第33話「執念のゴール」
第3クォーター終了。
1分間の短い休憩時間。
「蒼、今日は本当にすごい!!」
緋色が蒼の肩を叩く。
「5本中4本って、神がかっとるじゃねーーーか!!」
照も興奮気味に言った。
「でも、ここからだぞ」
塁斗が全員を見回しながら言う。
「1-1の同点。最後の7分で全てが決まる」
「絶対に勝つでーーー!」
照が拳を突き上げる。
「おう!」
チーム全員が応える。
「徹底した守備はそのまま続けましょう。全員で我慢してカウンター狙いよ」
みち先生が冷静に戦術確認をし、全員が頷く。
「よっしゃ、最後の7分、走りきるでー!絶対にリベンジじゃ!」
照の声に、全員の気合を入れた一言で成磐中の選手はベンチから出ていった。
第4クォーター開始
試合再開すると広島の選手たちの表情に微妙な変化が見えていた。
以前は圧倒的に勝っていた相手に、最終クォーターまで引き分けている。
特に下級生たちの顔に、焦りの色が浮かんでいた。
「どうなってんだ…」
「このままじゃマズい...」
開始早々、広島の2年生DFが、焦って堂島 迅へのロングボールを放った。
「お、おいっ!!」
堂島 迅が叫ぶ。
その瞬間、緋色は相手の焦りがはっきりと見えていた。
(これは...読める!)
ハーフライン付近で、緋色が完璧にインターセプト。
「おぉっ!読んでた!」
観客席から声が上がる。
「照先輩、カウンター!!」
緋色がすかさず照にパスをだした。
照が一気に駆け上がり、サークルインから強烈なシュートを放った。
しかし、広島GKが辛うじてセーブ。
「惜しい!」
観客席がどよめく。
その後、堂島迅が1、2年生のチームメイトに檄を飛ばした。
「お前ら落ち着け!いつも通りやればいいだけだろ!」
しかし、長い間3年生に頼ってきた弊害がここにきて露呈していた。
経験不足の1、2年生は、プレッシャーの中でどんどん攻撃が単調になっていく。
普段なら簡単に堂島 迅に繋がるパスも、成磐中の守備に阻まれて思うようにいかない。
「ここにきて、成磐中のペースになってきたな」
観客席でも、試合の流れの変化を感じ取っていた。
第4クォーター 5分
業を煮やした堂島 迅が、自ら下がってボールを受け取りに来た。
「くそっ、渡せ!俺が行く!!」
堂島 迅がドリブルを開始した瞬間、それを狙っていた照と塁斗が連携しプレッシャーをかけに行った。
「照、ここだっ!挟むぞ!!」
照が横から右ライン際に寄せ、塁斗が正面から蓋をする。
さすがの堂島迅も、二人がかりの完璧なタイミングの挟み込みには対応しきれずボールをロストしてしまう。
「おおお!完璧な守備!」
観客席が沸く。
ボールが緋色の元に転がってきた。
その瞬間、緋色の視界に青い光が広がった。
(…ここだ!)
照が上がるタイミングを作るため、緋色は自陣中央から左サイドへとドリブルを開始した。
堂島 迅が焦って取り返しに来るのが見えた。
(あの人があんなに焦ってる......今だ!)
緋色がフォアターンで迅をかわした瞬間、塁斗が絶妙なポジションに。
一瞬、首を振り、全体を見る。
塁斗と目が合った瞬間...
