で惨敗した相手に、今年は2-0で完勝。本当にチームが成長したんだな)


焔がベンチから駆け寄ってくる。


「みんな、すごかったです!特に緋色先輩と塁斗先輩の連携、勉強になりました」


「焔はけがは大丈夫だった?。途中で下がることになって悔しかっただろうけど、外から試合を観ることも大事だから。」


緋色が焔を労う。


「はい。でも最後まで見ていて、みんながどれだけ凄いのかよく分かりました」


焔が言うと蒼も加わってくる。


「今日の試合、去年とは全然違ったね。焦らずみんなで戦えた」


「そうじゃ!これが本当のチームプレーじゃなー!俺も得点とれて満足じゃー!」


照はとても満足そうだった。


「みんなでって言ってんのに…」


塁斗が苦笑いで照に呆れる。



一方、敗れた広島の選手たちは、うなだれていた。


今まで圧勝していたチームに、市長杯から続き2連敗。


成磐中の成長するその姿を見て、広島の選手たちは改めて組織力の大切さを実感した。



みち先生が総括する。


「今日の試合で、みんなは大きな成長を見せてくれたわ。個人の技術も大切だけど、それ以上にチームとして戦うことの重要性を証明できたはずです。」


「はい!」


選手たちが声を合わせる。


「さあ、次は決勝トーナメントよ。相手は確認するけど、Aグループの途中経過から見て間違いなく防府・長門中学校だと思うわ。合同チームとはいえ、油断は禁物よ」


「はい!必ず勝って、準決勝に進みましょう!」


緋色の言葉に、チーム全体が決意を新たにした。


青い人工芝に夕日が差し込む中、成磐中は中国大会1日目の予選リーグを2勝1分けのB1位で突破。


去年の雪辱を果たし、さらなる高みを目指して歩みを進めていた。


真の強さとは、個人技ではなく組織力にある。


それを証明した成磐中の挑戦は、まだまだ続いていく。

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