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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第5章
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第44話「空舞う鷹」


中国大会開幕の日。


島根県内のフィールドホッケー施設に、中国地方各県の代表校が集結した。


青い人工芝が朝日に照らされ、いつも以上に輝いて見える。


「ついに来たでー!中国大会じゃ!」


照の興奮した声が響く中、成磐中の選手たちは予選リーグ第1戦のコートに向かった。


「1試合目の相手は旋翔中学校か...」


塁斗が組み合わせ表を確認しながら呟く。


「鳥取県2位ですね。どんなチームなんでしょう?」


焔が興味深そうに聞く。


「情報によると、鷹野(たかの) (つばさ)っていう2年生のFWがエースらしいで。『空舞う鷹』って呼ばれとるって聞いたことがあるなー」


照が説明する。


「空舞う鷹...なんだかすごそうなかっこいい異名ですね」


蒼も少し緊張した様子だった。



---



試合開始30分前、両チームがコート内でウォーミングアップを行っている時、旋翔中学校の選手たちが目に入った。


その中でも、一人だけ明らかに違う動きを見せる選手がいた。


鷹野翼。背は高くはないが、スティックを使ったボール扱いに独特の流れるような美しさがあった。


「あれが鷹野 翼か...」


緋色が注目していると、鷹野がウォーミングアップで見せた技術に驚いた。


ボールを膝程度の高さに浮かせながら、まるで鳥が空中で急激に方向を変えるような動きでドリブルを行っている。


「おー...なんじゃあれ」


照も目を見張った。


「空中ドリブルの技術...ですかね。すごく滑らかな動きです」


蒼が感心する。


焔はその動きをじっと見つめていた。


(空中でのボール制御...僕の3Dドリブルとは違うアプローチだけど、原理は似てる)


みち先生がチームを集める。


「みんな、相手の特徴は掴めた?特に事前の情報では10番の鷹野選手の空中ドリブルの技術、エアリアルドリブルって呼ばれてるらしいくて注意が必要よ。普通にスティック下ろしてるだけでの守備だけだと対応しきれない可能性があるわ」


「分かりました」


選手たちが頷く。


「でも、僕たちには僕たちの武器があります。チームワークで個人技に対応できるんだってことを示しましょう」


緋色の言葉に、チーム全体が引き締まった表情を見せた。



---



成磐中 vs 旋翔中


審判の笛が響き、試合開始。


成磐中のスターティングメンバーは、GK蒼、DF塁斗・山田、MF緋色、FW照・焔の布陣。


序盤から旋翔中は鷹野 翼を中心とした攻撃を展開してきた。


鷹野がサイドからボールを受けると、独特のエアリアルドリブルで成磐中の守備陣を翻弄する。


「うわっ!」


山田が対応しようとするが、浮かせたボールをコントロールしながら急に方向を変える鷹野の動きについていけない。


「塁斗先輩、カバー!」


緋色が叫ぶが、塁斗も鷹野の素早く立体的な動きに戸惑っていた。


第1クォーター4分、ついに鷹野の技術が炸裂した。


成磐中のサークル付近で鷹野がボールを受けると、エアリアルドリブルで緋色の正面を避け、斜めからの角度でシュートコースを作り出す。


「もらった!」


鷹野の放ったシュートは、蒼の手の届かないゴール左隅に決まった。


0-1。


旋翔中が先制点を奪った。


「くっ...良いコース!!くそっ」


蒼が悔しそうに地面を叩く。


「気にするな蒼!まだまだこれからじゃ!」


照が励ます。


しかし、鷹野のエアリアルドリブルは成磐中にとって未知の体験だった。


(あの技術...どう対応すればいいんだ)


緋色も困惑していた。



---



第2クォーター開始。


成磐中は戦術を修正し、鷹野への対応を複数人で行うことにした。


「焔、山田!10番の選手に一人で対応しようとしないでいい。みんなでカバーし合おう」


塁斗がアドバイスする。


「はい!」


焔も集中して試合に臨んだ。



第2クォーター 3分



焔が中盤でボールを受ける場面があった。


旋翔中の守備陣は、焔のドリブルを警戒して密集していた。


しかし焔は、最近の練習で身につけたチームプレーを活かす。


「緋色先輩!」


焔から緋色への正確なパス。緋色がそれを受けて、今度は照に展開する。


照がサークルに進入してシュート!


