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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第5章
43/76

第42話「SO戦」


試合開始の笛が響くと同時に、両チームの闘志が青い人工芝の上で激突した。


岡山県1位代表の座をかけた戦い。ダービーの戦いとはまた別の緊張感で試合はスタートした。


---


第1クォーター



開始早々、青刃中が攻撃を仕掛けてきた。


藍人が中盤でボールを受けると、その動きは相変わらずのテクニックで簡単に1人を抜く。そのキレは以前のダービーとは明らかに違っていた。


鋭いフェイントで山田をかわすと、そのまま一気にサークルに向かって突進する。


「止めろ!」


塁斗がフォローに入るが、藍人の動きは洗練されていた。


左に行くと見せかけての右抜き。そして塁斗が伸ばしたスティックをピックアップ*で流れるようにかわし、そのまま浮いたボールを強烈なシュートで叩き込んだ。

*ボールを下からスティックで少し浮かし相手のスティックをかわす技術


しかし塁斗がコースを限定していたおかげで蒼が瞬時に反応、渾身のビックセーブで弾き飛ばした。


「ナイス!蒼!!」


しかし逆側でゴールに詰めていた雷太がこぼれ球を押し込んだ。


「よっしゃーーーーー!!俺が先制点ーーー!藍人さんナイス―――!」


雷太が藍人に飛び上つき喜ぶ。


0-1。


青刃中の目の覚めるような先制点だった。




「落ち着け!大丈夫、まだ始まったばかりじゃ!」


照が仲間を鼓舞する。


成磐中も反撃に出た。


緋色が中盤でボールを受けるまえに、首を振り全体を見渡す。青い光が光りだす。


焔が右サイドでマークを外そうとしているのが見えた。


「焔!」


ボールを受けるとそのまま絶妙なタイミングでのパス。焔が1人目のマイクをトラップではがすと、得意の3Dドリブルで2人目も抜き去る。


しかし、青刃中の守備も前回の対戦から成長していた。


抜かれた2目人が”抜かせた”コースにさらに天音がサークル外で反応。


スティックを使って見事にクリアー。


焔からボールをシャットアウトして見せた。


「いぃぃ、よっしゃーーーーー!!ナイスディ――(ナイスディフェンスの略)」


「くっ...さすが天音先輩!」


焔が悔しそうな表情を見せる。


前半は青刃中ペースで進んでいた。


---


第2クォーター


「みんな、落ち着いて。相手の動きをよく見て対応しましょう。」


みち先生のアドバイスを受けて、成磐中は戦術を修正した。


緋色にボールを集めるため、照のポジションを少し下げ、ゲームメイクをしやすくする。


「照先輩、右が空いてます!」


照がさがって塁斗からのパスを受けると、緋色かがいる右サイドへ正確なパス。


パスを出した照はすかさずサークルへ走り込みきれいなワンツーパスがつながった。


照はそのまま豪快なシュートを放つ。


「よっしゃ、もらった――――!」


しかし、天音の反応が素早かった。


「甘ぁぁぁいー!…こっちっっ!!!」


見事なビックセーブで成磐中の前に立ちはだかる。


「おおおお!またとめたーーー!」


度重なるGKのビックセーブに、観客席から大きな歓声が沸き起こる。


「くっそ、完璧じゃったのに!ほんまに反応がバケモンじゃなあいつ…!」



その直後、藍人がまたも見せ場を作った。


センターサークル付近でボールを受けると、周りの動きを一瞬で把握する。


雷太が左に流れているのを確認すると、パスフェイントを使い雷太を囮に使いながら自分は右に突破していく。


「やばい藍人は雷太を使うふりをして...」


緋色が気づいた時には遅かった。


藍人の鋭いドリブルに、パスと一瞬判断してしまった塁斗は対応しきれない。


サークル内に侵入した藍人が、冷静にゴール左したのバーにリバースシュートを狙った。


今度は蒼の手も届かない。ゴオォーーーーーン!!大きな音を立ててゴールとなった。


「ナイス藍人ーー!!これで2点目じゃーーーー!」


0-2。

青刃中がリードを広げた。



応援席からは成磐中女子ホッケー部の大きな声援と、心配そうな声が聞こえてくる。


「まだ大丈夫だよ!!頑張って!緋色くん!」


えみの声援が緋色にかすかに聞こえた…。


(…そうだ!負けるわけにはいかない)