「塁斗先輩!」
緋色はすかさず塁斗へパス。
すぐに塁斗から緋色へのリターン。
完璧なワン・ツーパスで迅を躱した。
「・・・よく見てる!」
観客席からどよめきの声が上がる。
その間に、照がサークル付近まで駆け上がっていた。
「照先輩!」
緋色が完璧なタイミングでスイープパスを送る。
照がサークルトップでボールを受け取り、左45度の位置から強烈なリバースシュートを放った。
「もらったーーー!」
会場全体が息を呑む。
しかし、広島GKがここでもファインセーブ。
「おぉぉぉっ!!惜しい!」
ボールがサークル内にこぼれた。
青い光の感覚でサークルまで詰めていた緋色が、誰よりも早くこぼれ球に反応。
「よく拾った!!まだ成磐中のボールだ」
観客席が再び沸く。
緋色が一人をかわし、エンドラインを使って抉るようにドリブル。
再度、照先輩にラストパスを出そうとした瞬間—
「舐めるなよ!!させるか!!!」
執念で戻ってきた迅が、パスカットを狙っていた。
しかし、完璧にはいかず、ボールがGKと照の前にこぼれた。
「照、勝負だ!!」
塁斗が叫ぶ。
照とGKがこぼれ球に反応し、同時にボールに向かう。
交錯しながらも、照が執念で体を投げ出してボールを押し込んだ。
「入れぇぇぇ!」
「ピピィィーーーーーーーッ!! ゴール!!!」
2-1
「よっしゃ―――、やったぁぁぁ!」
成磐中の選手たちがガッツポーズをし盛大に喜ぶ。
観客席も総立ちになった。
「執念のゴール!」
「すげぇ!最後まで諦めなかった!」
しかし—
「ぐうぅぅぅぅ...痛ぇっ...」
照が地面に倒れ込んだまま、立ち上がれない。
GKとの交錯の際に、足首を変な角度で着地してしまったようだった。
「照先輩!」
緋色が慌てて駆け寄る。
「足首が...、やってもーたかも..」
照の顔が苦痛に歪む。
みち先生も駆けつけてくる。
「照くん、大丈夫?歩けそう?」
「うーん...こりゃきついっすね...」
交錯時に足首を捻挫していた。
「無理をしちゃだめよ、交代しましょう」
みち先生の判断で、照がピッチから下がることになった。
「くそ、こんな時に...せっかく勝ち越せたのにっ...」
照が悔しそうな表情を見せる。
「照先輩のおかげです。あとは僕たちに任せてください!」
緋色の言葉に、照が頷いた。
「そうじゃな、、、頼んだでーみんな..!!」
残り2分
照を欠いた成磐中。
広島も最後の総攻撃を仕掛けてくる。
堂島 迅も、最後の力を振り絞って攻撃を仕掛ける。
「全員で守るぞ!照の分まで!」
塁斗の叫びに、選手たちの気持ちが一つになった。
その後も成磐中の守備は崩れず、一人抜かれても、すぐに次がカバー。
蒼も最後まで集中を切らさない。
「絶対に守り抜く!」
残り30秒、広島が最後のチャンスを迎える。
ここまで同様、堂島 迅の個人技で、最後のPCを獲得。
本日6本目のPC
「きっとこれが最後のプレーだ、絶対に止める!」
蒼の気迫に、守備陣も応える。
堂島 迅の最後のフリック。
会場全体が息を呑む。
「うおおおお!」
蒼がコースを読み反応した。
しかし、堂島迅のフリックシュートはポストにはじかれ終了のホーンが鳴り響いた。
2-1 成磐中の勝利。
「やったぁぁぁ!」
選手たちがまるで優勝したかのように抱き合って喜ぶ。
その姿を見ていた観客席から白熱した試合に拍手が送られた。
「本当に成長したねー」
「ひいろ、よく頑張ったわね」けいとみっちゃんもうっすらと涙を流していた。
ベンチの照も、仲間の肩を借りながら笑顔を見せていた。
「みんな、ナイスじゃ―――!!」
緋色は照の元に駆け寄った。
「照先輩の執念のゴールのおかげです」
「緋色のパスがあったからじゃでー。お前、本当すごいわ」
照が微笑む。
「あいつらどんだけ走り回んだよ、、、くそが」
堂島迅が成磐中の選手たちを見て呟いた。
「中国大会の時とは、まるで別チームだぜ。これからうちのやつらも手こずりそうだな。」
堂島 迅が去っていく中、緋色は仲間たちと勝利を分かち合った。
リベンジ完了。
準決勝進出決定。
しかし、エースの照の怪我という代償も背負った勝利だった。
次の準決勝では、照なしで戦わなければならない。
それでも、今日の勝利で得た自信と絆があれば、きっと乗り越えられる。
緋色はそう信じていた