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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第5章
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第40話「準備」


県大会を翌日に控えた土曜日の朝練後。


成磐中ホッケー部の部室では、県大会の準備が行われていた。


「明日は朝7時集合よ。遅刻は絶対だめだからね」


みち先生が注意事項を確認している。


「はい!」


部員たちが声を揃えて答えた。


「そうそう、緋色くんと蒼くん、悪いけど部の備品の買い物をお願いできる?」


「買い物ですか?」


緋色が首をかしげる。


「消毒液とテーピングね。それと、スポーツドリンクの粉も買ってきて。明日の試合で使うから、今日中に準備しておきたいの」


「分かりました」


蒼が快く引き受けた。


「よろしくお願いします」


---


緋色は自分のスティックに巻くグリップも買うため『Hockey Lab』へ向かう道中、蒼が少し心配そうな表情を見せる。


「緋色、明日の試合、緊張してる?」


「うーん、少しはしてるかな。でも去年ほどじゃないかも」


「そっか。僕はかなり緊張してるよ。県大会だからね」


「蒼なら大丈夫だよ。この前の青成ダービーでも凄いセーブを連発してたじゃないか」


「でもさ、緊張はするんだよ。お互い頑張ろうね」


二人の会話が弾む中、『Hockey Lab』に到着した。


「いらっしゃい」


ぱっちさんが明るく迎えてくれる。


「グリップテープとテーピングならそこの棚にあるよ」


「ありがとうございます」


緋色と蒼は商品を選び始めた。


その時、


「おー、緋色と蒼じゃん!」


振り向くと、天音と藍人が歩いてきた。


「天音!藍人くん!」


蒼が手を振る。


「何買いに来たん?」


「明日の試合用の消耗品だよ。天音たちは?」


「俺らも同じじゃ!こき使われて下っ端は悲しいなー!」


四人でグリップテープを選んでいると、店の入り口からなじみのある声が聞こえてきた。



「そんな都合のいいタイミングよくいるかな〜緋色く...…って、ほんとにいた!」


美咲は笑ってえみに言う。


「ひ、緋色くん!蒼くん!ぐ…、偶然だね!!」


振り返ると、えみと女子ホッケー部の先輩・美咲が入ってくるところだった。


えみの頬は少し赤らんでいて、なぜか焦っている。


「あっ!」


緋色は驚いた表情を見せる。


「えみちゃん、美咲さん、こんにちは」


「こんにちは〜!実は女子も明日は県大会だからね~買い物に!ね、えみ!」


美咲はにやにやしながら笑みを見てなた笑っている。


「そ…そう、そう!」


えみはあたふたして説明する。


「女子は午前中の試合だから、午後の男子の試合も応援できるんだよ」


美咲の嬉しそうなえみを見る表情を見て、蒼がすぐに状況を理解した。


(……なるほど?!)