しかし旋翔中GKの好セーブに阻まれた。


「おしい!」


だが、成磐中の攻撃が徐々に機能し始めていた。



終了間際、焔が個人技を披露する場面が訪れた。


相手守備陣の前で、焔が得意の3Dドリブルを仕掛ける。


ボールを浮かせて叩きつけ、バウンドを利用して相手をかわす


「なっ...!」


鷹野翼が焔の動きを見て驚いた。


しかし焔はそれだけでは終わらなかった。


3Dドリブルで一人をかわした後、さらにバウンドしたボールを左右に動かす鷹野に似たエアリアルドリブルに繋げ二人目もかわしてみせたのだ。


「あの1年生...僕と同じエアリアルドリブルを...しかも3Dと組み合わせてだと...!?」


鷹野の目が見開かれる。


焔がペナルティサークルに侵入し、冷静にリバースシュートを放つ。


ボールはゴール右隅に突き刺さった。


1-1。


成磐中が同点に追いついた。


「ナイスシュート!焔!」


緋色が駆け寄って焔を抱きしめた。


「ナイスゴール!」


蒼もゴールから手を振る。


しかし焔の表情は冷静だった。


「みんなのおかげです。緋色先輩のパスがあのタイミングでこなければ、このポジションにはいられませんでした」


焔の言葉に、チーム全体が温かい気持ちになった。



---



ハーフタイム。


旋翔中のベンチでは、鷹野 翼が監督と話をしていた。


「監督、あの成磐中の1年生のドリブル...すごいです」


「確かにそうだな…」


「僕のエアリアルドリブルも使えるんです。それも僕が使ってない技術も取り入れて、相当練習したんでしょうね」


鷹野の表情には、悔しさと同時に敬意の念が浮かんでいた。


一方、成磐中のベンチ。


「焔、さっきのドリブルすごかったね。3Dドリブルからエアリアルドリブルへの流れ、完璧だったね」


緋色が褒める。


「ありがとうございます。でも、鷹野選手のエアリアルドリブルも本当にすごいです。あれだけ滑らかに、しかも急激に角度を変えてもコントロールできるって…あそこまでは僕もできない。ものすごい練習が必要だと思います」


