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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第5章
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第38話「青成ダービー再び」


ゴールデンウィークの合宿も終え、初夏の六月。ついにあの季節がやってきた。


新入生も部活にすっかり慣れ、基礎技術も身についてきた頃、成磐中ホッケー部に一つのビッグニュースが舞い込んできた。


「青成ダービーの季節がやってきました!」


みち先生の発表に、部室全体がざわめく。


「今年も青刃中学校とダービーよ!!日程は来週の土曜日です」


照が興奮して飛び上がる。


「きたでーーー!久しぶりのダービーじゃ!!」


「楽しみですね。新戦力も加わったし、どんな試合になるか」


蒼も期待に満ちた表情だ。


緋色は焔の方を見る。


「焔、君はまだ藍人くんと戦ったことないよね?彼はすごく上手いから、楽しみにしておいて」


焔は頷いた。


「はい!緋色先輩。小学生の時に少し見たことはありますけど、どんな選手なんですか?」


「技術がとても正確で、二重ドリブルっていう特別な技も使うんだ。君と同じくらい上手いかも」


その時、蒼が少し心配そうな顔をする。


「でも今回は未経験の新入生も初の公式試合ですよね。青刃中は手ごわいです。」


「心配すんなって!俺たちがしっかりフォローしようで!」


照の言葉に、新入生たちも緊張と期待の入り混じった表情を見せる。


---


試合当日。青い人工芝の上に、久しぶりに青刃中の選手たちが姿を現した。


藍人と天音の姿を見つけて、照が大きく手を振る。


「おーい!藍人ーーー!天音ーーー!」


「照先輩!お疲れさまです!」


「こんにちはーーーー!今日”も”負けませんよー!!」


藍人と天音も嬉しそうに駆け寄ってくる。和やかな再会に、両チームの選手たちも自然と笑顔になる。


「今年は新入生がたくさん入ったって聞きましたよ」


「おう!今年はすげぇぞ〜」


蒼も天音のもとへ歩み寄る。


「天音、今日はお互い頑張ろう」


「おう!蒼には負けんで!」


二人のGKは互いを認め合いながらも、しっかりとライバル意識を燃やしていた。


そんな和やかな交流の中、青刃中の列に見慣れない小柄な選手がいた。


その選手は成磐中の選手たちを見回すと、突然焔を指差した。


「あ!いた!」


全員の視線がその選手に集まる。周囲の和やかな空気とは明らかに違う緊張感だった。


「え…と。君は...?」


緋色が尋ねると、その選手は胸を張って答えた。


しま 雷太らいた!青刃中1年です!そしてーーー」


そう言うと、焔の方に向き直って決めポーズを取る。


駿河するが ほむら!永遠のライバルのお前に勝つためにここに来た!」


「えっ……?」


焔は戸惑った表情を見せる。目の前の少年に見覚えがない。


「君は...誰?」


その一言に、雷太の表情が凍りつく。


「だ、誰って...俺だよ!島 雷太!小学生の時に何度も対戦したじゃないか!」


「あ...ごめん、ちょっと思い出せない」


焔の正直な言葉に、雷太の心にぐさりと刺さる。


(覚えてない...だとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!???)※雷太の心の声


藍人が慌てて仲裁に入る。


「雷太、試合前からそんなに興奮しちゃだめだよ」


「でも藍人先輩!俺はこの日のために猛特訓して...!」


「分かってるよ。でも試合で証明すればいいじゃないか」


藍人の言葉に、雷太は少し落ち着いた。


一方、成磐中側では焔が首をかしげている。


「緋色先輩、僕、あの人知ってるのかな?」


「さあ...でも、焔のことをよく知ってるみたいだね。きっと小学生の時に対戦したことがあるんじゃない?」


「そうなのかな...」


(なぁぁぁあにぃぃぃぃぃ………!!!!??)※雷太の心の叫び


焔の無関心さが、雷太の心をさらに刺激していた。



---

前半 第1クォーター


試合開始の笛が響く。


青刃中のスターティングメンバーには、藍人と天音、そして雷太の姿もあった。


「おっ、あの元気な新入生、レギュラーなんだな」


塁斗が感心する。


前半戦が始まると、予想通り両GKの好セーブが続いた。


成磐中のパスは緋色、焔、照の連携で組み立てられる。


焔もこれまでの学びを活かし、個人で無理をせずにチームプレーを心がけていた。


しかし天音の反応は素早く、シュートコースを完璧に読んでセーブを連発する。


「さすが天音やなー!今の止めるんかよ…」


照も感心するほどの好セーブだった。


一方、青刃中の攻撃では雷太が積極的に仕掛けてくる。


「見せてやる!必殺!雷速ドリブル!!!」


確かに速い。藍人からの指導の成果かスピードに乗ったプレーを披露した。


しかし塁斗の冷静な守備と蒼の的確なポジショニングに阻まれ、なかなか決定機を作れない。


