ペットって何だっけ?
話していると、いつの間にか森の入口まで戻って来ていた。しかしそこで衝撃的な光景が広がっていた。
「あららっ、大勢死んでいるねぇ~」
武装している人物達が、ざっと見ただけでも15人ほど死んでいた。
「明らかにカタギじゃない。黒マントにフードで顔を隠しているし」
「そうだね。多分、この人達がエリザを攫って森に置き去りにしたんじゃない?」
!?
「確かにあり得る。こんな怪しい奴らなんて、ここいらじゃ見ないしね」
冷静に分析して話し合っているシオンとレイに、エリザが怯えながら言った。
「二人とも何を冷静に話しているんですの!こんなにたくさんの人が死んでいるんですのよ!」
エリザの言葉に二人の反応は淡々としていた。
「エリザこそ何を言っているの?人が死ぬなんて当たり前じゃない?」
「えっ……?」
何を言っているの?と言う表情でシオンを見たがレイが話した。
「贅沢な暮らしをしている貴族様にはわからないだろうね。街で暮らしていても、餓死で死んでしまう人間や、魔物に襲われて死ぬ行商人なんて、そこいらに溢れ返るように当たり前にいるんだよ」
!?
「な、なんですって……」
「平民はその日を生きるだけでも大変なんだよ。人の【死】なんてありふれているからね」
シオン達の言葉にショックを受けていたが、エリザはふと気付いた。
「はっ!?それよりどうしてこんな所でたくさん死んでいるんですの!?」
言われてみればその通りなのだが二人の反応は鈍かった。
「ああ、大丈夫だよ。この傷跡から原因はわかっているから」
シオンはエリザに見せるように死体の傷口を見せた。
「ひぃっ……あら?爪のあと?」
と、いう事は魔物に殺られたのかしら?
そんなエリザの言葉にシオンは正解!と答えた。
「ちょっと待ってて。連れてくるから」
「えっ、ちょっとシオンさん!」
連れて来るって何を?
隣のレイを見ても苦笑いをしているだけで答えなかった。
「見た方が早いからね。でも、不思議なのはどうしてエリザさんを殺さずに森に置き去りにしたのかだね。先に殺して森に捨てた方が楽だったろうに」
「本人を前に怖い事を仰るのね。でも、だいたいの予想は出来ますわ。殿下の命令で森に捨ててこいと言った命令を、忠実にこなしたのだと思いますわ。【騎士】にとって王族の命令は絶対ですから」
「騎士だって?」
「ええ、死体の中に騎士団で見掛けた顔が居ましたので」
「まさか騎士団に命じて暗殺までしようとするなんて、今の王太子殿下は想像以上にヤバそうな人物のようだね」
「少し前まではここまで酷くはなかったのです。意中の女性の出来た事と、隣国の使節団が来てから変わってしまったというか……」
レイはハッとなって見た。
「確か新しい交易の提携に向けての使節団って聞いたけど?」
「はい。話の内容はお互いの国にメリットがありまして、よかったのですが、今思えば我が国の方が少し条件がよかったように思えます。それに気をよくした殿下が、使節団を王宮内で客人扱いで滞在させておりまして……」
「来訪してからそれなりに時間が経ったと思うけどまだいるの?」
「いえ、ほとんどの使節団は変えられました。数人だけ、情報交換と本国の連絡係りのために残られた方がいるのです」
「その人物が王太子に何か吹き込んだと?」
「まだ私も確証が持てませんが、殿下が使節団の女性を重宝し始めているのは確かです」
なるほど。その女に何か入れ知恵されて、殿下はその話に乗った可能性があるのか。レイが深く考え出している時、シオンが戻ってきた。
「な、何ですの!それは!?」
シオンは立派な馬車を引いてきた。
しかしその馬車を引いていたのは馬ではなかった。羽の生えた猛禽類である【グリフォン】だったからだ。
「あれAランクの魔物グリフォンでは・・・?」
「ああ、そうだよ。こいつら馬車を盗もうとして逆にやられたんだ」
「お待たせ。やっぱりグーちゃんがやったみたい」
運転席からシオンは降りるとグリフォンを撫でた。
「森の入口で誰も居なければ欲しくなりますわよ。グリフォンが『騎獣』だなんて王族でも持っていませんわ!」
「ちゃんとドアに大きい紙で貼ってあったんだけどね~~」
シオンはドアに貼ってある紙を見せた。
『このグリフォンはAランクハンターのペットです。無理矢理奪おうとすると、手綱が外れるようになっており、暴れて殺されます。用事がある時は飼い主のハンターを待ちましょう!』
「…………なんですのこれは?」
「注意喚起のポスターだけど?」
エリザは余りにも頭の悪い文面に頭が痛くなるのだった。