予期せぬ出来事
モリガンの問い掛けに答えた。
「確かに予想外だったようね。私達は疫病の原因を探ってここにきたのよ」
「疫病の原因じゃと?」
自分は何もしていないのだがと、首を傾げた。
「本当に偶然だったのよ。ここの小川はエルフの国に繋がっていたの。そこに300匹以上のゴブリンの汚物を流せば、病気にもなるでしょう?」
おおっ!とモリガンは手を叩いた。
「なんと!妾も知らぬ間に、そんなことをしておったとは。本当に人生とは面白いものよ」
シオンはジリジリと間合いを取った。
「さてと、理由もわかったことじゃし、そろそろ殺るとしようかのぅ?」
ブアッとモリガンから殺気が放たれた。
シオンは冷静に状況を把握した。
「あら?あなたが戦うの?」
「ふむ、そこのドラゴンにやらせても良いぞ?ようやく『合成』が終わった所じゃからな」
シオンはドラゴンと魔族と戦って、どちらの方が勝算があるのか計算していた。
「じゃがのぅ?」
モリガンは指をパチンッと鳴らすとドラゴンの下にあった魔法陣が消えた。
「これは!?」
ゴゴゴゴッッ!!!!
眠っていたドラゴンがゆっくりと起き上がった。
グオオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!!
ドラゴンの咆哮に洞窟が震えた。
バサッと翼を拡げるとドラゴンは天井の穴から飛んでいった。
「さぁ!追うがよい!!!疫病でボロボロのエルフの国を守って見せよ!」
モリガンも翼を拡げて天井の穴から飛んでいった。
「ふぅ、取り合えず生き残れたわね。流石に魔族とドラゴンの二体相手に勝てないわよ」
「そうだね、だけど急いで戻らないと!」
「そうね。移動しながら話しましょう」
シオンはエリーゼに尋ねた。
「ねぇ、エリーゼさん、貴方はどうしたい?」
「それは、急いで戻ってドラゴンの討伐をっーーー」
シオンは首を振った。
「違うわ。女王をどうしたいかよ」
!?
「このまま放っておけばドラゴンに殺されるでしょうね。それで悲劇の女王として名を残すか、魔族とドラゴンを撃退して、法の下で女王を断罪するのか、娘であるエリーゼが決めなさい」
小走りで移動しながらエリーゼは答えをすぐには出せなかった。
「まぁいいわ。これはエルフの国の問題だもの。ただ、疫病の治療や支援物資の援助は無料でしたけど、ドラゴン退治はお金を貰うからね?」
「え、ええ、それは勿論です。出来る限りのお礼をお約束いたします。今のエルフの国は疫病のせいで、満足に戦える者が少ないです。どうかお力をお貸しください」
一度足を止めて、深く頭を下げた。
「わかったわ。やるだけやってみましょう。それにこの洞窟よりは街中の方が勝算が高いしね」
「どうしてですか?」
「まぁ、他のエルフの支援もあるけど、私達ハンターは素材を得るために魔物と戦うの。罠を仕掛けて有利な場所で戦うのを生業にしているのよ。倒せそうでも怪我を負いそうな場合は、撤退して極力、戦わないようにしているのよ」
「なるほど・・・」
「だから罠を仕掛けやすい街中は戦いやすいわ」
「でも、魔族がどこまで手を出してくるかだね」
レイの言葉に珍しくアイリスが口を挟んだ。
「多分、あの魔族は見ているだけで手は出してこないと思うよ」
「やっぱり?私もそう思うわ」
どうしてと、レイとエリーゼは首を傾げた。
「不思議な顔をしているわね。あの魔族と召喚者の契約は成立済みになっているわ。だから積極的に干渉してくる意味がないの。契約成立後は魔族は自由に行動できるし余程、依頼主を気に入ったとかじゃないとね。でも見たところ、あの魔族は愉快犯っぽい感じがしたから、あいつの機嫌を損ねない限り、手を出してくる可能性は低いと見て良いわ。警戒は必要だけどね」
「その洞察力は素晴らしいですね。私も見習わないと」
そういったエリーゼは再度、今回の騒動について自分に問い正した。女王である母は、私が疫病に罹ると、すぐに城の外に捨てた。汚物まみれになりながらも、必死に耐えたのは、自らを危険にさらしても私を助けようとしてくれた忠臣のためだ。為政者として緊急時の時に一部の民を切り捨てなければならないのは仕方がない。だけど、今回の騒動の元凶が女王なら話は変わる。
街に着くまでにエリーゼの気持ちが固まった。
きちんと責任を取らせることで、全ての禍根を断つ!
途中でゴブリンの死体を焼却する魔法にも力が入っていた。
エルフの国には目眩しの結界の他に、魔物を防ぐ結界も張ってあった。しかし、疫病で倒れた者が続出して、周囲から魔力を吸収する量も減っていた。そもそも、多くの魔力が減れば気付かれてしまう。城に特殊な黒魔術の魔法陣を敷いて、城にいる者から微量な魔力を吸収していたのだ。
そして魔力の供給が少なくなったという事は、結界も弱まっているという事で・・・・
シオン達が到着する前に、ドラゴンは結界を破壊するのだった。




