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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第5章
46/74

第45話「意地」


中国大会初日 Bグループ リーグ第2戦



成磐中の予選リーグ第2戦の相手は、石見双星中学校。


「昨年の大森双子が卒業して、戦力がどう変わったか未知数ね」


みち先生が組み合わせ表を見ながら説明する。


「昨年もチームの総合力ではずば抜けてたから油断は禁物よ。」


選手たちが頷く中、緋色は昨年の石見双星中戦を思い出していた。


(去年は大森双子の連携に完全にやられた...今年はどんなチームになってるんだろう)


「情報によると、2年生の弐戸(にこ) (つかさ)っていうMFが今年のキャプテンで司令塔らしいです」


塁斗が調べた情報を共有する。


「弐戸...司か。どんな選手なんだろう」


焔が興味深そうに聞く。


「去年、少し話したけど堅実で基礎技術が高いプレーヤーじゃったなぁ。それと今年は1年に御田(みた) 宗太(そうた)っていう足の速いFWが入ったらしいで!」


照が続ける。


「スピード系かな...照先輩と似たタイプかもしれませんね」


焔が少し緊張した様子を見せた。


「でも僕たちにはさっきの旋翔中戦での勢いがある。しっかりみんなで戦えば大丈夫」


緋色の言葉にチーム全体が引き締まった。



---



ウォーミングアップ中、石見双星中の選手たちが目に入った。


特に目を引くのは、背番号10番の選手と7番の選手だった。


「あれが弐戸 司と御田 宗太か...」


緋色が注目していると、10番の選手・弐戸の動きが印象的だった。


派手さはないがトラップなど非常に正確で、無駄のない動きをしている。


一方、7番の御田宗太は、小柄ながら一つ一つの動きが俊敏で加速が目を見張るものがあった。


「やっぱ司は落ち着いてるなー。御田の方は速そうじゃし」


照も石見双星中を観察していた。


「チーム全体も去年とは違う雰囲気ですね。個人技よりも組織力を重視してる感じがします」


蒼が分析する。


弐戸が他の選手たちと入念に作戦を立てているのが聞こえてきた。


「右サイドからの攻撃パターン、もう一度確認しよう」


「宗太、お前のスピードを活かせるタイミングを作るから、ぶっちぎってやれ」


その様子を見て、緋色は感じるものがあった。


(あの司って選手...なんだか颯真に似た冷静さがある)



---



成磐中 vs 石見双星中



審判の笛が響き、試合開始。


成磐中は初戦と同じスターティングメンバー。


石見双星中は司を中心とした守備的な布陣で臨んできた。


序盤から、石見双星中の戦術の狙いが明確になった。


成磐中の攻撃に対して、常に複数人でカバーし合い、個人技を封じ込める守備を展開してくる。


「うっ...」


焔が3Dドリブルを仕掛けようとするが、司を中心とした組織的な守備に阻まれる。


「焔、無理しないで!」


緋色がパスコースを作ろうとするが、石見双星中の守備陣は緻密にスペースを埋めてくる。


一方、石見双星中の攻撃では、御田 宗太のスピードが光っていた。


「…速い!」


山田が宗太をマークしようとするが、一瞬の加速で置き去りにされそうになる。


しかし塁斗がカバーに入り、何とかピンチを凌ぐ。



第1クォーター6分、石見双星中が決定機を迎えた。


司の正確なパスから宗太がスピードに乗って中央に突破を図るが、蒼が絶妙なタイミングで飛び出してボールをスっティックでクリア。


「ナイス判断、蒼!」


一方、成磐中も照の豪快なシュートでチャンスを作るが、石見双星中GKの好セーブに阻まれた。


前半の第1、第2クォーターは両チーム決定機を作りながらも、0-0で終了。



---



ハーフタイム。



「相手の組織力、予想以上に高いわね」


みち先生が分析する。


「弐戸って選手、すごく冷静ですね。チーム全体を気にかけてずっとフォローしながらコントロールしてます」


緋色が感じたことを口にする。


「御田のスピードも侮れません。速すぎてついていくのに必死です」


塁斗も認めていた。


「でも僕たちだって負けてない。後半はもっと連携してボールをつなぎましょう」


焔が前向きに言った。


「そうじゃ!チームワークなら俺らの方が上じゃーー!」


照も気合いを入れ直した。


みち先生が戦術ボードを使って説明する。


「後半は緋色くんにボールを回して、パスを中心とした攻撃パターンをもっと活用しましょう。周りを使って相手の守備の隙を見つけて」


「分かりました」


緋色が力強く頷いた。



---



第3クォーター開始。



両チーム一歩も譲らない展開が続いていた。


石見双星中の弐戸 司は相変わらず冷静にゲームをコントロールし、宗太のスピードを活かすチャンスを狙っている。


成磐中も焔と緋色の連携で攻撃を組み立てるが、石見双星中の組織的な守備になかなか決定機を作れずにいた。



第3クォーター5分


ついに成磐中が突破口を見つけた。


緋色が左サイドに広がり首を振る。全体を見渡し中盤でボールを受ける。


(あ!弐戸が少し前線に引っ張られて前に出てる...今なら)


