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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第4章
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第35話「岡山のホッケー好き、全員集合!」

市長杯ベスト4という結果に、成磐中ホッケー部の面々は大きな手応えを感じていた。


しかし、冬の訪れとともに待っていたのは、これまで以上に厳しい基礎トレーニングと体力トレーニングの日々だった。

12月の青い人工芝は、朝霧とともに冷たい空気に包まれている。



「さあ今日も5kmラン、15m×10本短距離ダッシュ行くわよー!」



みち先生の声に、部員たちが愕然とした表情で走り出す。

照は足首の怪我から復帰し、ようやくチームに合流していた。



「うわあ...またこのメニューかあ......」


蒼が息を白くしながら呟く。



「冬の基礎作りが、来年の全中の結果を左右するのよ。頑張りましょう!」


みち先生の励ましに、部員たちは学校周辺のコースへと駆け出していく。

冬のランニングは本当に厳しかった。

岡山ではめったに雪が降らないため外を走り放題。


しかし緋色達の肺を冷たい空気が刺し、足が重くなる。

それでも歯を食いしばって走り続けた。



「はあ...はあ...つらい...でも絶対来年、全中に出るんだ!!」

緋色が息を切らしながら呟く。


「みんな、よく頑張ったわね。これで今日の練習は終了よ」

みち先生の優しい声に、成磐中ホッケー部はほっと安堵の表情を見せた。



(この厳しい練習が、きっと来年実を結ぶはずだ)



緋色は心の中でそう信じていた。



---



1月に入ったある日、みち先生が嬉しそうにみんなを集めた。


「みなさん!とうとうやってきました!」

手には一枚のチラシが握られている。


「今年も岡山県ホッケー経験者大集合の大会、通称『岡山大祭り』の開催よ!!!県内のホッケー経験者なら誰でも参加できる大会よ!」



みち先生が満面の笑みで伝えてくれた。



「そんなのがあるんですか!?」

緋色と蒼の目がさらに輝く。



「ええ!カテゴリーもAからEまで分かれていて、男子の中学生はCカテゴリー。対戦相手は...」



「去年対戦したOBチームや、(数年間ブランクのある)元高校生チーム、それに少し引退してかなり経つ社会人チームなどです」



緋色の顔が明るくなる。



「去年対戦したOBチームって、もしかして...」


「そう!あの時の先輩たちも参加されるそうよ」



緋色は昨年春のOB対抗戦を思い出していた。

あの時は緊張で手が震えて、トラップも満足にできなかった。


(今の僕なら、どれくらいあの人たちと戦えるだろう)



「面白そうだな」 

塁斗が興味深そうに言う。


「僕も!!」

蒼も手を上げる。


「きっと良い経験になりますよ!でもこの大会の趣旨は…」


「楽しむことよ!!!」


緋色達はどんな試合になるのか、わくわくが止まらなかった。



---



1月中旬、岡山大祭り当日。


会場はいつも使っている中学校近くの青い人工芝に3面が並び、朝から多くの参加者で賑わっていた。



「うわあ...すごい人数だ。こんなに岡山のホッケー好きが人がいるなんて」



緋色が驚きの声を上げる。

小学生から60代と思われる年配の方まで、本当に幅広い世代が集まっていた。



Aカテゴリーのコートでは、明らかにレベルの違う選手たちがアップを行っている。


「あのチーム、全員動きがヤバい...」

塁斗が感嘆の声を漏らす。



「あの中に日本代表経験者もいるって聞いたでー」

照がワクワクした表情で言う。



「いつか...僕たちも、あのレベルで戦いたいね!」

緋色の目には憧れの光が宿っていた。



---



Cカテゴリーの第1試合。

相手は懐かしいOBチームだった。


「よお、少年!大きくなったなあ」


あの時の白髪混じりの先輩が、温かい笑顔で手を振ってくれる。



「お疲れ様です!」


緋色は嬉しそうに返事をする。

あの時とは全く違う、自然な笑顔だった。


試合が始まると、OBチームの技術の高さは相変わらずだった。

しかし、緋色たちも以前とは別人のような動きを見せる。


緋色は深呼吸とともに心を落ち着ける。

視界の隅で、青い光がうっすらと見えた。



(あの時とは違う。僕にはみんながいる)



