第43話「組み合わせ」
県大会から一週間。
成磐中ホッケー部の練習前の部室は、いつもより活気に満ちていた。
「中国大会の組み合わせが今日発表されるんじゃったなー!」
照の声に、部員たちの顔に緊張と期待が入り混じる。
「楽しみですね。どんな相手と戦うことになるのかな」
蒼も興味深そうに呟く。
緋色は焔の隣に座りながら、昨年のことを思い出していた。
(去年は僕のせいで全国に行けなかった。今年こそは...)
「緋色先輩、どうかしました?なんか考え事してるみたいですけど」
焔の声に我に返る。
「ああ、ちょっと去年のことを思い出してたんだ。この大会は必ず去年の失敗取り返して、みんなと一緒に全国に行きたいからね」
「はい!僕も先輩たちと一緒に全国にいきたいです!」
焔の真剣な表情に、緋色は頼もしさを感じた。
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そんな中、みち先生が組み合わせ表を持って部室にやってきた。
「みんな、お疲れさま。中国大会の組み合わせが発表されたわよ」
部員たちが一斉にみち先生の周りに集まる。
「まず、今年は少し変更があって、山口県は部員不足のため防府中学校と長門北中学校の合同チームとなり、全体で8校での開催になります」
「合同チーム...大変なんですね」
蒼が心配そうな表情を見せる。
「そうね。でも、その分私たちは恵まれた環境にいるということを忘れちゃいけないわ」
みち先生は組み合わせ表を広げた。
「それでは発表します」
――― 中国大会組み合わせ ―――
Aグループ
- A1:出雲帝陵中(島根1位)
- A2:八羅針中(鳥取1位)
- A3:青刃中(岡山2位)
- A4:防府・長門中(山口・合同)
Bグループ
- B1:シューティングレイヴ広島(広島)
- B2:石見双星中(島根2位)
- B3:成磐中(岡山1位)
- B4:旋翔中(鳥取2位)
「B3か…よかった、出雲帝陵中とは逆の山」
塁斗が呟く。
しかし、緋色の表情は複雑だった。
(出雲帝陵中がA1か...颯真は向こうのグループなんだな)
照も組み合わせを見ながら呟く。
「藍人たちは青刃中でAグループなんじゃな。岡山同士が同じとこに入らんとはいえ、むこうも厳しい組じゃなー」
「そうですね。出雲帝陵中と同じグループですからね」
蒼も心配そうだ。
「でも僕たちはBだから、予選はまだ有利ですかね?」
焔が前向きに言った。
「そんな事もないが、まずはBグループを1位で抜けることが大事じゃな!」
照の言葉に、チーム全体の士気が上がる。
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みち先生が詳しく説明を続ける。
「その後の決勝トーナメントは以下の通りです」
決勝トーナメント1回戦
- ①A1位 vs B4位
- ②A2位 vs B3位
- ③A3位 vs B2位
- ④A4位 vs B1位
緋色は組み合わせを見つめた。
(もしBグループを1位で抜けて、Aグループも出雲帝陵中が1位なら...決勝で颯真と戦える可能性が高い)
「そして全国大会への出場枠は上位3校。つまり決勝に進出した2校と、3位決定戦の勝者が全国に行けるのよ」
「3校か...去年より厳しくなったんじゃなー」
照が少し心配そうに呟く。
「でも、僕たちなら大丈夫です!」
焔の力強い言葉に、チームの雰囲気が明るくなる。
その時、塁斗が気になることを口にした。
「ところで、シューティングレイヴ広島はどうなんでしょう?去年準優勝の強豪ですよね」
みち先生が答える。
「実は今年、堂島迅くんたち3年生が卒業して、戦力がかなりダウンしているという情報があるの。それでも油断はできないけれど」
「そうなんですか…。でも僕たち、去年の中国大会は広島に大敗してますからね。去年のようには絶対にさせない!」
蒼が決意を込めて言った。
「そうじゃな!市長杯の時と同じく、もう一回返り討ちにしちゃるー!」