焔も鷹野の技術の高さを認めていた。


「お互い、ドリブルを磨き上げた者同士の戦いじゃなー!俺にはできん!!」


照が感心して笑いながら言った。



---



第3クォーター 



両チームとも、お互いの技術を認め合いながらも、勝利への意志を燃やしていた。



第3クォーター開始5分、10番・鷹野 翼が再び見せ場を作る。


鋭く角度の変わるエアリアルドリブルで成磐中の守備陣をかわし、決定機を作ったが、蒼の好セーブに阻まれた。


「ナイスキーパー、蒼!」


蒼のクリアを緋色が拾い、コートの全体を見る。その瞬間、青い光が焔と照へと繋がる。


焔が右サイドに走りこむのが見え、マークがついていない。


緋色は焔にすぐにパス、素早いカウンターを選択した。


「焔!!照先輩だ!逆サイド!!!」


すぐさま次のプレーの指示を出し、緋色はフォローに走る。


焔は照が走る左サイドに強烈なヒットで左サイドに展開。スピードに乗った照へとボールが渡る。


「きたきたきたーーー!ナイス後輩’s!!」


照はそのままのスピードを落とさずDF1人をかわすと、残っていたGKの横を突く見事なシュートを放った。


「よっしゃーーーーー!!!!」



これが決まって2-1。


照の大きな叫び声と歓声が鳴り響き、とうとう成磐中が勝ち越した。




最終クォーター、旋翔中も必死に追い上げを図る。


鷹野 翼のエアリアドリブルが再び成磐中のサークルに侵入する。


しかし、成磐中の組織的な守備が機能し、マークしていた山田が抜かれても最後は塁斗がカバーに入り鷹野をしっかりと潰しシュートを防いだ。



そのまま成磐中が逃げ切り、2-1で勝利を収めた。



---



試合後、鷹野 翼が焔に歩み寄った。


「君の技術、本当にすごかった。ほんとに1年かよ…。前半で見た3Dドリブルからエアリアル、参考にさせてもらうよ」


鷹野の素直な言葉に、焔は少し照れながら答えた。


「鷹野先輩のエアリアルドリブルも本当にすごかったです。あんなに素早く滑らかに一瞬でコースを変えられるなんて…」


「俺は毎日、朝と夜に必ず練習してるからね。でも君も同じでしょ?あれだけの技術は、すぐには絶対身につかない」


「はい...僕も小さい頃からずっと家でコツコツ練習してきました」


二人の会話を聞いていた緋色は、努力を重ねた者同士の敬意を感じていた。


「鷹野くん、ありがとうございました」


緋色も鷹野に声をかけた。


「ありがとうございました。去年は当たれなかったけど成磐中は本当に良いチームだね。個人技だけじゃなく、チーム全体の連携も素晴らしかった」


「君のエアリアルドリブルすごかったよ。あんなボールコントロールできるなんて、なかなかマネできない!」


緋色の言葉に、鷹野は少し嬉しそうな表情を見せた。


「ありがとう。後半のカウンター攻撃、あの連携は僕一人では止められないね」


「それがぼくたち成磐中の武器だから」


照が加わってきた。


「鷹野、お前のドリブルはほんまにすげぇわ。俺にはあんな繊細な技術は無理じゃわー」


「ありがとうございます。でも朝比奈さんのシュートも凄かったです。あのスピードから正確にトラップして、ゴールに繋げるなんて...やられました。」


鷹野は素直に相手の技術を認めていた。


両チームの選手たちが握手を交わす中、お互いの努力と技術への敬意が感じられる温かい雰囲気が漂っていた。


試合終了後、成磐中のベンチでは、みち先生が選手たちを集めていた。


「みんな、お疲れさま。そして初戦勝利、おめでとう!」


「ありがとうございます!」 選手たちが声を合わせる。


「でも、まだ予選リーグは始まったばかりよ。次の相手はもっと手強くなる」


みち先生の言葉に、選手たちの表情が引き締まる。


「次は石見双星中ですね」 緋色が確認する。


「去年の大森双子は卒業したけれど、県2位といっても強豪の島根県。油断せず行きましょう。」


「どんな相手でも、今日みたいにチーム一丸となって戦えば大丈夫です!」


焔の力強い言葉に、チーム全体の士気が上がった。


「そうじゃ!今日の連携、ばっちりじゃったでー!」 照も興奮気味だった。


「蒼のセーブもすごく良かったよ」 塁斗も蒼を褒める。


「ありがとうございます。でも鷹野選手の最初のシュート、完全に読まれてしまったな。まだまだ課題があります」


蒼も向上心を忘れていなかった。


緋色は初戦の試合を振り返っていた。


(焔の加入がものすごく大きい。個人技とチームプレーの両方を使い分けている。それに、相手の技術に対する敬意も忘れていない)


「よし、今は少しでもゆっくり休んで次の試合じゃ!」


照の声で、チーム全体が前向きな気持ちになった。


青い人工芝に熱い光が差し込む中、成磐中は予選リーグ突破に向けて、確かな一歩を踏み出していた。


中国大会初戦勝利。


だが、これはまだ序章に過ぎない。


より強力な相手との戦いが、彼らを待ち受けているのだった。

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