戦争
シオン達はのんびりと船旅を満喫していると、ようやくスランが見えてきた。
「スランに付いて少し話しておきますね。交易都市スランは陸からはオオラン帝国と、港からはネクロス王国と貿易をして、莫大な利益を上げています。まぁ、王国の税金もかなり高くて取られていますが、軒並み大都市と言えるでしょう」
あれれ?
いきなりエリザ先生の講座が始まりましたよ?
「首都はスランの顔と言えるこの港町であり、都市の人口は約20万。南には国境の城壁があります。近隣でこの街で手に入らないものはないと自負していますわ」
ふむふむ。
「国境に隣接しているので、元々から私設の騎士団を持つ事を許されており、施設騎士団の練度も王都の騎士団に負けておりませんわ」
ほうほう?
「さらには───シオンさん!聞いていますの!?」
ぐうぐう………はっ!?
「はい!聞いています!先生!」
「はぁ~シオンさんには、着いてからみっちりと教えて差し上げますわ!覚悟なさって?」
ひえぇぇぇぇぇ~~~
涙目のシオンをよそに船は港へと入港した。
港には多くの『人』で溢れかえっていた。
「おかしいですわ。こんなに人がいるなんて・・・」
「そうだよね。みんな、船に乗りたそうな感じで待っている風に見える」
大きな荷物を持った人々が多く港に押しかけていた。
「ねぇ、なんか嫌な予感がするんだけど?」
「奇遇だね。僕も嫌な予感がするんだけど・・・」
シオンとレイは口にしたくない言葉を飲み込んでいたが、アイリスがのほほーんと言ってしまった。
「なんかすでに戦争で負けて逃げ出そうとしているみたいね」
ノーーーーーーーー!!!!!!!
それ言わないでよ!!!!!!
しかしシオンの心の叫びも虚しく、エリザも現実を見据えて覚悟した。
「その通りですわ。でも、この短期間で何があったのか確認せねばなりません。それにこれだけの民がいるんですもの。まだ負けたと決まったわけではありませんわ」
拳を強く握りながら言い放った。
「まずはエリザのお父さんの安否を確認しよう。エリザとシオンはグーちゃんに乗って先に領主の館へ向かって欲しい。僕たちはこの人混みをかき分けながら向かうから、少し時間がかかる」
「わかりましたわ。私の家はここから見える、あの青色の塔がある場所です。お願いします」
シオンはグリフォンのグーちゃんに乗るとエリザと一緒に領主の屋敷に向かった。
空を飛ぶとすぐに辿り着くことができた。中庭に降り立つと、すぐに騎士団に囲まれ槍を突きつけられた。
「お待ちなさい!私です。エリザ・グランフォードですわ!ただいま帰りました!」
ザワっとなり、騎士の1人が前に出てきて膝をついた。
「間違いない!エリザ様、ご帰還をお待ちしておりました!」
「あなたも無事で良かったですわ。シオンさん、こちらはうちのグラン騎士団の団長でフォーク様ですわ。歴戦の騎士であり、父の信頼も厚いお方です」
「エリザ様、こちらは?」
フォークはエリザに相応しい仲間なのか確認したいようだった。
「フォーク様、こちらは私の命の恩人であり、Aランク冒険者のシオンさんです。このグリフォンもシオンさんがテイムしているので信用できますわ」
「なんと!グリフォンをテイムとは!?シオン殿、申し訳ありませんでした。緊急時ゆえ、信用できるものか確認しなければならなかったのです」
「いえ当然ですから。後から私の仲間が来ますので、その時は門を開けてもらえれば・・」
「かしこまりました。門番に伝えておきましょう」
話が一区切り付いてから、エリザは今の状況を尋ねた。
「私達は船で着いたので状況がわかっておりません。何があったのですか?」
「・・・・詳しくは屋敷にいる公爵様からお聞きになった方がよろしいでしょう。ただ簡潔にお伝えしますと、戦争が始まりました」
!?
「私が王宮から脱出して数ヶ月も経っていませんよ!何があったというのですか!?」
「オオラン帝国からライラ王女殿下に会いに、第4皇子が来日されたのですが・・・」
「ああ、王女様の結婚相手ね。王女様はオオラン帝国の軍事力を借りて王太子殿下から実権を奪うつもりだったと聞いたわ」
フォークは頷くと続けた。
「そこまでご存知でしたか。今回は顔見せとのことでしたが、内乱の兆しがあると、護衛の目的で兵力を5千人を連れてこられたのです」
!?
ちょと、ちょっと、多過ぎじゃ無い!
5千もの兵力があればそのまま王都や王宮を占拠できちゃうよ!?
「そんな兵力をそのまま国境を通したのですか?」
「迎えに来たライラ殿下の使者が許可したんです。本国の許可がありましたので、我々は警戒を強めて素通りさせました」
マジかー、それで王都でドンぱちやっている状態???
「それで戦場は王都で?」
「そ、それが、オオラン帝国の者はそのまま王都を占拠するつもりだったようですが、王太子の新しい近衛騎士団がわずか5百でそれを撃退し、第四皇子を殺害してオオラン帝国に宣戦布告をしたのです。それに伴って、ここスランも反乱の兆しがあると、同じく宣戦布告を受けたところなのです」
5千の軍を十分の一の数で撃退!?
シオンは嫌な汗が流れるのを感じた。




