思惑
カミーユが詳しい話をしながら、シオン達を紹介するために呼んだ。
「エリザはローブで顔を隠しておいてね?」
「ええ、私は死んだ事になっておりますので」
流石に目の届く範囲にいるため、今からエリザを離れされる訳にはいかなかったのだ。
王女様の前にやって来ると、膝を付いて頭を下げた。
「お初にお目に掛かります。Aランク冒険者のシオンと言います。このパーティのリーダーを務めさせて頂いています」
「あ?貴族の作法をご存知で?」
「はい、少しではありますが」
いつものシオンには見えない素晴らしい対応だった。
「カミーユさんから聞きました。従業員を危険に晒さないために、全員で作業をボイコットさせて、その数日間は最低限の賃金をポケットマネーから補填していたと。素晴らしい判断でした。おかげで無駄な被害を防ぐことができ、監督不行届で領主の貴族籍も王族権限で除籍できました。感謝いたします」
「勿体無いお言葉です。ただ一つだけよろしいでしょうか?」
シオンの言葉に騎士団長と呼ばれたスネークが反応した。
「貴様、平民の分際で王女殿下に物申すつもりか!」
スネークの言葉を手で遮るとライラ王女は直答を許した。
「ありがとうございます。話と言うのは鉱山に魔族がまだいる事です。どうか討伐に王女様の力を貸して頂けないでしょうか?」
「ええ、無論ですわ。逆に事らからもお願いしたのです。鉱山の内部での戦闘ではAランク冒険者のあなたの方が詳しいでしょう。協力して対処に当たりましょう」
シオンはかしこまりましたと言って、王女に再度頭を下げるのだった。
それから作戦会議が始まり、次の日の朝から鉱山に入る事になった。
シオン達はカミーユさんの家で身内での話し合いをしていた。
「しかし、あの王女様も食わせ者だね。優しいだけじゃない。厳しい所も持っているね」
「だよなぁ。領主に追従していた不良騎士団を弾除けに使うとはね」
領主に追従して悪行を働き、王家の権威を失墜させた罪で処刑の判断を下したが、鉱山の魔族討伐に参加すれば命は助けると約束したのだ。これで不良騎士団は死ぬ気で頑張らなければならなくなったのだ。
エリザはカミーユに尋ねた。
「カミーユさん、手紙は読まれましたか?」
「ええ、スローにいる第二王子の考えている事は理解しました。まだ鉱山の魔族が倒されていないですが、先に結論を申しますと、今の状態では協力は不可能です」
エリザはやっぱりと落胆した。
ただシオンも当然だよね~と軽く言った。
「王女様が全部持って行ったから、街の人達も王女を支持するだろうね。もし第二王子の彼が私達にお願いせず、自分で足を運んでいれば違っていただろうけど、今回は王女様の1人勝ちだよ」
「これで王太子殿下の資金供給も減るだろうし、自分の支持者も増えて一石二鳥なわけだ」
「取り合えず鉱山の魔族をどうにかしてからの話だけどね」
騎士団がどれだけ当てになるのか心配なシオンだった。
???
「上手くいきましたな我が主人よ」
騎士団長のスネークは膝を付いて敬礼していた。
「ええ、各地に間者を放っておいてよかったわね。お兄様の資金源である街をそのまま私の勢力圏に加えることができたわ」
「前から黒い噂の絶えぬ人物でしたからなぁ~」
「ええ、ただ少し気になることもあるのよね」
ライラは少し考える仕草をしてスネークを見た。
「それはなんでしょうか?」
「あのクズ領主に税金の隠蔽などできないでしょう?誰か有能な人物が裏で操っていた可能性があるわ。恐らくお兄様だけではなく自分の所にも資金を移動させていた人物が」
スネークも思うところがあり返答した。
「それはやはり隣国の・・・?」
「そうね。証拠がないから確実な事は言えなけれど、各地で暗躍していた盗賊と同じ匂いがするもの」
「それらもあらかた片付けましたので、隣国の仕掛けた経済戦争も見直しに図られているはずですな」
2人はニヤリと笑った。
「これでかなりお兄様の資金と権力が削れたわ。国内の貴族達の根回しも順調だし、気をつけなければならないのは・・・」
「直接的な襲撃ですな。すでにライラ王女殿下が極秘で見つけた遺跡からのオーパーツである『魔法リング』は近衛部隊み配備しております」
遺跡で見つけたのは、指輪型の魔道具で。筋力増強や耐久力増加など能力を底上げする魔道具が見つかり、それを研究してある程度の複製も作れるようになったのだ。これがライラの切り札の一つである。
「明日の魔族の討伐で暴れなさい。あなたの実力を動向している奴らに見せつけるのよ」
「はっ!我が主人の命令しかと承りました!」
スネークの両手には10個のリングが嵌められているのだった。




