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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第5章
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第41話「ナイスアシスト」


県大会当日の朝。


会場になっている学校近くの人工芝では、中学校ホッケーに関わる多くの人たちが応援に集まっていた。


青い人工芝が朝日に照らされて、いつもより輝いて見える。


「いよいよですね」


みち先生が感慨深そうにつぶやいた。


成磐中の選手たちは9時からの女子の試合を見ながら、自分たちの戦いに向けてウォーミングアップをしていた。



---



「がんばれー!えみーー!」


成磐中女子ホッケー部の応援席から、声援が飛ぶ。


コートでは、成磐中女子 vs 青刃中女子の県代表決定戦が行われていた。


緋色は男子チームのウォーミングアップをしながらも、時折えみの動きに視線を向けていた。


「えみちゃん、今のパス上手かったな...」


緋色がつぶやいていると、隣で蒼が気づく。


「緋色、そんなに女子の試合が気になるの?まぁ、あの人も出てるしね~」


「え?そ、そうじゃないよ!まあ、同じ学校のチームの試合だし!」


緋色は少し慌てながら答える。


「へー、そうなんだ。僕は誰とは言ってないけどね」


蒼は穏やかに微笑みながら、それ以上は何も言わなかった。


---


コートでは、えみが見事なドリブル突破を見せていた。


中盤で相手の守備を軽やかなドリブルで抜き去り、味方との美しいワンツーパスからのリバースシュートで、青刃中女子GKも手が出なかった。


「えみ!シュート!」


チームメイトの声援に応えるように、えみは冷静にゴール右隅を狙った。


「入った!」


成磐中女子の先制点。えみのスーパーゴールだった。


「ナイスシュート!えみちゃんすごい!」


緋色も思わず声を上げて喜んだ。


その時、えみがこちらを向いてくれた。


笑顔で小さく手を振るえみを見て、緋色の心が温かくなる。


蒼はその様子を嬉しそうに静かに見守っていた。


---


試合は終始、成磐中女子ペースで進んでいた。


えみを中心とした攻撃陣が次々とチャンスを作り、守備陣も青刃中の攻撃を堅実に跳ね返している。


「女子、ほんとに強ぇなぁー」


照が感心して見ている。


「ああ。特にえみちゃんの動きが際立ってる。あれはなかなか止められないだろうな」


塁斗も評価していた。


「チームも去年よりも確実に強くなってる」


緋色がえみのプレーを見ながら言った。


試合終了間際、美咲がサイドラインからエンドラインにコートを抉るようにドリブル突破。ラストパスをえみが冷静に流し込み、決定的な追加点を決めた。


「2-0で成磐中女子の勝利だ!」


歓声が響く中、成磐中女子の選手たちが抱き合って喜んでいる。


えみも嬉しそうに仲間と抱き合っていた。


その笑顔を見ていると、緋色は自然と笑顔になっていた。


「よかったね、えみちゃん」

 


---




女子の勝利に刺激を受けて、男子チームの気持ちも高まっていた。


「女子が頑張とったけん、俺たちも負けてられんでー!」


照の声に、チーム全体の士気が上がる。


「そうですね。必ず勝って今度こそ県1位で中国大会に行きましょう」


緋色も決意を込めて言った。


焔は少し緊張した表情を見せている。


「焔、大丈夫?」


緋色が声をかける。


「はい。ちょっと緊張してます…でも頑張ります」


「無理はしないでいいからね。焔らしくプレーすれば大丈夫!」


「ありがとうございます、緋色先輩」


みち先生がメンバー表を確認しながら近づいてきた。


「スタメンを発表します」


**成磐中 スターティングメンバー**

- GK: 福士 蒼

- DF: 浦田 塁斗、山田(1年)

- MF: 相原 緋色

- FW: 朝比奈 照、駿河 焔


「山田くん、スタートで行ってみましょう。先輩に頼っていいからね」


山田が緊張した表情を見せる。


「頑張ります!」


「みんな、去年は青刃中に負けてしまいました。でも今年は違います。新1年も加わって、チーム全体が成長しているわ」


みち先生がチーム全体を見回す。


「特に焔くん、君の成長は目覚ましいものがあるわ。でも一人で頑張ろうとしないで、チーム全体で戦うことを忘れないでね」


「はい!」


焔が力強く答えた。



---



午後1時、県代表決定戦の時間が近づいてきた。


両チームの選手がピッチ内でウォーミングアップを始める。


青刃中からは、藍人と天音の姿が見えた。


緋色と藍人の視線が合った瞬間、笑顔でお互いに小さく頷き合う。


天音も照を見つけて、飛び跳ねながら手を上げた。


言葉は交わさなかったが、友情と闘志が入り混じった表情をお互いに見せていた。


女子の試合を終えたえみと美咲が、応援席に向かう途中で緋色に声をかけた。


「緋色くん、頑張ってね!」


「えみちゃん、1位突破おめでとう!すごく良い試合だった」


「ありがとう。今度は緋色くんたちの番だね。絶対勝ってよ」


えみの笑顔を見て、緋色の心に力が湧いてきた。


「うん、頑張る!えみちゃんの…みんなの応援があれば大丈夫!」


その言葉に、えみの頬が少し赤くなった。


「ふふ♪ じゃあ、いっぱい応援するからね」


「昨日の私のナイスアシストにも感謝してよね~」


「もう!美咲―――!!」


えみが焦りつつ美咲と応援席に向かっていく後ろ姿を見送りながら、緋色は深呼吸した。


(よし、頑張ろう)


「緋色ー!準備はええかー?」


照の声に、緋色は振り返る。


「はい、準備万端です」


両チームの選手がピッチに整列する。


審判の笛が響く中、岡山県1位代表の座をかけた戦いが再び始まろうとしていた。


成磐中の新しいチーム、焔の公式戦デビュー、そして緋色の成長。


青い人工芝の上で、新たな戦いが幕を開けようとしている。


「いくでー、みんな!」


照の掛け声と共に、試合開始の笛が鳴り響いた。


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