天音はえみの方を見て、にやっと笑った。


「お姉さん、緋色と話せて嬉しそうじゃなー!顔赤いでー」


その瞬間、えみの顔が真っ赤になった。


「おっと、天音!」


蒼が慌てて天音の肩を叩いた。


「あ、そうだ!天音、ちょっと外でGK談義でもしようよ!この前のダービーについても藍人の意見が聞きたいなぁ~」


蒼は美咲の目を一瞬見て、美咲はすぐに理解した。


「いいね~!私もGKの技術、興味あるな~」


美咲と藍人は空気を読んで頷く。


「そうですか!外で一緒にゆっくり話しましょう」


蒼は手際よく三人を店の外へ誘導する。


去り際に美咲はえみに微笑んで店を出ていった。


「緋色、俺のグリップテープもよろしく!」


「え?あ、うん」


緋色が戸惑っているうちに、四人は外に出て行った。


---


急に静かになった店内。


緋色とえみが二人きりになった。


「えーっと...」


緋色が気まずそうに頭を掻く。


「緋色くんどのグリップにするの?」


えみが自然に話しかけてくれる。


「あ、そうだね。試合も近いし、これまでと同じ種類がいいかな」


二人は商品棚の前に並んで、グリップテープを選び始めた。




買い物を済ませて店を出ると、えみが提案した。


「緋色くん、スポーツドリンクの粉はここには置いてないから、向こうのドラッグストアで買わない?」


「あ、そうだね。蒼たちには連絡しておこう」


緋色が携帯を取り出そうとした時、蒼からメッセージが届いた。


『がんばれ!』の一言。


「ん?? 蒼、急にどうしたんだろう…」


緋色が首をかしげていると、えみも携帯を見ている。



『えみファイト〜☆楽しんで!』


美咲からのメッセージ。恵美はすぐにスマホを隠した。



---


ドラッグストアでスポーツドリンクの粉を選んだ後、二人は近くの公園で小休止することにした。


お店でアイスを買って、ベンチに並んで座る。


「緋色くん、明日緊張してる?」


「少しは。えみちゃんは?」


「私はワクワクの方が強いかな!もちろん試合が終わったら女子部みんなで男子を応援するよ!」


えみの笑顔を見て、緋色はなぜかほっとした。


「ありがとう。えみちゃんたちが応援してくれると心強いや」


アイスを食べながら、ふと昔のことを思い出した。


「そういえば、小学生の頃もよく二人でこうやってお菓子食べてたよね」


「覚えてる!いつもお母さんたちと駄菓子屋に行って、公園で食べてた」


えみも懐かしそうに笑う。


「あの頃から変わってないね、こうやって並んで座ってるの」


「そうだね...でも」


緋色はえみの横顔を見つめた。昔と同じはずなのに、何かが違う。


胸の奥で、暖かいものがゆっくりと広がっていく。


「ん?」


「いや、なんでもない」


緋色は慌てて視線を逸らした。


---


公園からの帰り道、二人は自然に並んで歩いた。


「今日は楽しかったな」


緋色がつぶやく。


「ふふっ♪私も。久しぶりに緋色くんとゆっくり話せて嬉しかった」


えみの言葉に、緋色の心がまた温かくなった。


「明日の試合、絶対勝とうね」


「うん、頑張るよ。えみちゃんが応援してくれるなら、きっと勝てる!僕も応援してるね」


「ありがとう、でもそんなに期待しちゃだめよ?プレッシャーになっちゃうし」


えみがくすっと笑う。


その笑顔を見た瞬間、緋色の心に温かいものが広がった。


(あれ…なんだろうこの気持ち…)


えみの家に着くと、二人は立ち止まった。


「じゃあ、また明日」


「うん、明日会場で会おうね」


えみが手を振って家の中に入っていく。


その後ろ姿を見送りながら、緋色は不思議な寂しさを感じていた。


(もうちょっと話していたかったな…)


---


家に帰ると、母のけいが出迎えてくれた。


「お帰りなさい。遅かったのね」


「あ、うん。買い物してたから」


緋色は少し慌てながら答える。


「買い物?誰と?」


「え...…蒼と一緒に」


緋色が思わず最初に「えみ」と言いかけて慌てて訂正する。


けいは緋色の様子を見て、母親の勘が働いた。


「ふーん。蒼くんと...ね。そう。お疲れさま。明日の準備はできたの?」


けいは小さく微笑みながら、それ以上は聞かなかった。


「うん、大丈夫」


緋色は購入した用品をチェックしながら、今日一日を振り返っていた。


えみちゃんとの時間。


あの笑顔。


優しい言葉。


一緒にいる時の安心感。


そして別れ際の、なんとも言えない寂しさ。


(あれは………)


その言葉を口に出すのは、まだ恥ずかしかった。


でも確実に、何かが変わり始めていた。


明日の県大会。


えみちゃんの応援を胸に、きっと良い結果を出したい。


そんなことを考えながら、緋色は早めにベッドに入った。


大切な戦いを前に、心は穏やかだった。


えみちゃんという特別な存在が、いつも支えてくれている。


その事実が、明日への大きな力になっていた。

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