交渉上手
エルフからの魔法のバックと聞いてカーマは首を傾げた。
「見てください」
シオンが小さなバックに手を入れると、明らかに入りきらない大きさの、魔物の牙を取り出した。
「な、なんですかこれは!?」
カーマは驚愕して大きな声を上げた。
「これはエルフからもらった魔法のバックで、名称はマジックバックと言うらしいですが、残念ながらこれは差し上げることができません。このバックに入っているメダルと釣り合う物を差し上げようと思いまして」
人の等身大の大きさのある牙を見て恐る恐る触った。
「こ、これはなんの魔物の牙なのでしょうか?」
これだけ大きい物だと限られているが聞かずにはいられなかった。
「これはドラゴンの牙ですわ。最近、アヴァロン王国で討伐したので、その戦利品ですわね。どうぞお納め下さい」
えっ?
ドラゴンの牙をタダでくれるの????
金貨千枚ぐらいの価値があるんだけど???
驚きを通り過ぎて固まってしまったカーマにエリザは続けた。
「これから困ったことがあったらお願いすることもあるかもしれませんので、友好の証だと思って頂いてください。私達もこのメダルには助けられましたので」
「わ、わかりました。ひとまず預からせて頂きます。ただ価値が大きすぎて会長の判断が必要です。できれば連絡先を伺ってもよろしいでしょうか?」
エリザは貴族街の宿に泊まっている事と、そんなに長く滞在しない事を伝えた。
「では、数日王都に滞在して、また西南の港街に戻られるのですね?海神様に出会すとはついてなかったですね。その情報を会長に教えて頂き重ね重ねありがとうございます」
「いいえ、アーロン会長の人徳のおかげですわ。私達は交易都市スランに向かうところでしたので」
「スランで何か商いを?現在スランは傭兵を雇い、オオラン帝国やアヴァロン王国と緊張が走っている危険な噂がありますが?」
現在、武具や食料品が高く売れるが危険も伴う地域だが?
カーマは親切心で情報を伝えたが・・・
「いえ、里帰りですの」
エリザは家紋の入った指輪を見せた。
!?
カーマはその家紋をよく知っていた。
海向こうのスランでよく取引をしている大貴族の家紋だったからだ。
エリザは指を唇に当てて黙っていてね?の仕草をした。
「会長が戻られたら、アーロン会長のみお伝えください」
カーマはその言葉の意味を理解して、コクコクッと頷くのだった。
一通りの聞きたい事が聞けたので、シオンとエリザは店を後にした。
その誰もいなくなった個室でカーマは少しの間、呆然としていたが、我に返ると大声で叫んだ。
「おい!誰かいるか!?急いでアーロン会長に戻ってくるよう『赤紙』を持たせて早馬を飛ばすんだ!」
赤紙とはアーロン商会で緊急事態を知らせる緊急の連絡用の手紙のことだ。
「すぐに手紙を書く。会長に戻って来るよう伝えて欲しいんだ!」
「しかし、会長が旅立れて日数が経過しております。すでに船に乗って交易都市に向かっているのでは?」
「いや、海に海竜様がでたようで港町で立ち往生しているはずだ!まだ間に合う!万が一の場合は海向こうまで行って赤紙を届けて欲しい!」
赤紙の緊急性は他のスタッフも理解している。
「緊急の手紙だ。店で雇っている護衛も連れて行け!絶対に会長に渡すんだ!」
カーマ責任者のただごとならぬ気迫に他のスタッフにも事態の深刻さが伝わった。
急いで手紙を書くと、その間に手配した馬と護衛達がやってきた。
「緊急の案件だ。金貨10枚渡しておく、自由に使っていい。護衛の皆さんにも金貨3枚ずつ渡しておきます」
護衛の五人はアーロン商会に個人的に雇われている冒険者だった。
「それだけの緊急事態ってのか?」
「はい、応接室に来てください」
護衛と、スタッフに1人が部屋に入ると全員が驚きの声を上げた。
「おい!これはなんだよ!?」
「こんな大きな魔物の牙なんて限られて来るわよね?」
カーマは言った。
「ドラゴンの牙だそうです。鑑定もしましたので間違いありません」
カーマのメガネは魔道具で鑑定魔法が使えるのだ。
すでに本物だと調べはついている。
「それでドラゴンの牙をいくらで購入したんだ?軽く金貨千枚はするだろう?」
「それがタダで置いてったんですよ。会長から信頼の証のメダルをもらったからって」
!?
「いや、あのプラチナのメダルは知っているが、流石にそれとドラゴンの牙なんて釣り合いが取れてないだろう?」
「そうなんですよ。なので会長の指示を仰ぎたいんです!」
ここにドラゴンの牙があるなんて知られたら強盗に入られるから!?もしくは王侯貴族から接収される可能性もある。
「これは秘密でお願いしますよ!」
「わかっているって、俺たちも会長に救われた身だ。契約を反故にするようなマネはしねぇさ」
理由がわかり、護衛と商会の若いスタッフは馬に乗って港町へ向かうのだった。