照もその瞬間を逃さず走り出す。緋色の深呼吸とともに青い光が照へのパスコースを示した。


緋色の成長した判断力が、石見双星中の守備の僅かな隙を見つけ出した。


「照先輩!」


絶妙なタイミングでのスルーパス。サークルの中心で照がスピードに乗って受け取ると、そのままGKとの1対1の状況を作り出した。


「もらったでー!」


照はワントラップでの素早く豪快なシュートがゴール右隅に突き刺さる。


1-0。


成磐中が先制した。


「よっしゃーーー!」


ベンチからも大きな歓声が上がった。


しかし、石見双星中は動揺しなかった。


司が冷静にチームメイトに声をかける。


「まだ大丈夫だ、時間はある!俺たちのペースでいこう」


その言葉にチーム全体が落ち着きを取り戻した。



---



最終クォーター。



石見双星中は司を中心に組織的な攻撃を展開してきた。


「彼らの粘り、すごいな...」


緋色も石見双星中の姿勢に驚く。


試合終了が近づき、焦り始める時間帯のはず。


それなのに冷静に戦う相手に、勝っているはずの成磐中の方がプレッシャーを感じていた。



残り時間わずかとなった最終クォーター 6分。



石見双星中の執念が実を結ぶ時が来た。


司からのパスを右サイドいっぱいで受けた宗太が、持ち前のスピードで山田を完全に抜き去る。


「…やばいっ!!」


塁斗がカバーに向かうが、宗太の加速についていけない。


ついに宗太がGKとの1対1の状況を作り出した。


蒼が前に出るが、宗太はさらに左に加速してかわそうとする。


その瞬間、宗太の加速に間に合わず、蒼のスティックが宗太の足に触れ倒してしまった。


「ピーーー!」


主審が片手をスポットへ、もう一方の手を上へとシグナルを出すーーーー


ホイッスルが鳴り響く中、PS*が石見双星中に与えられた。

PSペナルティストロークサッカーでいうPK。攻撃側の得点を故意に反則で防いだりしたら与えられる。キーパーがはじいたり止めた時点で終了(サッカーのように外した後も続くようなことはない)


その後試合終了のホーンが鳴り試合は終了。


「くそっ...」


蒼が悔しそうに頭を抱える。


「気にするな、蒼!今のは仕方ない!」


緋色が蒼を励ます。


これは止むを得ない判断だった。


試合終了のホーンは鳴ったが、試合時間内の反則のためPSが実行される。



「司、頼むぞ。決めてこい」


監督の指名により、キャプテンの弐戸 司がPS打つことになった。


司は深呼吸をして、ゴールを見据えた。


(僕がチームを引っ張らなければ…島根の石見双星中の実力を証明するんだ。……意地でも決めてやる!!)



一方、蒼も集中を高めていた。


(…絶対に止める。止めて、勝つんだ!)


静寂に包まれたスタジアム。


主審の笛の合図で、司が動き出す。


冷静に、且つ正確なシュートはゴールの左隅上に鮮やかに突き刺さった。


蒼も反応したが、スピードに乗ったボールに触れることもできず悔しがる。



1-1。



弐戸 司が島根の意地を見せ、石見双星中が同点に追いついた。


「よっしゃーー!」


石見双星中の選手たちが司に駆け寄る。


司も小さくガッツポーズを見せた。


試合は1-1の引き分けで終了した。



---



試合後、両チームの選手たちが健闘を称え合った。


「弐戸さん、すごいプレーでした。特に冷静なゲームコントロール、勉強になりました。」


緋色が弐戸 司に歩み寄った。


「そっちこそ。あの得点の時の判断力とパス制度…すごかった。完全にやられたよ。」


司も素直に相手を認めていた。


宗太も焔に声をかける。


「お前のドリブル、本当にすごいな。俺もあんな立体的な技ができるようになりたい」


「宗太くんのスピード、僕には真似できない。最後の突破、本当に速かった」


焔も宗太の能力を認めていた。


照も石見双星中の選手たちと握手を交わす。


「お前ら、ほんまに粘り強いチームじゃなー。やっぱ島根は強えぇーわ!」


両チームとも、お互いの実力を認め合う温かい雰囲気だった。


石見双星中の監督も悔しくも満足そうな表情を見せていた。


「よく頑張った。最後の最後まで石見双星中の意地を見せることができたな」


「はい!」


弐戸 司をはじめとする選手たちが声を揃えて答えた。


一方、成磐中のベンチでは、みち先生が総括していた。


「今日は相手の実力の高さを改めて実感させられたわね。でも、みんなよく戦ったわ」


「ありがとうございます。でも引き分けは少し悔しいですね。」


緋色が正直な気持ちを口にした。


「それでいいのよ。その悔しさが次への成長に繋がる。石見双星中は本当に良いチームだったわ」


「次の広島戦では必ず勝って、Bグループ上位で突破しましょう」


焔も決意を込めて言った。


「そうじゃ!最後の試合でもおれが活躍しちゃるでー!」


照の声に、チーム全体の士気が再び上がった。



---



石見双星中の司は、チームメイトと共に引き上げながら振り返っていた。


(僕たちも確実に成長している。海、陸先輩たちがいなくても、僕たちには僕たちの戦い方がある)


宗太も充実した表情を見せていた。


(成磐中は本当に強いチームだったな。でも俺のスピードも通用することが分かった)


両チームとも、この引き分けから多くのものを得ていた。


成磐中にとっては最後のホーンが鳴るまで気を抜けない試合となり、石見双星中にとっては自分たちの実力を証明する機会となった。


青い人工芝に夕日が差し込む中、中国大会予選リーグは佳境を迎えていく。



次戦、成磐中の相手はシューティングレイヴ広島。


去年の雪辱を果たし、B組1位通過を確実にする重要な一戦が待っている。


石見双星中が見せた「島根の意地」は、成磐中にとって貴重な経験となった。


真の強さとは何か。


それを問われる戦いが、まだまだ続いていく。

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