王太子と協力者☆
【お知らせ】
お盆は忙しく執筆が余り出来なかった為に、ストックが少なくなったので、また1週間ほど書き溜めますので、次回更新は1週間後を予定しています。
よろしくお願い致します。
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王都の王城にて、この国の実質支配者である第一王子にして王太子であるアベル・アヴァロンは珍しく機嫌が良かった。
「ずいぶんと遠回りをしたが、ようやくお目当ての遺跡を発見したのだな?」
「ええ、大変お待たせ致しましたわ」
目の前には魔術師っぽい格好をした女性が臣下の礼を取りながら報告していた。この女性こそ、隣国ネクロス王国から遣わされた使節団のリーダーであり、アベル王子を唆した人物である。
とはいえ、アベル王子も頭の悪いバカではなく、お互いに利用している関係である。
「ただ問題がありまして───」
女は勿体ぶるように言った。
「報告は受けている。王家の血筋でなければ解除できない結界があるとな」
「そうなのです!故に、とても恐縮なのですが、アベル様にご同行をお願いしたく」
アベルは少し考える素振りをして答えた。
「別に行くのは構わないのだが、その結界は何に反応するのだ?」
「それは【血】でございます。遺跡の入口には血を入れる台座がございました。血と言っても数滴程度で構わないので危険はございません」
「そう言って後ろからバッサリ殺るつもりではないのか?」
皮肉を込めて言うと女は、ニッコリ笑って切り返した。
「あら、そんな事は致しませんわ?だってそうなった場合、今より面倒な事になりますもの」
隣国の使節団の者が王子を殺せば戦争になる。
しかも大義名分はアヴァロン王国にあるため、
兵士の士気は下がり泥沼の混乱に陥るだろう。その場合、南の大国が介入してくる可能性があり、三国を含めた大戦争になる。
それはネクロス王国としてはもっとも避けたい事態である。
この女はそれをわきまえているので、王太子を殺す暴挙に出ないのだ。
無論、状況が変われば殺すと言っているようなものではあるのだが、その意志を隠そうともしないこの女の性格をアベルは気に入っていた。
「フッ、そうだったな。ならこれを持っていけ」
アベルは女に小さな小瓶に入って血液を【3つ】渡した。
「おや、すでに血の採血は済んでおられたのですね」
「ライラの愚妹が反旗を翻して、今ここを動けないのだ。だからそれを持っていけ。それとその3つの血液のうち、どれがが反応したのか教えろ」
小瓶には『A』『B』『C』の記号書かれていた。
「これは1つがアベル様の物として残り2つは?」
「それをお前が知る必要はない」
どうやら教える気はなさそうだ。
「私の手の者も同行させる。この件での嘘の報告は許さん」
珍しく念を押された。
「はいはい、かしこまりましたわ。遺跡にさえ入れれば私としては問題ありませんので」
「それで、アレの調整はどうなっている?」
「ふふっ順調ですわ。近日中に起動して動かして見せましょう」
「そうか。それは楽しみだな。期待しているぞフレイヤよ」
「ええ、ネクロス王国筆頭魔術師であるこのフレイヤにお任せ下さい」
フレイヤと名乗った女は礼をすると謁見の間を後にした。誰もいない通路をカツカツと歩いていると、頭の中に声が聞こえてきた。
『クククッなかなか面白い話し合いじゃったな?』
フレイヤも声を出さずに頭の中で会話した。
『モリガン?珍しいわね。貴方、召喚に呼ばれているって言って、エルフの国を滅ぼしてくるって言ってなかった?』
『そのつもりじゃったのだがのぅ。エルフの女王は死に、民も三分一ほどは死んだのじゃが、最後に邪魔が入って失敗したのよ』
『成果としては十分だけれど、貴方が失敗したなんて信じられないわね。魔界の魔族でも、貴族階級の貴女が』
『なかなか面白い冒険者であったわ』
『知られていないエルフの国に冒険者が?』
『うむ、妖精が助けを呼びに行ったようじゃな。おかげで中途半端な感じになってしまったわい』
『でもこれでエルフ達がアヴァロン王国を助ける事は無くなったわけね?』
『まぁ、数人程度の協力者はいるじゃろうが戦力としてはないじゃろう』
フレイヤは少し考えてから話した。
『ねぇ、その冒険者のリーダーって緑色の珍しい剣を持っていなかった?』
???
『おお、そうじゃ。剣もさることながら、ドラゴンを一撃で一刀両断する強者じゃった』
『ドラゴンを一撃ですって!?』
流石にフレイヤも驚いた。
『確かシオンと言う名前じゃった』
『………間違いない。先日、鉱山で見つかった魔界の門を再度封じた者だわ』
!?
『なんと!偶然に見つかった魔界の門が、完全に開くのを楽しみにしておったのじゃが、我が配下の上級魔族を倒したのか………』
『少し調査が必要だわ。すでに我々の計画の邪魔になってきているしね』
フレイヤは部屋に戻ると結界を張り誰も入ってこれなくしてから使い魔を召喚した。
「鉱山の街にいるシオンと言う緑色の剣を持つ冒険者を調べなさい」
モリガンから教えられた似顔絵を渡すと、使い魔達は、蝙蝠になったり、カラスになったりと姿を変えてテラスから飛び立った。
「それでモリガン、貴女はどうするの?」
『しばらくは様子見じゃな。何か面白い物が見つかれば手を貸すとしよう』
そういって声が聞こえなくなった。
「相変わらず扱い辛い魔族ね。でも、気が向いた時でも手を貸して貰えるのは助かるわ」
モリガンほどの強力な魔族を自由制御はできないが、協力関係を作れればかなりの戦力になる。
フレイヤは少し外を見つめると、遺跡に潜る準備を始めるのだった。




