横取り
シオンはガープの腕を二本切り落とした。
「グォォォォォォオオオオ!!!!!!!」
流石の痛みに咆哮を上げる。
「貴様!よくも!?」
反対の残った腕でさらに火球を繰り出す。
しかしシオンはすでに見切っており、今度は難なく避けた。
「先ほどの変な避け方は我を油断させる罠だったか!こしゃくな!?」
いえ、本当に真面目に避けてましたが?
ガープは意識を集中すると、切られた腕を再生した。
「げっ、再生した!?」
「もう油断はせぬ!今度こそ喰らうがよい!」
今度は炎を蛇の形にして放った。各腕から放つそれは4体の炎の蛇だ。
その炎の蛇はシオンが避けても執拗に追尾してきた。
「うわぁ~ん!た~す~け~て~~!!!」
泣きべそをかきながら必死に逃げるシオンをガープは油断せず、集中してシオンを捕らえようする。
どうしても傍目からみるとシオンは遊んでいるように見えてしまうので不思議である。
レイやアイリス、エリーゼも炎の蛇を防いだりシオンをフォローしたりと邪魔をしていたが限界でもあった。
「クソッ!僕にはヤツの魔法を完全に防ぐ手立てがない!」
「レイ、私がガープの魔法を防ぐわ!でも、ほんの僅かな時間が限界よ!」
エリーゼは弓をしまうと防御呪文の詠唱に入った。
「いや、少しの時間があればシオンが技の溜めに集中できる!」
シオンもエリーゼが詠唱に入ったのを確認して、なんとか隙を伺った。レイがシオンの隣に合流し、炎の蛇を薙ぎ払う。
「クッ、防ぐのがやっとだ」
「それで十分だよ。流石に私も4体の炎の蛇を捌くのが難しかったから助かったわ」
お互いに背中をくっつけながら早口に状況説明を行った。
「私の奥義を使いたいけど精神統一する時間がないの」
「OK!その時間をエリーゼが作るから2人のフォローをアイリスと僕が受け持つよ」
短い言葉でバッと左右に離れると炎の蛇を分断した。
アイリスがシオンを追っていた炎の蛇を兵器で消し去った。
「これぞ液体窒素バスーカー!」
アイリスはドヤ顔でシオンにグっと指を立てた。
そして間髪たたずにエリーゼの防御呪文がガープの前に現れ全ての炎の蛇をかき消した。
よし!これで!と思った時だった。
予想外なことが起きた。
今まで沈黙していた近衛騎士が行動を移していたのだ。
騎士の中に神官が居たらしく、神聖魔法を放ちガープに命中した。
「グガッ!?まさか神官が居たのか!?」
魔族に絶大な効果を放つ神聖魔法をまともに受けて、当たった場所が焼けた様な感じになっていた。
「所詮は魔族など頭の悪い獣に過ぎん。前衛抜刀!突撃陣、行けっ!」
王女の直属の近衛騎士は強かった。シオンと同等のスピードで走るとガープに切り込んだ。
ザシュッと近衛の剣はガープを切り裂いた。
「嘘だろ!?シオンの剣以外でどうして切れるんだ!?」
レイは驚愕したがエリーゼが冷静に分析した。
「剣に聖水を掛けてあるんだわ。なるほど考えたわね」
しかし武器だけではなかった。
見ればわかる。クズ領主に追従していた不良騎士と明らかに数段レベルが違っているのだ。
見ればあっという間にガープは傷だらけになっていた。聖水の掛けられた武器の傷はすぐには再生しないようだ。
そこに騎士団長と呼ばれたスネークが前にでた。
「冒険者の諸君ご苦労だった。トドメは任せてもらおう」
ガープは傷ついていたが目は死んでいない。
1人前にでてきたスネークに狙いをつけると大きな火炎球を作り出しスネークへと放った。
それは一瞬の出来事だった。スネークは火球をすり抜けると剣を一閃した。奇しくもシオンの奥義に似ている動作だった。
一瞬でガープの後ろに移動して剣を鞘に納める。
カチャン。
それと同時にガープが縦に真っ二つに切り裂かれた。
「よし、邪魔な魔族はいなくなった!神官達よ魔界の門を封じるのだ!」
門の前で詠唱を始める神官達。
近衛は門から新しい魔族が出て来ないか神官の護衛に回る。
スネークはシオン達に近づくと言った。
「なかなか面白い戦いだった。お前達があのバカな魔族の注意を引いてくれたおかげで、神官の長い詠唱の魔法を完成させることができた。王女殿下に活躍の話はしてやろう」
「なぜ、それだけ強いのにあの実力の劣る不良騎士達を向かわせたの?」
「当然だ。我々は民の盾であり剣だ。それを貶めた騎士は粛清せねばならん。我が主人であるライラ王女殿下の評判が下がった責任をとってもらわないとな」
正論を言っているが、スネークの目を見て本心ではないことはわかった。
シオンはまだ言いたいことがあったがレイに肩を掴まれ言葉を飲み込んだ。
「露払いには使えるかと思ったが、あの上級魔族が我々を誘き出すために魔物を避けるようにしていた様だな。道中の襲撃が少な過ぎた」
やっぱり気づいていたのか。
「まぁ生き残った奴はこれで真面目になるだろう。我々との実力の差を知り逆らう事もしなくなるだろうからな」
不敵に笑うスネークをシオンは不気味に思うのだった。




