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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第4章
30/74

第29話「仲間を信じて」


2時間のインターバルが過ぎ、午後の陽射しが青い人工芝を照らしていた。



Eブロック第2戦、長崎県 海風中学校との対戦。


「みんな、準備はええかー?」

照の声に、成磐中のメンバーが頷いた。


京都府の朱雀中戦とは違い、相手チームのアップを見ているだけで、その真摯な姿勢が伝わってくる。

みんなが大きな声をかけ、一人一人が集中してパス練習を繰り返している。


「あのチーム、雰囲気が良いな」

塁斗が呟いた。


「なんというか...すごく真面目な感じがしますね」

緋色も同感だった。


長崎海風中の選手たちからは、ホッケーに対する純粋な情熱が感じられた。


「よし、今度も頑張るぞー!絶対勝ぁぁぁつ!!」


照の掛け声で、成磐中のメンバーがピッチに入った。

相手チームの選手たちが、一人ずつ丁寧に挨拶をしてくる。


「よろしくお願いします」


「お互い、良い試合にしましょう」

その言葉に嘘はなく、本当に良い試合を望んでいることが分かった。




---




主審の笛が鳴り響き、試合開始。


長崎県の海風中は開始直後から、堅実なパス回しを見せてきた。

無理な攻撃はせず、確実にボールを繋いでいく。


「うわ、パスが正確だな」


蒼が感心した。

一人一人の基本技術が非常に高く、ミスがほとんどない。

緋色は相手の動きを観察しながら、青い光の感覚を研ぎ澄ませた。



すると—




(あの選手、左に回り込んでパスを出そうとしてる)


(今度は中央の選手が前に出たがってる)


相手選手たちの心が、手に取るように分かった。

朱雀中の時とは違い、長崎の選手たちは嘘や隠し事がとても少ない。

考えていることが、そのまま表情や動きに現れている。


「照先輩、左の選手が回り込んできそうです」

緋色の指示に、照が素早く対応した。



「塁斗先輩、中央からドリブルで次くるかもです」


塁斗も的確にポジションを変えて対応する。

海風中の選手たちは困惑していた。


「なんで全部読まれてるんだ...」


「なんで作戦がバレてる?」

でも、彼らは諦めなかった。


「大丈夫、やってきたことを信じて基本通りにやろう」


「みんなでカバーし合えば、必ず道は開ける」


長崎のキャプテンの声掛けで選手たちは、読まれてもなお堅実なプレーを続けた。



第1クォーター中盤


長崎海風中が見事な連携を見せた。

右サイドで3人のプレーヤーが三角形を作り絶妙な距離感を保ちながら、パスを繋いでいく。

緋色は相手の意図を読めていたが、それでも選択肢が多すぎて簡単には止められなかった。


「なんてチームワークだ」

塁斗が舌を巻いた。



「一人一人は読めてるのに、連携しだすと止めるのが難しい。みんなが周りのために走り出す」



海風中のシュートが、蒼のスーパーセーブで阻まれる。


「あぶねー!」



「ナイス、蒼!」


前半2クォーターに入っても、お互いに譲らない激しい攻防が続いた。


海風中は正統派の堅実なプレーで成磐中を苦しめ、成磐中は緋色の読みを活かして相手を封じ込める。

しかし、なかなか決定打が生まれない。




前半終了時、スコアは0-0だった。


---


ベンチに戻った成磐中の選手たち。


「緋色、読みがさえてるね!」

蒼が興奮気味に言った。


「相手の動き全部分かってるみたいだった」

緋色は頷いたが、照は違った。


「おい緋色ーーーーぅ。」

照が真剣な表情で口を開いた。


「お前、また頭の中だけで考えとるじゃろ?」


「えっ?」


「俺たちのこと信じてパス出せよ。自信もって!」

照は緋色の肩を叩いた。



「任せとけ、俺が決めてきちゃるけん!お前はもっと仲間を信頼していいんじゃで!」


緋色はハッとした。

そうだ。またあの光の感覚に頼りすぎていた。


相手を読むことばかりに集中して、光ばっかりを気にして仲間との連携を疎かにしていた。


「照先輩...」



「お前の読みは確かにすげぇ。めっちゃすげぇ。できるなら俺もやりてぇ。。。でもな!それを活かすのは俺たちとのチームプレーじゃ」


塁斗も頷いた。



「そうだ。みんなでホッケーしようぜ!それがチームってもんだろ」



緋色は深呼吸した。


(そうだ。僕一人の力じゃない)

