計算違い
周囲を警戒していたシオン達は地面に影ができた事で上を向いた。
「蝙蝠の羽根で青白い肌……魔族!?」
シオンは瞬時にその相手を理解して剣を構えた。
「ほう、流石はエルフの国を救った冒険者よのぉ?なかなかどうして、かなりの使い手と見た」
魔族は女性であった。
黒いレザー系のハイグレを身に着けたエロい身体付きの魔族だった。
「むぅ、その豊満な身体、羨ましい………」
ズコッとレイとエリーゼはなった。
アイリスはシオンを慰めていた。
「まぁまぁ、シオンも小さくないからね。人の好みそれぞれだから」
レイはいつもの様に頭が痛くなった。
「2人とも!魔族を前にボケはいいからっ!真面目にして!」
そんな漫才をしている姿をみて魔族の女は笑った。
「クハハハハッ、面白いヤツらよのぅ!」
「いえいえ、どうもお見苦しい所をお見せして申し訳ありません。それでは、これで失礼しますね♪」
シオンは何事もなかった様に帰ろうとするが───
「「待て待て!!!」」
何故か魔族と仲間から、待ったが掛かった。
「もう、なによ?」
「なによ?じゃないから!勝手に帰ろうとしないの!」
レイはシオンに拳骨を落として黙らせた。
「痛い!パワハラ反対!」
「話が進まないから少し黙ってて!」
レイは魔族の方を向いて尋ねた。
「うちの者が失礼した。姿を現したと言うことは、少しは話を聞かせて貰えるのかな?」
「そうじゃのぅ?そろそろコイツの準備もできた所じゃったし、話してもいいかのぅ?」
地面に降り立つとドラゴンの方を指差して言った。
「妾はモリガン、そこの者より召喚された者じゃ」
???
警戒しながらドラゴンを見ると、ドラゴンの頭に人の身体の上半身が付いていた。
「ひっ、なによあれっ!」
アイリスは余りのおぞましい姿に息を飲んだ。
「エリーゼ様、あの者に見覚えが………」
「え、ええ、女王の側近の1人だった者です」
モリガンはクスクスと笑いながら言った。
「なかなか、そちらの女王は我々、魔族の好む【黒い魂】の持ち主みたいよのぅ」
「どういう意味ですかっ!?」
エリーゼを挑発するかのように言った。
「今のエルフの女王は魔力が少ないようでの?黒魔術に手を染めて、周囲の仲間から魔力を吸収し、国の結界を張っておったようじゃ」
「そんな!?女王は代々、魔力の大き者が選ばれるはず!母の……女王の魔力が少ないなんて聞いたことがないわ!」
「そこの側近のエルフが全て話してくれたわ。女王の選定の儀式で不正を行い、今の地位に就いたが、魔力が少なく結界の仕事を行えなかったようじゃ。そこで黒魔術で周囲の魔力を吸収して、国の結界を張っていたようじゃな。元々魔力が少なく劣等感に苛まれていたらしいのぅ?」
エリーゼは何か言いたそうだったが、シリアスモードになったシオンが手で遮った。
(てかっ、いつもシリアスモードでいて下さい!)
「私としては周囲の魔力を吸収しても、女王としての義務を果たしていれば問題ないと思うけど?」
「そうじゃのぅ、確かにそうなのじゃが、そのカラクリに気付いた者がおったのじゃ。その者は女王に殺されたそうでのぅ?その婚約者であった、そこの者が、隠された手紙を読み女王の不正を知って、女王を恨んだのよぅ」
クスクスと愉快そうにモリガンは話した。
「言葉巧みに、この洞窟の結界は自分が張りますと言って女王から結界の水晶を預かり、秘密裏に結界の水晶を触媒に黒魔術を行なって、妾を呼び出したと言う訳じゃ」
「それで、どうして召喚者であるエルフがドラゴンと一体化しているのかしら?」
「簡単な事よ。妾を呼び出した時点で【贄】が、たりなんだ。故に自分自身を使って女王に復讐しようとしたのじゃよ。婚約者を殺されて、すでに生きる意味を失っておったからのぅ」
モリガンはドラゴンを見ながら言った。
「当初の作戦ではゴブリンを放って、混乱させた所をドラゴンが城を襲う手筈だったのじゃが、予期せぬ疫病の蔓延で、高みの見物を決めておったのじゃ。これが妾の目的じゃが、妾からも聞いてよいかのぅ?どうしてこの場所にきたのじゃ?」
この場所を突き止められた事もモリガンには予想外な出来事であり、計算違いであった。