照も拳を握った。
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グラウンドに着いた緋色はスパイクに履き替えながら、ふと青い人工芝を見つめていた。
(中国大会...去年は全国に行けなかった。でも今年は違う。誠先輩はいないけど焔がいるし、チーム全体が成長している)
その時、隣にいた焔が
「緋色先輩、どうしたんですか?」
「ちょっと考え事をしてたんだ。焔は中国大会、どう思う?」
「正直、緊張してます。でも、緋色先輩たちと一緒ならきっと凄いことができると思います」
焔の素直な言葉に、緋色は微笑んだ。
「そうだね。一人じゃできないことも、みんなとならきっと乗り越えられる」
「はい!それに、僕、どうしても戦ってみたい人がいるんです」
「戦ってみたい人?」
「神門 颯真です。小学生の時に負けた相手で...いつか絶対リベンジしたいと思ってました」
焔の目に、強い闘志が宿っている。
「颯真か...」
緋色も同じ気持ちだった。去年の中国大会での屈辱的な敗戦は、まだ心に深く刻まれている。
「お互い、同じ相手を目標にしてるんだね。」
「緋色先輩も?」
「うん…でも、焔。一つだけ約束してほしいんだ。」
「何ですか?」
「一人で戦おうとしないこと。颯真は本当に強い。でも、僕たちにはチーム力がある。それが僕たちの最大の武器だと思うんだ」
焔は真剣に頷いた。
「はい!緋色先輩。僕、一人で戦うのは楽しくないってわかったんです。だからみんなと一緒に、絶対に全国に行きたいです」
二人が話していると、他のメンバーも集まってきた。
「何の話しとんー?」
照が興味深そうに聞く。
「中国大会のことです。みんなで全国を目指そうって」
焔が答えると、照の顔がパッと明るくなった。
「よっしゃー!絶対全国行くでー!俺に任せとけ――――!!!」
「僕も頑張ります」
蒼も決意を込めて言った。
「みんなで力を合わせれば、きっと大丈夫!」
塁斗も加わる。
山田やほかの1年生も「僕も精一杯やります!」と次々と声を上げた。
みち先生はその光景を見て微笑んだ。
「良い雰囲気ね。でも、まだ準備期間があるから、しっかりと対策して練習を積み重ねましょう」
「はい!」
全員が声を合わせて答えた。
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練習が始まると、いつもより集中した雰囲気で進んでいく。
基礎練習では、焔が緋色とのパス交換を繰り返し、連携を深めていく。
「いいね、焔。タイミングが合ってきた」
「ありがとうございます。緋色先輩のパス、本当に受けやすいです」
3対3の練習では、チーム全体の動きがスムーズになっている。
「みんな、動きが良くなってるわよ」
みち先生が声をかける。
特に、焔と緋色、照の3人の連携は目を見張るものがあった。
緋色の正確なパス、焔の鋭いドリブル、照の力強いシュート。
それぞれの持ち味が合わさることで、強力な攻撃力を生み出している。
「このまま調子を上げていけば、中国大会でも十分戦えるわ」
みち先生の言葉に、選手たちの表情も明るくなった。
練習終了後、緋色は改めて組み合わせ表を見つめた。
(B3か…必ずチャンスはある。去年とは違う僕を見せるんだ。そのためには一試合一試合を全力で戦わないといけない。きっと...きっと全国に行く!!)
緋色は心に強く決心した。
青い人工芝に夕日が差し込む中、成磐中ホッケー部の新たな挑戦が始まろうとしていた。
中国大会まで、あと二週間。
全国への切符をかけた戦いが、間もなく幕を開ける。
「よし、みんな!明日からさらに気合い入れて練習するでー!」
照の声が夕暮れのグラウンドに響いた。
全員が「おー!」と声を上げて応えた。
その声には、全国への強い想いが込められていた。
県1位代表としてのプライドと、去年の雪辱を果たそうとする決意を胸に、成磐中ホッケー部は中国大会に向けて歩みを進めていく。