時間稼ぎ
オオラン帝国の軍は半日ほどで撤退していった。
特に後から合流した精鋭部隊と思われる1万5千の援軍をソウルアーマー部隊が真っ先に狙ったのが大きかったのだろう。
援軍を率いた王族をソウルアーマー部隊が殺したことで、他の部隊も武器を投げ捨てて逃げ出し、大崩となった。そしてソウルアーマーの部隊は執拗にオオラン帝国の敗走兵達を追い掛けて、兵士達を屠っていった。
「勝敗は着いたのに追っていったね」
「そうだな。オオラン帝国の戦力を削るつもりなのか、恐怖を与えて2度と攻めてこない様にするためか」
まぁ、どっち気もするけどね。
しかも疲れ知らずなのが厄介だよ。
そんな時、エリザの父親に呼び出された。
会議室に入るとすぐに本題に入った。
「ソウルアーマー達の追撃が国境の手前で止まった。恐らくそこが活動できる3キロギリギリの距離であると予想される」
机に大きな地図を広げながら説明された。
「こちらの方面から進軍してきたので、距離的にこの周辺だろう」
予想ポイントに丸を付けて教えてくれた。
「そして、このポイント周辺ならここしか隠れる場所がない!」
丸の中に小さな森があった。
「ソウルアーマーの行動できる距離に多少の誤差があったとしても、多くの兵士と兵站を隠れて運べるとしたらこの森しかないだろう」
生身の人間には食料が必要だしね。
「オオラン帝国の進軍から参戦に3日近く掛かったのはここに兵站を運ぶのに時間が掛かったからと言うことですね」
「恐らく近くまで来てはきたのだろうが、斥候を放って良い場所を探していたのだろう」
地元でなければ、地図だけでは分からないものだから。
「ではさっそくそこに向かいます」
「いや、まだ明るい。日が落ちてから動いて、ソウルアーマーがここを攻めている時に本体を叩いて欲しい」
「なるほど。確かに今行っても戻っているソウルアーマーに反撃されるか………」
早る気を抑えて対策を話し合った。
偵察を出してオオラン帝国の動向を見張りながら一夜明けた。
オオラン帝国は僅か半日の戦闘で3万以上いた兵力の3千を失った。
しかし兵力を一割ほど失ったよりも、ソウルアーマー部隊は指揮官と大将である王族を集中的に狙っていたため、軍を指揮できる者が少なくなり、指揮系統に混乱も生じることとなった。
そして、僅か数百のソウルアーマーの圧倒的な強さに脱走兵も現れ生き残った王族も逃げ出す始末。
こうしてオオラン帝国は完全に撤退をする事になった。
現皇帝の思惑通り、貴族の権力と資産、兵力は全て低下する事になった。
早朝にソウルアーマー部隊が今度はスランを目指して進軍してくると見張りから報告があった。
「シオン気を付けてね。絶対に無理しちゃダメだからね!」
アイリスが心配そうにシオンを見送った。
作戦はシンプルだった。
シオンだけ外に出て戦う。
城壁の側で戦うことで城壁の上から魔法や兵器で援護する。
ソウルアーマーの動きについて来れるのはAランクハンターのシオンと騎士団長のフォークぐらいしかいなかった。
しかし指揮官のフォークを使う事に許可がでず、危険が大きいためシオン以外に出れるものがいなかった。
ガチャガチャと大きな音を立てながらソウルアーマーの部隊が城門のすぐ近くまでやってきた。
「………籠城すると思っていたが、小娘が1人とは?」
!?
シオンは喋れることに驚いた。
魂を憑依させて動く魔導具の鎧。発声できるとは思っていなかったのだ。
「喋れるのね」
?
先頭にいたソウルアーマーの人物が首を傾げた。
まぁ、鎧の中身が空っぽって知っているとは、向こうは知らないからね。
シオンは大きな息を吸った。
「私はAランク冒険者シオン!故あってスランに協力している者の1人!私を倒せるなら倒してみよ!」
少しの間、沈黙の時間が過ぎた。
そして───
「「わはははっ!!!!!」」
敵の部隊は大笑いした。
「こんな小娘がAランクだと?」
「なんだ?生け贄の間違いじゃないのか?」
「1人で何ができると言うのだ?」
「この鎧じゃなかったら楽しめたのにな!」
まぁ、確かに仰る通り何だけどね。
でも少しムカッとしたかな。
だから───
『一閃』
シオンは目の前の1人を鎧ごと真っ二つにした。
再度、シーンと沈黙が流れた。
「もう一度言ってあげる。私を倒せるものなら倒してみなさい!」
こうして戦闘の火蓋が切って落とされた。