---


ハーフタイム


みち先生は選手に冷静に声をかけた。


「みんなまだ大丈夫よ。それにこちらも良いシュートが打ててます。焔くん、もう少し中央に絞って緋色との距離を詰めよう。照、藍人くんにもっとプレッシャー行ってまずはスピードに乗らさず、自由させないように。起点はやはりあの子のドリブルからよ」


「分かりました!」


「オーケーっす!」




第3クォーター


成磐中の攻撃・守備パターンが少し変わると、青刃中も対応に苦労し始めた。


緋色と焔、照とのコンビネーションがうまく機能し始める。


焔がドリブルで仕掛けると見せかけて緋色にバックパス、青い光は隙間を塗って照のほうに。緋色がすかさず照にスルーパスを送る。


照の豪快なシュートが天音のレッグガードに当たり大きく上空へ飛ばされると主審はデンジャラスプレー*としてPCを吹いた。

*危険な反則


成磐中はPCを獲得し照が叫ぶ。


「よっしゃー!」


そのPCを塁斗の強烈なヒットシュートが右の下段隅に決まりゴール!


1-2。ようやく成磐中が1点を返した。



応援席が沸き上がる中、試合は一気に白熱した展開になった。


1点差と僅差で追われるようになった青刃中は焦りを見せ始める。


藍人が個人技で打開しようとするが、成磐中の守備陣が組織的に対応する。


「へい!藍人先輩!こっちです!」


雷太が叫ぶが、藍人はパスを出し切れず、ドリブル突破を試みて塁斗にカットされてしまう。


藍人はまだ完全に仲間を信頼しきれずにいた。


その隙をついて、成磐中が同点に追いつく。


塁斗のカットを青い光で予感していた緋色は絶妙なポジショニングで塁斗からボールを受けるとすかさずスイープで焔と照が走りこむ相手サークルへセンタリングを放つ。


「焔!スルーーーっ!!!」


緋色が叫ぶと焔はびっくりしつつもそのボールをスルー。

裏に走りこんでいた照が見事タッチシュートを決めついに同点に追いついた。


「うぉぉぉーーーー!ナイスゴール!」


2-2。


同点に追いついた成磐中の選手たちが抱き合って喜んだ。



---


第4クォーター



最終クォーター、両チームとも必死の攻防が続いた。


藍人は個人技で何度もチャンスを作るが、塁斗の守備と蒼の好セーブに阻まれる。


成磐中も照や焔が決定機を作るが、天音の脅威の反応に救われ続ける。


「くそっ、全然決まらん!このままじゃ時間切れじゃ...」


残り時間わずか。両チーム共に決定打を欠いたまま…


ブー――――! 試合終了のホーンが響く。


「試合終了だっ!2-2の同点ってことは…どうなるんだ?」


スタンドがざわめく中、審判団がSO戦の準備を始めた。


「県代表の順位決定戦のため、SO戦*を行います!」

*SO戦(シューティング・アウト戦)16m・6秒の間に行うGKとの1v1。6人制では3人づつでやることが多い。


アナウンスが響くと、両チームの選手たちに緊張が走った。


SO戦。6秒間のGKとの一騎討ち。


岡山最強への切符をかけた、最後の勝負が始まろうとしていた。


---


SO戦


「3人ずつで行います。コイントスの結果、青刃中から先攻です」


両チームがシューター3人を決める。


青刃中

① 藍人 ②雷太 ③市川

成磐中

①焔 ②緋色 ③照



「頼むで、蒼」


照が蒼の肩を叩く。


「はい、絶対に止めます」


蒼の表情は引き締まっていた。




青刃中 1本目:藍人 vs 蒼


スタートラインに立った藍人は、呼吸を落ち着かせボールを見つめた。


(両親のためにも、チームのためにも、ここでは絶対に決める)


審判の笛。


6秒のカウントダウンが始まった。


藍人はスピードをつけ一気にボールを運ぶ。蒼もすぐに前に出る。


4秒...3秒...


藍人が一瞬右に振ってから左へ急加速のターンシュート!