「蒼、ナイスキーパー!」


緋色が励ます。


前半は0-0で折り返した。


両GKの好セーブが光る、緊迫した展開だった。


---


ハーフタイム、青刃中のベンチでは戦術変更が行われていた。


「天音、後半は休んでくれ。新1年生にも試合に出てもらおうと思う。お前は前半で十分活躍した」


監督の指示に、天音は少し残念そうな顔をする。


「了解ですーーーー。んじゃ後半はみんなを応援します!」


代わりに入る新1年生GKに向かって、天音は励ましの言葉をかける。


一方、成磐中のベンチでは緋色が焔に話しかけていた。


「焔、前半の動きはとても良かったね。チームのことを考えてプレーできてる」


「ありがとうございます。でも、まだ点が取れてません」


「大丈夫。後半はきっとチャンスが来る。もっと自分から仕掛けていいし、僕たちで連携もしよう」


緋色の言葉に、焔は力強く頷いた。


「はい!!!あと…確かに小学生の時ものすごく足の速い子がいたような…あとうるさかったような…」


緋色は苦笑いしてきいていた。

---


後半開始。


交代したGKはまだ試合の緊張感に慣れていないようで、前半の天音ほどの安定感はなかった。


その隙を突いて、焔が先制点を奪う。


サークル付近でボールを受けると、そのままドリブルで進入し冷静にコースを狙って決めた。


「やったー!」


成磐中の選手たちが喜ぶ中、ベンチの天音は大声で青刃中を鼓舞する。


「みんなー!まだまだこれからだぞー!雷太ー!いけー!」


天音の大きな声援に、青刃中の選手たちも気合いが入る。


その声に応えるように、雷太が意地を見せた。


藍人が照、緋色を連続でドリブルで躱すとすかさずスペースに走っていた雷太にパスを送る。


雷太が持ち前のスピードで成磐中のサークルに入るとそのままシュート、見事な同点弾を決めた。


「いいぞ!雷太!」


藍人が真っ先に駆け寄り、雷太の健闘を称える。


「ナイスゴール!君のスピードが活きたね」


「藍人先輩...」


雷太の目に涙が浮かぶ。努力が報われた瞬間だった。


天音もベンチから飛び上がって喜んでいる。


「よっしゃー!雷太ー!ナイス―――!!」


試合は1-1。最後の勝負がかかっていた。


---


終盤、決着の時が訪れる。


緋色が全体を見るために首を振る。青い光を感じながら、敵味方入り混じるフィールド全体を頭に入れる。


照がスペースを作るために下がる所の瞬間、焔がマークを外し、絶好のポジションに走り込む。


(今だ!)


緋色からの絶妙なタイミングのパス。


緋色と焔をつなぐきれいな青いラインが見えた瞬間、焔は迷わずシュートを放つ。


ボールは交代GKの手を抜けて、ゴールネットを揺らした。


「決まったー!」


成磐中の勝利が決まった瞬間だった。


試合は2-1で成磐中の勝利に終わった。


---


試合後、雷太は悔しさを抱えながらも、どこか清々しい表情をしていた。


努力の成果は見えた。でも、焔との差はまだある。


そんな雷太のもとに、焔がやってきた。


「雷太くん、さっきのゴール、すごく良かった!」


焔の屈託のない笑顔に、雷太は複雑な気持ちになる。


「ありがとう...でも、君には勝てなかった」


「雷太くんのスピードを見たとき思い出したんだ!小学生の時にあんなに速いドリブル、僕にはできないすごい選手がいたなって。でもさ勝ち負けも大事だけど楽しかったね!」


焔の素直な言葉に、雷太の心が少し軽くなった。


「本当?」


「本当。今度機会があったら、そのドリブル教えてよ」


「……そこまで言われたら…仕方ないなぁ」


雷太が照れて答えた。


その時、藍人がやってきた。


「雷太、いいゴールだったぞ。努力がちゃんと形になってるじゃないか!」


「藍人先輩...」


「技術的には確実に成長してる。これからも一緒に頑張ろうな」


藍人は焔の方を見る。


「焔くん、雷太の成長を見ていてくれてありがとう。また練習でも一緒にやろうよ、お互いに学ぶことがあると思うし」


この提案に、両チームの選手たちが興味を示した。


「面白そうじゃなー!」


照も乗り気だ。


天音も駆け寄ってくる。


「それええなーー!みんなで練習したら楽しそう!」


緋色が焔に声をかける。


「どう?焔」


焔は雷太を見る。一方的にライバル視されていることは分からないが、彼の努力と情熱は物凄く感じ取れた試合だった。


「...はい。雷太くん、一緒に練習しよう」


その言葉に、雷太の表情がパッと明るくなった。


まだ焔には勝てない。でも、こうして認めてもらえた。


これも一歩前進かもしれない。


青い人工芝の上で、新しい関係が始まろうとしていた。


グラウンドに風が心地よく吹き抜ける中、青成ダービーは幕を閉じた。


両チームの友情と、それぞれの成長を感じさせる一日だった。


そして次なる挑戦へ向けて、両チームの物語は続いていく。

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