エピローグ
あれから1ヶ月過ぎた。
王都の復興も順調で、暫定的な政権が樹立して、国も落ち着きを取り戻してきた。
当時の王都の民は酷く混乱していた。現時点での王家の王子や王女が、王族の血を引いていない事が公になり、ジーク王子が提案していた、大都市の独立した自治権を認めた共和制の案が採用され、アヴァロン連合国と名前を変える事になった。
それでも王都は経済の中心には違いなく、誰が治めるかで人悶着あったのだが、シオンの母親である正統な後継者であるセシリア王女が生きていたと発表があり、シオンの母親が王都を統治する事になった。
王家の血がほぼ絶えたと思っていた時の発表に、国中が喜びにわいた。
女性と言うことを差し引いてもセシリア王女は人気が高ったのだ。
アリシアの母親で国王のお手付きとなったマリアもセシリアに仕えるためにお城に復帰してメイド長としてセシリアに付いている。
セシリアの子供であるシオンとアリシアと言う、次世代の正統な子供も発表された事も国民をわかせた。
1番困っていたのはシオンの父親ルースであった。妻のセシリアから計画の一部は聞いていたが、自分が国王っぽい立場になるとは聞いていなかったからだ。
だが、ルースは異世界からの転生者であり、日本の知識があった。
異世界の知識で新しい調味料やこの世界にない農業方法など知っていたため、国の政策に大いに役立った。
チートスキルでSランク冒険者の肩書きもあり、セシリア女王の王配として反対の意見はほとんど出なかった。
何故ならルース自身もアヴァロン王国の伯爵家の次男として転生しており、家を出奔したとはいえ、貴族の血筋だったからだ。
「僕は家族とのんびり普通の暮らしができればそれでいいんだけど・・・」
そういうルースは魔物討伐など王配自らがSランク冒険者としての凄腕の実力で率先して行うため人気が出ていて、ルースの呟きは悲しく消えていくのであった。
そしてシオンも──
「ママからマナーは教わっていたけど、このヒラヒラドレスってなんとかならないの?」
早く冒険者として素材専門のハンターに戻りたいこの頃。
「まぁまぁ、いつもの姿もいいけど、ドレス姿のシオンも綺麗だよ」
レイも貴族としての正装をしていた。
「ありがとう。でもアイリスが1番変わったねぇ~」
アイリスも正装しており、シオンよりヒロインとして美しくなっていた。
(なんだって!?)
「こんな事をしているより実験したいんだけど~~」
「アイリス綺麗だよ~だから私の代わりお願いね♪」
そう言って逃げようとするシオンをレイが捕まえる。
「ダメだって!」
レイは必死に引き留めた。
何故なら、この後、レイはオオラン帝国の王子としてシオンと正式に婚約の発表を控えていたからだ。
「シオンは僕との婚約は嫌なの?」
捨てられた子犬のような表情にシオンはうっと精神的ダメージを受ける。
「そ、それは・・別に、嫌じゃ・・・」
ゴニョゴニョとシオンは真っ赤になりながら俯くのであった。
こうしてシオンは王女としてのお披露目をして、オオラン帝国も王子を次期王配として婚約させた事で、最低限のメンツを保つ事ができた。
そしてアベル、ジーク、ライラ達だが、ジークは辺境の街の市長としてそのまま仕事を続ける事を選んだ。元々、辺境では王子は関係なく、その街の運営力を買われていたので反論は起きなかった。
アベルとライラはエルフの国に追放扱いで行くことになった。
国を乱した責任のため処刑など叫ばれていたがセシリアが取りなしたのだ。
無論、エルフの国は秘密なので表向きは国外追放である。
アベルとライラは素直に従い、騎士の一部は戻れない事を条件に同行も許可された。
2人はセシリアと長く語りあった後、嘘のように素直に指示に従った。
ネクロス王国からもセシリアは飼われていたハーフエルフを秘密裏に脱出させてエルフの国に送った。エルフの純血種の一部は良い顔はしなかったが、女王のせいで人口が減っていたのもあり、英雄からの頼みと、かつて連れ去られて助けに行けなかった、行かなかった後ろめたさもあり受け入れる事に同意した。フレイヤは余り祖先を見捨てたエルフにいい感情は無かったが、恩人であるセシリアの頼みでハーフエルフのまとめ役を任され、エルフの国の復興に尽力している。罪滅ぼしもあるのだろうが、かなり性格が明るくなったと連絡がきた。
こうして大体の国が落ち着くまでに数年の歳月を要した。
「ねぇ、どこまでがママの計画だったの?」
「さぁ?どうでしょう?」
意味深で答えるセシリアにシオンは何も聞けなくなるのだった。
そして、今───
「そっち行ったよ!」
「任せて!罠は張ってあるから!」
「誘導するねー!」
シオン、アイリス、レイはストレス発散のために湖畔の森でハンターをしていた。
ズドン!と落とし穴に掛かるフォレストボアを仕留めて、解体していた。
「それにしても動物の解体で血まみれ姿のお姫様ってどうなの?」
アイリスの言葉にシオンは笑って答えた。