「もらった!!!」


しかし蒼が冷静に動きを読み反応していた。


「ここだっ!!」


蒼は体でボールを弾きすぐさまスティックでクリア


まさかの失敗に藍人が頭を抱え、青刃チームは言葉を失う。




成磐中 1本目:焔 vs 天音


「焔、リラックスしていけー」


照の声援を背に、焔がラインに立つ。


応援席からは成磐中の応援の声「落ち着いてー、頑張れーー!」という声が聞こえた。


(応援してくれる、みんなの期待に応えたい)


審判の笛。


焔が慎重にボールをコントロールしながら前進する。


天音が大きく構えて待ち受ける。


残り4秒。焔は左から右に急加速して天音の左足もと狙い、低く鋭いシュートがゴール左隅に飛ぶ。


天音は反応も間に合わず、ボールはゴールに吸い込まれた。


「決まった!」


1-0で成磐中がリード。




青刃中 2本目:雷太 vs 蒼


プレッシャーのかかる2本目。雷太の表情は硬い。


「落ち着けよ、雷太」


藍人が声をかける。


笛の音と共に、雷太が勢いよくスタート。


持ち前のスピードでゴールに向かう。


しかし焦りからか、シュートのタイミングが早すぎた。


蒼が冷静に反応し、ボールを確実に外にはじき出す。


「よっしゃあ!」


成磐中のベンチが沸いた。


1-0で成磐中がそのままリード。




成磐中 2本目:緋色 vs 天音


「緋色くん頑張って―!ファイト―!!」


えみからの声援がきこえる。 


「ここで決めてやる!」


緋色が力強く宣言する。


笛の音。


緋色はボールを運びサークルに入る瞬間、天音が勝負に出る。


天音は豪快に距離を詰め低い姿勢から猛プレッシャーをかける。


その状況はどちらが攻撃かわからないほどの猛獣のような動きで、緋色のミスを誘い難なくクリアー。


「よっしゃーーーーみたかぁぁ!!!!」


天音の爆音で沈んでいた青刃中サイドは大盛り上がり。


「さすが青刃中の守護神だ!!」


1-0で成磐中がまだリード。




青刃中 3本目:市川 vs 蒼


青刃中の3年生、市川がプレッシャーを背負って立つ。


ここで決めれば同点、外せば成磐中の勝利。


笛の音。


市川が慎重にアプローチする。蒼も集中を高める。


藍斗と同じくGKに背を向ける戦法できた市川は残り1秒。見事蒼のプレッシャーを振り切りゴールを決める!


蒼は読んでいたため、悔しさのあまり地面をたたく。


1-1でここにきて青刃中が追い付き同点。


成磐中の選手たちが見守る中、最後のシューターとして照が立った。


「俺に任せなさい・・・!」



成磐中  3本目:照 vs 天音


ここで決めれば成磐中の勝利。


照の表情は意外にも冷静だった。


(これは俺にMVPになれってことじゃな、・・・神様?!任せとけええええ!!!)


笛の音。


照は落ち着いてボールを運ぶ。


天音も最後の意地を見せようと前に出る。


その瞬間を狙った照はサークルに入るなり、強烈なヒットシュートをゴールに向かい放つ。


天音の反応も間に合わずボールはゴール右上に突き刺さった。


「いいいいいよっしゃーーーーーーーー!!!!」


スタンドが大歓声に包まれ、照の雄たけびとともに成磐中の選手が照のもとに駆け寄っていった。



「ピッピッピー――――!!!試合終了!」


主審の笛の合図で勝敗は決した。


2-1で成磐中の勝利でSO戦は幕を閉じた。





選手たちが抱き合って喜ぶ中、緋色は藍人に歩み寄った。


「藍人くん、いい試合だった」


「緋色...負けたよ」


藍人の表情は悔しそうだったが、どこかすっきりした様子も見せていた。


「でも、君たちが今年は県1位にふさわしいと思う。中国大会もお互い頑張って全国を目指そう」


「ありがとう。必ず今年こそ全国に行くよ!」


二人は固い握手を交わした。


青い人工芝の上で、激戦の幕は閉じ、また新たな挑戦が始まろうとしていた。

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