作戦会議
それから数日経ち、地方や辺境からの軍が次々に到着した。
「随分と集まったね」
「物資は大丈夫なのかしら?
想像以上の軍勢に物資の心配をするアイリスだったが、グランフォード公爵が持ち込んだ物資は膨大だった。
交易都市として船で集めた物もあるが、1番はオオラン帝国が大敗して軍事物資を徴収できたのが大きかったらしい。オオラン帝国は半壊状態で敗走しており、とても近くに運んだ軍事物資を持ち帰ることができなかったのだ。
「なるほど。オオラン帝国の物資を徴収したからこれだけの軍でもしばらくは持つのか」
「でも国の治安を考えると短期決戦がいいよね」
そう、問題はこの後なのだ。
ネクロス王国の魔術師であるハーフエルフの居場所も不明だし、まだまだ油断できない状況だ。
丁度、昨日の夜にジーク王子が辺境騎士団を連れて到着した。辺境からだとかなり早かったと思う。エリザの父親も到着して、本日はようやく作戦会議というわけである。
ぶっちゃけ、バラバラな指揮系統の軍だ。各軍はバラバラで動くことになるだろう。
そして、大軍が動くと、メンツを気にするヤツも出てくる訳で・・・
「だから何度も言っておるだろう!我が騎馬隊が先陣を切って王都に攻め入ると!」
「ばかなことを言うな!敵の魔道具であるソウルアーマーは数百で万のオオラン帝国を壊滅させたのだぞ!騎馬隊では相手にならんと言っているだろう!」
「そもそも我々が集まったことで城門は閉じられました。物量戦術で東西南北から梯子を掛けて登るしかないでしょう。敵の戦力を分散させて城壁から登り、城門を開ける。戦術のセオリーです」
「だが話は戻るが、ソウルアーマーの部隊が出たら終わりだぞ。梯子を登っている時は無防備だ。こちらにも多くの犠牲がでる覚悟がいる」
ワイワイガヤガヤと議論のようで議論になっていない作戦会議が続いていた。
「では、こうしましょう。所詮我々は烏合の衆です。協力など不可能。ならば、3つの指揮系統で南、西、東の三つから各自攻めると言うのでいかがでしょう?北は湖があるため大人数では無理ですので」
「なるほど。各自が王城を目指すと言う訳だな?」
「どの部隊が1番乗りかは、各自の頑張り次第と言うことでいかがでしょうか?ただし、ソウルアーマーに対抗できるのは我々の近衛騎士団のみと言うことをお忘れなく」
ライラ王女の言葉に歯ぎしりする者もいたが、ジーク王子が上手いこと言った。
「そうだね。どこかが苦戦しているなら援軍の依頼をするとしよう。下手なプライドで仲間に多くの被害が出るのは得策ではないからね」
今後のために自前の兵力は残しておきたいと思っているのだ。
「・・・確かにそうですな。逆にライラ王女の軍は一騎当千と言っても数が少ない。逆に王城攻略で兵の数が足りなければお貸ししましょう」
「あら?ではその時はお願い致しますわ」
うふふふとと、なんとか会議は終わり、各自が持ち場へと準備へ掛かった。
「はぁ、シオンについて行けば良かった」
「息が詰まるね」
「でも、これでようやく総攻撃に移れますわ」
グランフォード公爵と一緒に作戦会議に参加して意見を言っていたエリザは疲れた様子ではあったが、気持ちを切り替えて向かった。
一方、王都に入ったシオン達は、その惨状に唖然としていた。
逃げ出している住民が多いのは知っていたが、治安がここまで悪くなっているとは思っていなかったのだ。
街中では当たり前のように暴動が起こり、略奪も起きていた。街の治安を守る兵士や騎士達も無視している状態だった。
「これは酷いね。ムシャムシャ」
「本当に、これがこの国の王都だなんて信じられませんわ。もぐもぐ」
シオンとエリーゼは魔法のバックに入れたパンを取り出して食べていた。
今の王都で商売をしている店がなく、配給制になっていたのだが、街の全員分は用意がなかった。それで略奪など起きているのである。この2人には食糧難は皆無であった。収納バックには数ヶ月分の食料が入れてあったからだ。そしてシオンは合理主義であり、無条件に食料を分けてやるほどのお人よしでもなかった。
「早く総攻撃の連絡ないのかな?こっちはもう棺桶の場所も特定して準備万端なのに」
「人が多く集まれば、決定に時間が掛かりますからね。しかも指揮系統が3つもあれば尚更です」
「でも、早く決着をつけないと王都の住民が滅んじゃうよ。騎士達が安心しているのはソウルアーマーが数百でオオラン帝国を打ち破ったという情報があるからだけど、食料が尽きればもっと悲惨なことになるよ」
「もしかしたら騎士達には備蓄があるのかも知れませんね。少なくとも数ヶ月は戦える食料と武器類が。それか援軍を待っているのでしょうか?」
「騙されるかも知れない。ネクロス王国はハーフエルフの魔導士フレイヤが個人で動いているけど、国としては動いていない。でも王国側にはそれを知る術がないんだわ」
!?
「では、ネクロス王国から援軍が来るのでそれまで持ち堪えろと言われていると?」
「憶測だけどね。このまま援軍が来なくて嘔吐が落とされてもいいと思っているかも知れないし、取り敢えず後方にも注意をするよう伝えてくれない?」
シオンはそばにいた妖精にお願いするのだった。




