ボイコットしよう!
翌日になり、なかなか返事がなかった領主から昼頃になってようやく返事が届いた。
「いやー、クズバカカス領主とは聞いていたけど、ここまでとはねー」
シオンは手紙を読んで呆れた感じでいった。
「そこまでいってないわよ。でも、予想通りね」
手紙にはこのまま鉱山の発掘を再開しろと書いてあった。
「騎士団や領主の雇った傭兵達は?」
「動かす気がないみたい」
鉱山に魔族が居たこと伝えたよね?
「この領主には関係ないみたい」
さて、どうしたものか?
「逆に嫌がらせしてみる?」
「どうするの?」
シオンの一言に視線が集まった。
「例えば、街のみんなをこの街から脱出させるの。レザーやスローに集団で引越しするのよ」
「なるほど。ゴーストタウンとなったら領主も鉱山をどうにかしなければ、貴族の地位を剥奪されるかも知れないな」
思い付きで言ってみたけど、なかなか良い案では?と思った。
「面白い案だけどダメよ。ここのクズ領主なら、逃げ出す領民に騎士団を向かわせるわ。それに怪我人や病人もいて動かせない人もいるからね」
そうだよね~
やっぱりダメか~
「所で鉱山を再開しろって命令を無視したらどうなるの?」
「騎士団に命令して痛めつけられるかしら?」
「ぶっちゃけ、命を失うよりはマシかな?」
ピコーン!
「あ、思い出した。パパが言っていたストライキってやつをすれば良いんだ」
シオンの言葉にみんなが首を傾げた。
この世界ではストライキという言葉がないのだ。
どうしてシオンの父親が知っているのかというと、それはまたの機会に説明しよう。
取り合えずシオンは内容を説明した。
「開始の理不尽な命令や賃金が少な過ぎたりとか会社に不満がある時に、従業員全員で仕事をボイコットして、社員がいなければ会社は成り立たないよって脅しをかけて、交渉のテーブルに付かせることをいうの」
厳密には少し違うが、シオンの説明で大体の概要は理解できた。
「でも結局、武力にものを言われたら・・・」
「それは大丈夫。私達が守ってあげるから」
「確かに、魔族30体以上相手にするなら、ろくに訓練もしてない騎士団相手の方が楽だもんなぁ」
「多数戦闘はアイリスがいるから楽勝でしょう♪」
「任せて~」
カミーユはシオンの仲間達の異常さに薄々気が付いていた。
一般的に、数十人から数百人もいる騎士団に10人も満たない人数で戦おうと思うヤツなんていないのだから。
こうして、魔物だけではなく、魔族まで確認されたため、鉱山の採掘再開は、領主が鉱山の魔族を倒してからでないと無理だと返答して、カミーユは鉱夫達は自宅で待機を命じた。
その間の最低限の賃金は食料かお金かをシオン達が建て替えることで納得してもらった。
「お金はこういう時に使わないとね!」
「いや、普通に他人のためにお金を使おうって思う人は少ないよ。それこそシオンやカミーユさんのようなぐらいだよ」
「あら、そんなにおだてても何も出ませんよ?」
カミーユさんも満更ではなさそうだ。
「いやー、そんな聖女のような尊い聖人だなんて、照れちゃうなぁ~♪」
「うん、シオンは耳鼻科に行こうか?」
調子に乗るシオンにレイは頭が痛くなるのだった。
数日経って、何も利益がなくお金が入ってこなくなって初めて領主が街に視察に出てきた。
「どうなっている!最近、全然売り上げが入ってこないではないか!!!!!」
鉱山の入口に豪華な馬車でやってきた領主は、でっぷり太っており頭も禿げていて不健康そうだった。
そして誰もいない鉱山で怒鳴り散らしていた。
それをシオン達は遠目から見ていた。
「ねぇ、あいつ目が悪いの?誰もいないのがわからないの?」
「アイツが悪いのは頭だよ。目に見えているのに、頭で処理できず理解できないんだよ」
領主の周りにいた護衛の騎士団達もゲンナリしているようだった。
「領主殿、誰もいませんから、そんな大声で怒鳴らなくても意味ありませんよ」
「どうして誰もいないのだ!いつもなら何十人も奴隷のように働いているだろうが!」
こいつストライキの手紙読んでないのかな?
シオンは首を傾げたが、領主の側近っぽい人がコソコソッと報告していた。
「領主様、先日鉱山に魔族が出たので発掘できないと報告がありましたが?」
「それくらい覚えておるわ!だからワシは命じたはずだ。そのまま発掘せよと」
「いえ、その後です。魔族が居座る鉱山で仕事などできないため、領主様が魔族を討伐しない限り、仕事はできないと再度、連絡がありました。流石の鉱夫達も命が掛かっていますので、そのまま仕事はできないと感じたのでしょう」
俺の命令に逆らうとは、全員死刑だ!と息巻いている領主を宥めている側近も疲れ切った顔をしていた。
「・・・なんか大変そうだね」
「ああ、普通は甘い汁を吸おうと、悪徳貴族が寄ってくるんだが、余りにあの領主がバカ過ぎて付いていけないと、距離を取られている。今や王太子殿下の財布代わりになっているのにそれすら理解できていないんだ」
カミーユさんも軽いため息を付いて言った。