緋色のパスが塁斗に渡る。

塁斗から照へ、照から緋色へと、美しい連携が生まれる。


「おお...すげえじゃねえか!うまくなってる」

OBの一人が感心の声を上げる。



「前とは全然違うな。本当にこんな短期間でよく成長したもんだ」


結果は2-2でOBチームと引き分けたが、緋色たちの表情は明るかった。



「惜しかったな!」


「本当に良い試合だった」


OBの先輩たちが肩を叩いてくれる。



---



第2試合の相手は、引退してかなり経つ社会人チームだった。


「俺たち、10年ぶりくらいのホッケーなんだ、お手柔らかにな」

相手チームの一人が苦笑いしながら言う。



「でも、あいつだけは別格だから気をつけろよー」

指差した先には、一人だけ明らかに動きの違う選手がいた。


試合が始まると、その選手の技術は圧倒的だった。

まるで時が止まったかのような美しいボールコントロール、正確無比なパス、そして鋭いシュート。


「すげえ...」


緋色は思わず呟いた。

1つ1つの技術レベルが全く違う。

しかし、その選手以外は確かにブランクがあるようで、息が上がるのも早い。


「よっしゃ、いまだ!行くでーー!」

照が檄を飛ばす。


緋色は青い光を頼りに、チーム全体の動きを読もうとする。

少しずつ、相手の動きが見えてくる。



(あの人は確かにすごい。でも、チーム全体で戦えば...)



最終的に1-2で敗戦したが、内容は互角以上だった。


「いやあ、君たち本当に強いね。俺たちも久しぶりに楽しいホッケーができたよ」



あの凄腕の選手が、汗を拭きながら緋色たちに声をかけてくれる。



「俺も昔は岡山県の代表選手だったんだ。君たちなら、きっと全国でも通用するよ」


その言葉に、緋色の胸が熱くなった。



---



大会の合間、小学生部門の試合を見学していた緋色たち。


「小学生も、みんな上手いなあ」


塁斗が感心している。

中には大人顔負けのスーパープレーで試合が盛り上がる場面もあり、会場全体が温かい拍手に包まれていた。



「ホッケーって、本当に幅広い世代が楽しめるんですね」

緋色が改めてホッケーの素晴らしさを実感していた。



---



大会の最後、閉会式で各カテゴリーの優勝チームが表彰される。

Aカテゴリーの優勝チームは、見ているだけで勉強になるレベルだった。



「いつか、僕たちもあそこに立ちたいね」

蒼が憧れの眼差しで見つめる。



「うん。でも、今日は本当に楽しかった」

緋色が心から笑顔で言う。


勝てなかったけれど、今日は悔しさよりも楽しさの方が勝っていた。

様々な世代の人たちとホッケーができる喜び、技術の差を感じながらも温かく迎えてくれる雰囲気。


これが、ホッケーの素晴らしさなのかもしれない。



「来年は、もっと強くなって参加して優勝じゃーーー!」

照が拳を握る。



「来年は先輩卒業してますけどね…」


みんなが大笑いして岡山県大祭りという大会は幕を閉じた。



---



帰り道、みち先生が振り返る。


「みなさん、今日はどうでしたか?」


「最高でした!」

みんなが声を揃えて答える。


「技術的にはまだまだ足りないけど、でも確実に成長していることを実感できました」


緋色の言葉に、みんなが頷く。


「そうね。そして何より、ホッケーの楽しさを改めて感じられたんじゃないかしら」



みち先生の優しい笑顔に、成磐中のみんなの心が温かくなる。



「来年はみんな学年も上がり。新しい後輩も入ってくると思います。今日の経験を活かして、もっと素晴らしいチームにしていきましょうね」


「はい!」


夕日が岡山の空を染める中、成磐中ホッケー部の面々は、来年への新たな決意を胸に家路についた。



きっと春には、もっと成長した自分たちに出会えるはずだ。




そして新たな仲間とともに2年生の緋色たちの挑戦は、もう間もなく始まろうとしていた。

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