(仲間を信じて、練習で身につけたことを使おう)



みち先生も微笑んでいた。


「緋色くん、あなたの能力は素晴らしいけれど、それを活かすのはチーム全体よ。みんながあなたのパスを待ってるわ。」



後半戦への新たな決意が、緋色の胸に宿った。



---



第3クォーター


緋色のプレーが変わった。


青い光の感覚が見えていても、まずは基本的な観察と判断に集中した。

全体の動きをみて、敵の動きや仲間との連携を確認する。


「塁斗先輩、そのままのポジションで大丈夫です。マークしっかり!」


「照先輩、僕がボールを持ったら、スペースに走りってほしいです!」



緋色のポジションが自然と中央になり、言葉に、プレーに、チーム全体のリズムを作り始めていた。

海風中も、成磐中の変化に戸惑っていた。



「あれ…?さっきまでと動きが全然違うぞ」



「でも油断するな。基本通りにいこう」



第3クォーター中盤


成磐中にチャンスが訪れた。


緋色が首を振り全体を見る。ボールを受ける前の一瞬。照と目が合った。

照が絶妙なタイミングで走り出した。



その時—


青い光がかすかに見えた。



緋色と照をつなぐきれいな青いラインーーー




でも今度は違う。

能力に頼るためじゃない。



照の「今だ」という気持ちが、青い光として見えたのだ。



緋色は迷わずパスを出した。

完璧なタイミング。



照が見事にゴールを決めた。




1-0。



「きたきたきたぁーーーーーー!!!!!」



照が緋色のもとに駆け寄ってきた。



「今のパス、完璧じゃったぞ!」



緋色は微笑んだ。

能力を使ったが、それは仲間を信頼した結果だった。

青い光は、照との絆を確認するために見えたのだ。



---



海風中は最後まで諦めなかった。



1点のビハインドを背負いながらも、5人全員が5人全員のためにカバーし、走り続ける。



第4クォーター終了間際



海風中に決定的なチャンスが訪れた。

しかし、緋色の絶妙なポジショニングと塁斗の完璧な2人での守備で阻まれる。




ホイッスルが鳴り響いた。


1-0で成磐中の勝利。



両チームの選手が握手を交わす中、街田コーチがみち先生のもとにやってきた。



「みちちゃん、本当に良いチームね」



「ゆのちゃんのチームもよ。最後までチームのために諦めない姿勢、素晴らしかった」


街田コーチが緋色を見つめた。


「8番の子、後半は見違えるようだったわ。仲間への信頼と持ってる技術、両方を使いこなしてる」



緋色は深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


---


Eブロックの結果は、成磐中が2勝でブロック1位、長崎の海風中が1勝1敗で2位。




両チームがトーナメント進出を決めた。


「よっしゃー!決勝トーナメント進出じゃ!」


照が拳を上げた。

緋色の表情は清々しかった。



今度は能力に頼りすぎることなく、チーム全体で勝ち取った勝利だった。




夕方、トーナメント1回戦の組み合わせが発表された。

成磐中の相手は、Dブロック2位通過のチーム。



そして—


Gブロック1位として勝ち上がってきたのは、シューティングレイヴ広島だった。


「ついに...」


緋色の胸が高鳴った。

中国大会で1-7という屈辱的敗戦を喫した相手。


この大会は1,2年生主体の大会だが、広島はチーム事情で堂島迅含む3年生が数人参加している。

全国レベルのエースが残っているチーム。



決勝トーナメント1回戦を勝てれば、準々決勝で対戦することになる。



「今度こそ!この前のリベンジじゃな…!!」


照が静かに呟いた。

緋色は青い空を見上げた。


仲間を信頼し、能力も適切に使える今の自分なら、きっと違う結果を出せるはず。

まずは夕方からの決勝トーナメント1回戦突破だ!




市長杯1日目の最後の戦いが、間もなく始まろうとしていた。

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