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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第3章
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第23話「北へ」

9月頭と中旬に選考会があり、岡山県11人制選抜の発表があった。


成磐中の部室で、椎名美智しいな みち先生が結果を読み上げる。


「まず、選出されたメンバーから発表します」


緋色は固唾を飲んで待った。

あの庭先でのお父さんとのパス交換以来、毎日基礎練習を続けてきた。

光る能力はまだ戻らないが、少しずつ上達している実感はあった。


「成磐中からは長瀬 誠、朝比奈 照、福士 蒼。青刃中からは…」



蒼の名前が呼ばれた時、緋色は複雑な気持ちになった。

同級生の蒼が選ばれて、自分が選ばれていない。

嬉しい気持ちと寂しい気持ちが入り混じる。



「そして、補欠メンバーとして...相原 緋色」



「補欠...」

緋色は小さく呟いた。


選ばれたといえば選ばれたが、実質的には落選と同じだった。


「緋色、良かったじゃないか」

誠が声をかけてくれる。


「補欠でも、チームの一員だ。練習にも参加できるし、サポートとして大切な役割がある」


「はい...」

緋色は複雑な表情で答えた。



「俺も最初は補欠じゃったけんなー」

照が続ける。


「でも、そこで腐らずに頑張ってきたけん今がある!けが人が出たら交代もあるし、緋色もきっと来年は正メンバーになれるけん」



放課後、緋色は一人でグラウンドを歩いていた。


(補欠か...)


悔しくないといえば嘘になる。

完全に切られたわけではない。


(蒼も選ばれたのに、僕は...)


その時、蒼が走って追いかけてきた。


「緋色、待ってよ」


「蒼...選出、おめでとう!」

緋色は精一杯の笑顔を作った。


「ありがとう。でも、僕だって不安だよ」

蒼が困ったような表情を見せる。


「緋色がいないと、成磐中から1年は僕だけだし心細いよ」


「大丈夫だよ。僕は応援とサポートで参加するから」


「そうなの?」


「うん。練習も参加はできるし他にもビデオ撮影とか、分析のお手伝いとか。チームの役に立てるよう頑張る」

緋色は自分に言い聞かせるように答えた。


「緋色...」


「来年は絶対に選ばれるから!一緒にプレーしよう」

緋色が手を差し出すと、蒼も握り返してくれた。




その夜、夕食の時間。

緋色は補欠になったことを家族に報告した。


「そうだったの...」

けいが心配そうな表情を見せる。


「でも、1年生で補欠に選ばれるなんて、すごいことよ」


「そうだな」

巧真も頷く。


「俺なんか、1年の時は補欠にも選ばれなかった」


「お父さんも?」


「ああ。だから、緋色の頑張りはちゃんと認められてるってことだ」

巧真の言葉に、緋色は少し救われた気持ちになった。


「でも...やっぱり悔しい」


「その気持ちが大切よ」

けいが優しく話しかける。



「悔しいって思うから、もっと頑張れる」




「そういえば」

けいが思い出したように言う。


「10月に北海道で親戚の結婚式があるのよ」


「北海道?」


「ええ。私のいとこの結婚式。もう何年も会ってないから、この機会に家族で行こうかと思って」

緋色は少し考えた。11人制の選手たちは合宿や練習で忙しいだろう。

補欠の自分にとっては、ちょうど良いタイミングかもしれない。


「いつ頃?」


「10月の中旬。土日を使って3泊4日くらいかな」


「11人制の練習はどうしよう?」


「せっかくだし、今回は家庭の用事で休ませてもらおう」

巧真が答える。


「それに、たまには気分転換も必要だ」

緋色は頷いた。確かに、最近は練習のことばかり考えていた。


「行ってみたい!」


「本当?」

けいが嬉しそうな表情を見せる。


「じゃあ、準備しましょう。北海道は寒いから、暖かい服も必要ね」





翌週から、11人制チームの練習が始まった。

緋色は予定通り、サポート役として参加している。

正規メンバー18人に加えて、補欠の4人が練習相手として参加する形だった。


でも、緋色にとってはそれも簡単ではなかった。


(やっぱり、基本のレベルがまだまだだ...)


光る能力がほとんど見えない状態で、県選抜レベルの選手たちと練習するのは厳しい。

時々、薄っすらと光が見えるような気がするが、それも一瞬で消えてしまう。

パスを出そうとしても、相手の動きが速すぎてまだ追いつけない。


(もう少し、もう少しなんだけど...)


でも、諦めずに食らいついていく。来年は絶対に正メンバーになるために。


「緋色、お疲れ」

練習後、誠が声をかけてくれた。


「ついていくのは大変だろうが、頑張りはみんな見てるからな」


「はい...まだまだですが」


「そんなことないよ」

蒼も汗を拭きながら歩いてくる。


「緋色のパス、時々すごく良いのが来るんだ。あの時の感じ」


「ほんとに?」


「うん。何かを掴みかけてるって感じがする」

蒼の言葉に、緋色は少し嬉しくなった。



まだ思うようにはいかないが、少しずつでも成長している。






出発の前日、緋色は部活終えみんなと話していた。


「緋色、北海道気をつけていってこいよー!」


照が声をかけてくる。


「はい。皆さんも練習、頑張ってください」


「土産話、楽しみにしてるから」


誠も笑顔で送り出してくれる。


「お疲れ様でした」


緋色は深く頭を下げた。




11人制の補欠という立場は悔しかったが、サポートを通じて学んだことも多かった。

チームワークの大切さ、仲間を支えることの意味。

そして、直接プレーできなくても、チームに貢献する方法があるということ。




その夜、緋色は久しぶりに練習以外のことを考えていた。

北海道。イメージは雪の降る大地。


けいの故郷でもある。



(お母さんの昔の話も聞けるといいな)


(それに、北海道に行けば何か変わるかもしれない)


最近、少しずつだが光る感覚が戻ってきているような気がしていた。


完全ではないが、時々薄っすらとした光が見えることがある。

緋色は荷物をまとめながら、旅行への期待を膨らませていた。


お父さんのスティックの動きや立体パス技術への憧れは、日に日に強くなっている。

毎日の基礎練習で、少しずつ技術は向上している実感はあるが、まだまだあのレベルには程遠い。


(北海道で、何か新しいヒントが見つかるかな)


緋色は期待に胸を膨らませて眠りについた。



---



翌朝、相原家の3人は北海道へ向かう飛行機に乗った。

窓から見える雲の上の景色を見ながら、緋色は新しい土地への期待を抱いていた。

補欠選出の悔しさも、まだ心の中に残っている。


でも、それ以上に、何か新しいことが始まる予感があった。

北海道の空の下で、緋色に何が待っているのか。



飛行機は静かに、白い雲の上を飛び続けていた。

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