「別に良いじゃない。そんな変わったお姫様がいても。世界は広いんだし、パパが言うには城の壁を壊して脱走するお姫様もいるそうよ?」
いや、それはゲームの話で、実際はいないから。
「それに・・・そんな変わったお姫様でも良いって言う変わり者もいるしね」
赤くなって答えるシオンにレイも赤くなって俯いた。
「はいはい、ご馳走様」
すでに見慣れた光景なのかアイリスは淡々とした表情で答えた。
「ママもパパも若いし、まだまだ私達が後を継ぐのは先だよね」
「師匠も、少しは悪いと思っていたんじゃない?だから地盤が固まるまでは女王を務めて、各地の都市との代表との話をまとめるって頑張っていたしな」
「みんな元気かな~?」
エリーゼはエルフの国に戻り、コッソリとやり取りをしている。エリザは領地に戻って父親の手伝いをしているらしい。
「危ない!!!!」
「えっ?」
急に火炎球が襲ってきたかと思うと、シオンの頭上に飛んでいき、飛び掛かろうとしていた狼の魔物に当たった。
「おーーーほほほほっ!危ないところでしたわね!」
久しぶりの高笑いをしつつエリザがいた。
「エリザ!どうしてここに?」
「お城に行ったらストレス発散のためにこちらにいらっしゃると伺いましたの」
「誰だよ!そのまま話したの。ぶっちゃけ過ぎでしょ!」
「あなたのお母様ですが?」
「・・・・しゅん」
セシリアには誰も逆らえないのだ。
「それにしても久しぶりですわね。元気そうでなによりですわ」
エリザと握手をして再会を喜んだ。
「何しにきたの?」
「近況の報告ですわ。ようやく落ち着いてきましたし、私も結婚が決まったので♪」
!?
「うわぁ~おめでとう!相手は誰なの?」
「うちの依子の伯爵家の次男ですわ」
ふむふむ?
「シオンのお父様の実家ですわね」
!?
「なんですとーーーーーー!!!!!??」
「誠実で良い人だったわ。とにかく普通であればいいの。シスコンはもう嫌っ!」
それは同意するけれど・・・
「シオンのお父様は家を出ているので余り関係ないけど、戸籍上は従姉妹になりますわね。シオン叔母様」
ピキッ!
「な、なんですって!?」
怒るシオンにアイリスは感心したように頷いた。
「そうなるのか~年下なのにおばさんって老ける~w」
「ゴラッ!叔母さんね!それにウケるだから!!!!誰が老けるって!?」
シオンはアイリスのほっぺたを両手で伸ばしていじめた。
「ひたい!ひたい!」
苦笑いしていたエリザが思い出したように言った。
「シオンさんとレイの2人よりは式を上げる予定だから。今度、紹介状を送りますわ」
「うわぁ~楽しみだよ~」
年上のエリザは年下のシオン達より早く結婚したかった。
エリザは周囲を見渡しながら言った。
「全てはこの森でシオンさん出会ってから始まったんですわね」
「あ、そういえばそうだね。ずいぶん昔の事に思えるけど、まだ数年前なんだよね」
「本当に色々あったな~」
レイもアイリスもしみじみと思った。
「シオンさん、レイさん、アイリスさん、今更ですが私の命と国を救って頂きありがとうございました」
エリザは深く頭を下げた。
「やめてよ。それにまさかこんな結末になるなんて思っていなかったから」
「本当に。師匠はどこまで計算していたのやら」
全ての黒幕はセシリアだ。
でも、悪意があってここまでやったことではない。多くの血が流れたが、平和的に連合国に移行できたのは、これまでの事があったからだ。
「でもこれからの未来は私達が作っていくんだからね」
「また愚王が出ないように独立した機関を作るのも面白いかもしれないね」
レイの言葉にすっかり王族として政治を考えているんだなぁ~とアイリスは思った。
「そういえば今度、エリーゼさんも久々にこっちにくるそうですので賑やかになりますわよ」
「え、ほんと!」
「当分は騒がしくなるかもね」
森の中にシオン達の笑い声が響き渡るのであった。
【END】
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【あとがき】
最後までお読み頂きありがとうございました。
今回はエンディングが決まらなくて、最後はフラグ回収の説明回になってしまい申し訳ありませんでした。
いつもは、おおよそのあらすじを決めて書き始めるのですが、今回はシオンの母親であるセシリアが死んだはずの王女で生きていたと言うのが、最初から決まっていました。だから逆算してアベルやライラの年齢とシオンの年齢がきちんと合うように計算してありました。
ただ、思ったほどネクロス王国の絡みが出来なかったので、ハーフエルフの件を急遽入れる形になりました。本当ならフレイヤを激戦のうえで倒して、日常生活に戻るエンディングを考えていたのですが、セシリアの存在が強く成りすぎて、最後は作者が困った事になりました。
全ての人物にセシリアの存在が関与している感じになったので黒幕エンドと言う感じになりました。
取り敢えず完結できて良かった!
また次回作でお会いしましょう!




