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帰宅

もう夕暮れどきで辺りは赤く染まってきていた。


「モリスさん、怪我人などはいるの?」


上役のモリスにシオンは尋ねた。


「少し抵抗して軽い怪我をした奴らなら何人かいるが重傷者はいない」

「そう。よかった。取り合えずここにいてもどうにもならないわ。今日はみんなに家に戻ってもらって、明日の朝、これからどうするか相談しましょう」

「ああ、そうだな。みんなに言っておくよ」


シオンは思い出したかの様に馬車に戻り、取ってきたフォレストウルフの肉を渡した。


「みんなの分は流石にないけど、小さく切って串焼きにすれば多くの人の晩御飯ぐらいにはなると思うから、料理できる人に炊き出しお願いして」


「すまない。感謝するよ。明日からどうして暮らしていけばいいのかわからなくて、途方に暮れているヤツらが多いからな。腹が膨れれば少しは落ち着くだろう」


シオンの取ってきたフォレストウルフは成人男性ぐらいの大きさがあり、5匹分ともなれば串焼きぐらいの大きさならで100人分ぐらいにはなる。シオン達は後を任せて自宅へと戻った。


シオンの自宅は倉庫とは逆の町外れにあった。町は城壁に囲まれているので、北と南の大門からしか入る事ができない作りだ。


「ここが私の家だよ~」


シオンの自宅は貴族の屋敷の様な家だった。塀があり入口も門構えになっていた。


「なかなか良い屋敷ですわね。それなりの資産家なんですのね」


「まぁ、両親が有名な冒険者だからね。私達も稼いでいるから」


レイは周囲を見て安堵した。


「うちは騎士団に乗り込まれてなさそうだね。流石に騎士達も街全体は略奪しなかったようだ」


「そうだね。聞いた話じゃ100人も居なかったって。そんなに大人数は動員出来なかったようだよ」


「なるほど。街全体を略奪しなかったのではなく、出来なかったということですわね」


鍵を開けて門を開けると、屋敷からメイドさんが出てきた。


「シオン様、レイ様、ご無事でしたか!」


「うん!私達は大丈夫。マリアさんも大丈夫だった?」


「はい。町が襲われた時、私も町の外の畑に出ていまして無事でした。ただ………」


メイドのマリアさんは深いため息を付いた。


「どうしたの?」

「娘のアイリスが………」


!?


「アイリスに何かあったの!?」


アイリスは私達の幼馴染みだ。メイドのマリアさんの娘で17才。一緒に暮らしていて姉妹の様な仲なんだ♪


「いえ、研究に没頭していて、私が戻るまで町の様子にも気付いていなかったので、少しお灸を添えました」


ああ………

アイリスは研究者だ。薬草などの効力を上げる研究をしており、アイリスの作るポーションは市販の物より50%以上効果が高い。

研究に没頭すると食事や睡眠を忘れて何日も研究を続けるのでいつも怒られている。


マリアさんからしたら娘さんの身体が心配だしね。


「マリアさん、しばらく家に居候するお客様で、エリザさん。食事の用意と部屋の用意お願いしてもいい?」

「かしこまりました。すぐに用意致します。……あら?どこかで──!?」


マリアさんはエリザを見て首を傾げた。


「マリアさん、彼女はエリザ・グランフォード公爵令嬢だ。貴族の方なので対応は少し注意して欲しい」


レイの言葉にマリアは驚いた。


「まさか……だから……いえ、失礼致しました。しかし、どうしてエリザ様がここに?」


「湖畔の森で狩りをしていると、エリザさんが暗殺されそうになっていたのを助けた???感じ?いや、拾った感じ?かな?」


シオンは自分で話していて助けたっけ?と首を傾げた。


「王太子殿下の婚約者が暗殺!?」


驚くマリアにエリザはやんわりと言った。


「いえ、少し前に婚約破棄されましたので、ただの公爵令嬢に過ぎません。しばらくは実家に連絡を入れて、ここで身を隠そうと思います」


「そうでしたか。お辛かったでしょうに。他の使用人にも言っておきますね」


これだけ大きな屋敷だ。メイドや執事、料理人など他にも使用人がいるのだ。


「あっ、マリアさん、うちの家の倉庫にある食料を少し放出して町の人に配って。強奪された町の人に炊き出しするの」


「まぁ!それは良い考えです。すぐに手配致します」


マリアは音を立てずに走っていった。


「なかなか有能なメイドですわね」

「でしょう?マリアさんには頭が上がらないよ。ママや私は掃除や洗濯できないから」


シオンはエリザを食堂へ案内した。






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